↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いと業火の娘  作者: 深月(由希つばさ)
第6章 断罪の鎌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/61

6-6

「ぐっ……! ゲホッ、ゴボッ……!」


「おいっ……しっかりしろ!」


「みんな、気を確かに……魔法を維持するんだ。フロリンズ教頭とベシルバード閣下に続け! ……ぐあぁぁっ!」



 一人、また一人と、エルバンス魔法学院の教師たちが倒れていった。

 ある者は魔力切れを起こし、ある者はアモルが巻き起こす雷の魔法の余波を食らって。

 先陣を切って水の魔法で対抗しながら、ベシルバードが口元に淡い苦笑をにじませた。



「……ふむ。さすがに、そろそろ限界かね」



 問いかけた相手は、背後にいるフロリンズ教頭ではなく……──

雷(・)の(・)魔(・)法(・)を(・)正(・)面(・)か(・)ら(・)放(・)ち(・)続(・)け(・)て(・)い(・)る(・)黒(・)髪(・)の(・)少(・)年(・)だ(・)っ(・)た(・)。



「はぁっ……はぁっ……はぁっ…………」



 アモルは、今や、血の気の引いた蒼白な顔で息を切らしていた。

 雷魔法の威力が徐々に弱まり、ベシルバードたちの水魔法に押し戻されていく。



「アモル、何をしてるの。あと少しなのよ。もっと魔法を強めなさい」


「……っ! ……くっ!」



 胸元に銀色の香炉を揺らす女が叱咤(しった)する中、アモルの口からゴボリと鮮血があふれた。

 真っ赤な液体がパタパタと足下に落ちて、くすんだ絨毯(じゅうたん)に染みを作っていく。

 その様子を冷静に見てとったベシルバードは、ニヤリと残忍な笑みを浮かべた。



「どうやら肉体の方が異界のエネルギーについていってないようだな。……そろそろ終わりにするとしよう」


「……!? 何、を」



 どこに、そんな余力を残していたというのか。

 ベシルバードが水魔法に魔力を注ぎ込むと、濁流(だくりゅう)にすぎなかった水が龍の姿に変形した。

 エメラルドの鱗(うろこ)が神々しいほどの光を放ちながらアモルと女に押し寄せる。

 アモルも弱りつつある雷魔法で迎え撃とうとするが、間に合わない。

 威力を相殺しきれずに、アモルは水龍の攻撃をまともに食らって吹き飛ばされた。



「ぐっ……うぁぁっ!」



 必死に身体を起こそうとするが、異界のエネルギーにさらされ続けて無理をした身体が言うことをきかない。

 木札に伸ばそうとした手が小刻みに震え、貧血を起こした視界がぐらぐら揺れた。

 戦う理由があった。

 どうしても、守りたい何かが。

 こんなところで負けるわけにはいかない……のに。



「はぁっ……はぁっ……は…………」



 想いに反して、泥(どろ)のような疲労感に意識を刈(か)り取られそうになる。

 奥歯を噛みしめながら、アモルはベシルバードを睨(にら)みつける。

 ……睨(にら)みつけることしか、できない。

 倒れ伏したアモルたちの正面には、水の龍が鎌首をもたげて攻撃の命令を待ちわびている。

 まるで獲物を狙って舌なめずりする蛇(へび)のように。

 ホールの入口で状況を見ていたマクウェルたちが色を失った。



「ちょっ……まずいよ、あれ」


「逃げろ、アモル!」


「お父様、やめてぇぇ!」



 愛娘の懇願(こんがん)を聞いても、ベシルバードは止まらない。

 魔法使い協会(ギルド)の上議員長として、冷徹に靴音を響かせた。



「誰かの幸せのために、誰かが犠牲になる──それがこの世界の真理だ。若き魔法使い」



 一歩、また一歩と距離を詰める。

 昼下がりの散歩と何も変わらない、穏やかな足取りで。

 ──そのくせ、断罪の鎌を背負った死神のように。



「未来ある若者の命を散らすのは本意ではないが、これ以上、ワーグナーの魔女の思い通りにさせるわけにはいかん。世界のための尊(とうと)い犠牲(ぎせい)だ。さらばだ──アモル・ワーグナー」



 水の龍が、牙の生えそろったあぎとを大きく開け放つ。

 最期のときを覚悟して、アモルはその残忍で美しい龍を見つめた。

 この後に及んで、大切なひとの顔も、何も浮かばない自分を哀しく思いながら。

 自分は何かを残せただろうか?

 この世界に生きた証として……。


 そのとき、視界に見知らぬ少女の背中が割り込んだ。

 燃えるような赤い髪。胸元の開いたドレスではなく、エルバンス魔法学院の制服を着て、大人になりきらないしなやかな手足を広げて攻撃をさえぎろうとする──そんな抵抗も水の龍の前には無力だと知りながら。


 その瞬間。

 アモルのすみれ色の瞳に、少女の哀しげな笑みが、確かに映った。



  ──アモル様、逃げて!!



 アモルはすみれ色の瞳を見開いた。

 必死に手を伸ばしたアモルの目の前で──

 少女の華奢な身体が衝撃に吹き飛ばされて宙を舞った。



「──……リリー!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=669333695&s
― 新着の感想 ―
[一言] 最後の「リリー!!」が切なすぎる(´;ω;`)ブワッ ようやく思い出したけど、リリー……(´;ω;`) どうなっちゃうの!? 気になります! 水が龍になる演出も描写もかっこよかったです…
[良い点] リ、リリーッ! ヒロインらしく、美味しい所を持って行くじゃないか……ではなく! え、衛生兵ー! 風魔法急いでー! でも、みんな魔力切れ起こしてたらどうしましょう。 折角アモルの瞳に宿った…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。