10話 VS災厄
復活したリッターは俺を視界に入れるとその頭を不気味に傾ける。
まるでこの獲物をどう狩ろうかを考えているようだ。
そのどこか人間じみた行動に嫌悪を抱きながら瞬きをする。
「はっ?」
瞬きをした本の数瞬、その刹那の時間にリッターは既に目の前に移動していた。
その鋭利な四本の剣が俺を捕らえる。両腕を交差して防御するがあまりの衝撃に骨が軋む。
(重っ!)
吹き飛ばされた体は瓦礫の上を転げ回る。
なんとか態勢を立て直すも、視界が赤く染まっており足がふらつく。
手で痛む部分を触れると、血がべっとりとついていた。
意識が混濁するが、致命傷ではない。まだなんとかなりそうだ。
「これはAランクじゃねえだろ・・・」
明らかにAランクの域を超えている。
本当はリッターではないのではないか?とも思うが、明らかに容姿が酷似しているのでその線は薄い。まあ、何故か手が増えてしまっているが、そんなものは些細なことだ。少しイメチェンしてみたのだろう。
そして先ほどの奴の移動だが、【交換】で俺の前にあった瓦礫と位置を入れ替えたことは分かる。問題は最初よりも能力範囲が広がっているということだ。
ようするに、俺は常に全体を意識しながら奴と戦わなければいけなくなった訳だ。
思考のさ中、奴の姿が掻き消える。
五感に全力を注ぎ、場所を把握する。
背後に気配を感じると、回し蹴りを叩き込む。
「しまッ?!」
しかしそれは怪物ではなくただの瓦礫だった。連続で能力を使うことで再度位置を反転させたのだろう。
「がッ!」
背後に移動していたリッターが俺の背中を裂く。
肉が切られる不快な感触と激痛が走るが、関係ないとばかりに振り向きざまに全力で殴る。
「山砕き!」
地を割り巨大なクレーターを作るが、そこにリッターの姿はない。
「ッ?! どこ行った!」
辺りを見回すと、頬に走る痛烈な一撃。そちらに目を向けると俺の顔に蹴りを叩き込むリッターの姿があった。衝撃で浮いた体を立て直し再度確認するが、そこには既にリッターはいない。
「上か!」
薄っすらと映る影に気づき顔を上げる。
剣を振り下ろそうとするリッターの姿を視認する。しかし、攻撃する暇もなく姿を消すと、俺の目の前に現れる。横なぎに振られる一撃に俺の体は耐えきれず吹き飛ばされた。
「はあはあ・・・」
瓦礫の上で浅い呼吸を繰り返す。
まさかここまで派手にやられるとは・・・
蒼がいなくて良かった。こんな姿は絶対に見せられんからな。
「ふっ・・・ははははははは!!」
そして、大きく笑い声を上げるとゆっくりと立ち上がる。
俺の異様な雰囲気を警戒しているのか追撃はやってこない。
「やめだやめ、もうさっさと終わらせよう」
そう言うと、俺の能力の真価を発動する。
「位階上昇――起きろ、戦神」
そう呟くと、隼人の髪は白く染まり、体からは純白のオーラが現れ鈍く揺らめく。
その容姿は人間離れしており、どこか人間ではないような雰囲気を醸し出している。
マルス――それは、ローマ神話における戦と農耕、そして火星を象徴する神である。
軍神としてグラディウスとの異名を持つその神は勇敢な戦士として慕われ、多くの人々に崇拝され主神と同様に扱われていた。マルスは元々は農耕神で、勇敢に戦い領地を増やした初代ローマ建設者であるロームルス王と像が重なり、後に軍神としても祭られるようになったと考えられていた。また、元は地下神であったため、地下に眠る死者との関連づけから軍神モートになったとする説もあった。
「来い、三下」
「ギギャアアアアアアア!!」
隼人の言葉に激昂したのか、はたまた気合を入れるためか、今まで開かなかった口を開き咆哮を轟かせる。
己が能力を使って隼人へと近づく。それも一度や二度ではなく絶え間なく周囲の物体と己の位置を反転させて撹乱する。対する隼人は腕を組み静かに目を瞑る。
隼人の背後に移動した瞬間、その首を切断するためにその剣を一閃する。
しかし、剣が接触する寸前、隼人の姿は立ち消え剣は空を切った。
「どこ見てんだ」
逆方向からする隼人の声に返す刀で切ろうとするが、それは隼人には届かない。
「おいおい、自分の状態も気づかないのかよ」
隼人を攻撃しようとしたリッターの左腕は二本とも半ばから千切られるように消えていた。
隼人は唖然とするリッターの顔に裏拳を叩き込む。構えも何もないそれだったが、その威力は絶大でリッターの頭部を豆腐のように破壊した。
ここで問おう。
主神としても崇められるほどの神の力が目の前の怪物に遅れをとるか。
答えは――断じて否である。
今から始まるのはただの蹂躙だ。
リッターはやはりその腕と頭部を再生して再度復活する。
隼人が腹部を殴ると上半身が吹き飛び、また再生。上から圧殺して殺しても残った残骸から再生。そんな殺戮を繰り返すこと数十。
「飽きた」
隼人はそう呟くと、ここで初めて構えをとる。
右足を引き左手を前に出す。
「ふ~」
目を瞑り、軽く息を吐くと目をゆっくりと開きリッターの姿を見据える。
ふらふらと揺れているが、尚も体を再生させて復活しようとしているようだ。
リッターは隼人の構えを見ると、隼人へと疾走しその剣を振るう。
「絶拳」
己へと振るわれる剣を視界に収めながら、右手を突き出す。
瞬間・・・リッターの姿が完全に消失した。
絶拳、それは触れた相手を無条件に消失させる一撃だ。
当然、簡単に放てるような一撃ではなく、己にも多大な負荷をかけることになるが、今回は仕方なかったといえる。
俺はリッターの姿がどこにもないことを確認すると、今度こそ半壊した警察署へと戻っていった。
次話から物語が加速します。
マルスについての表記はwikipediaから引用しております。
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%BA&oldid=75962844
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