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気が付けば、先週で連載一周年でした!!
いつもリリーたちの旅路を見守っていただき、心からありがとうございます^^
近々、活動報告に恒例の感謝ショートストーリー(SS)を載せるのでお楽しみに♪
しとしとと雨が降っていた。室内に。
マクウェルはついに自分の頭が熱気にやられておかしくなったかと思った。
幽霊館に残っている魔法使いたちの中で火事を鎮火する余力が残っている者などいなかった。
魔物たちと戦っていたベシルバードやフロリンズ教頭も、マクウェルと同じように呆気にとられている。
「雨、だよな。これ……」
「でも、こんな魔法を使えるひとなんて、もう誰も……」
マクウェルと一緒にいたダイスとティナも、炎の中を逃げ惑って煤ぼけた顔で呟いている。
炎の勢いが弱まって煙が晴れるにつれ、大広間の全貌が徐々に明らかになってきた。
自分たちと同じようにそこかしこに逃げ惑ったり力尽きたりしているエルバンス魔法学院の教師たちの姿が見えた。
魔物たちもいたが、彼らも突然の雨に驚いたのか、しばし攻撃をやめてたたずんでいる。
エルシアは……──
魔物たちを引き連れて出口に向かっていた足を止め、可憐な少女の身体で振り返った。
表情は少女らしからぬ醜さに歪んでいる。
歓喜とも憎悪ともつかない笑みが閃いた。
「ふふ。あはははは! 性懲りもなく……!」
エルシアが振り返った視線の向こう──
炎と煙がまだ立ち上る大広間中央に、ふたつの人影がふわりと降り立った。
黒髪の少年と赤い髪の少女──頭上には蝶の羽を大きく広げた娘が浮かんでいる。
ダイスとマクウェルは信じられない気持ちで少年と少女を見た。
感極まって泣き笑いになった。
「アモル!」
「リリーさんっ!」
アモルの描いた小さな魔方陣に降り立って、アモルとリリーは友人たちの無事を確認するように小さく頷いた。ほっとしたように。
すぐにその表情は引き締まり、魔物を引き連れた少女に射抜くような眼差しを向ける。
ガブリエラ・モンドではなく、正確には、その中に宿るエルシア・ワーグナーを。
「奥様……いいえ、ワーグナーの魔女。アモル様を利用した貴方を、私は絶対に許さない!」
「ふふふ。使用人の分際が生意気な口をきいたものね! 随分と見くびられたこと。ドブネズミ並みの生命力だけは認めてあげるけど」
くすくすと嗤いながら、少女の身体で優雅に笑む。
「貴方ごときに何ができるっていうの? それとも──その火を消してる弱そうな『お友達』がわたくしと魔物たちに対抗する力を与えてくれるとでもいうつもりかしら」
……いいえ、とリリーは答えた。固い表情で。
悪魔からの提案を、リリーは選ばなかった。
エルシアに対抗する魔女になることも、できた。
結果的に、たとえ魂が闇に葬られようと、それでアモルの夢を守れるのならそうするべきだったのかもしれない。
けれど、リリーはそうしなかった。
少年の夢を守るのではなく──
少年の夢を壊すために、戻ってきた。
リリーの返事を聞いて、エルシアは残酷に笑った。
「ふふふ。あはははは! ……まぁ、そうでしょうね。伝説の悪魔に魂を売り渡しでもしない限り、貴方たちに勝ち目はないわ。もっとも、そんな都合のいいお伽話があればの話だけど!」
愚かな子たちね──と口元を醜く歪ませる。
「いい加減、もう夢から醒めたでしょ? 魔法は魔法使いを幸せにしてくれない。魔法使い協会にいいように利用されて、愚かな民の生け贄にされるだけ。……なら、そうなる前にわたくしたち魔法使いが世界を支配するだけのことよ! わたくしには、もうその力がある。無尽蔵な魔力の源泉が。この世界を蹂躙する魔物たちが! 今更、無様に足掻いたところで、もう誰にもわたくしを止められはしない!」
リリーは無感動な眼差しでエルシアを──ワーグナーの魔女を見た。静かに口を開いた。
「……確かに、そうなのかもしれない。誰かの幸せの陰に、誰かの犠牲がある。少ない魔法使いたちの命を危険に晒して、大勢のひとが助かるようにできてる」
──それは、この世界の縮図にも似て。
生き延びるために子どもを売ったり殺したりする親たちや、貧困のために、勉強の機会すら奪われる子どもたち。
弱者や少数派が虐げられて、それでも素知らぬ顔で平然として、何も変わらない世界。
……でも、何が自分の幸せかを選ぶことはできる。
「私たちはもう、自分で自分を幸せにできる。この世界を貴方の好きにはさせない!」
リリーの身体から魔力が陽炎のように立ち上った。
魔力は、リリーの頭上にいる娘に注がれている。
娘の背中で、蝶の羽がぐんぐんと大きく伸びていった。
「──っ?! 何をするつもり?」
ここにきて初めて、エルシアが顔色を変えた。
優しくて温かな波動が大広間全体を包み込んでいく……まるで巨大な揺り籠のように。
この世界に魔物を解き放つわけにはいかない。
復讐を誓うワーグナーの魔女の手に落とすことも。
不幸な境遇をただ恨み、憎む、無力な子どもではなく。
ありったけの魔力をこめてリリーは叫んだ。
自分の幸せを、この手で掴み取るために。
「──この世界から『魔法』を消滅させて!」




