レアカードよりレア情報
「どこやっちゃったかな~」
望月郁は、押し入れの中をなかば荒らすように目的のものを探していた。
目的のものというのは、小学生の頃に集めていたカードゲームのカードだ。
バイトも出来ない中学生の寂しいふところに、少しでも…と小遣い稼ぎでカードを探していた。
友人が言うには、レアカードは数千円で売れるらしい。
「あ、この中かな?」
スチール製の菓子箱を見つけ、中を開けてみる。
「なんだ、写真か…」
即座に興味を失ったように肩を下げる。
中に入っていたのは、シングルマザーの母と映る自分や親戚との写真ばかり。
特に思い出に浸る気分でもなかったので、すぐに押し入れに戻そうとしたが…
「ん?」
無数の写真に覆い隠されるように、1冊の手帳を見つけた。しかも、鍵付き。
表面は合皮で作られていて、開かないよう鍵とつなぎになっている部分も合皮だ。
なんとか中身を見られないか指で手帳の間を引っ張って覗き見ようとしたが駄目だった。
………気になる。
そう思うと、もう気になって仕方がなかった。
中身は、なんの変哲もないただの日記帳かもしれない。でも、気になるのだ。
「………。」
郁は立ち上がると、自分の机の引き出しからハサミを出した。
悪い…そう思ったけど、気になるほうが勝ってしまった。
シングルマザーの母は、自分の話をあまりしない。
なんとなく、郁も聞いてはいけないような気がした。
物心ついた時から、父親はいなかった。
離婚したとは聞いていたが、それ以上、母は多くを語ろうとはしなかった。
だから、余計に気になってしまったのだ。
この手帳に自分の出生に関する何かが書かれているのではないかと…。
「ごめん、母さん。あとで、ちゃんと謝るから」
ぽつりとつぶやき、郁は手帳のつなぎにハサミをいれた。
***
合皮はなかなか手ごわかった。
ハサミをいれど、なかなか前には進まない。
それでも、根気よく少しずつ切り込みを入れていき、ようやく切り終わったころには手が痺れていた。
でも、これで中身を見ることが出来る。
郁は自然と正座をして、手帳にそっと手をかけた。
「…母さんと、父さん?と、僕?」
手帳の最初のページには写真が貼られており、病院らしき場所で母とその腕に抱かれた赤ちゃん。そして、一人の男性の姿が映っていた。
さらに、写真の下には鉛筆書きで、
<遥、誕生。光児村診療所にて>
と、書かれている。
「遥、って誰?」
写真に写っている女性は、確かに母だと思う。随分若いが、面影はちゃんとある。
では、この人のよさそうに微笑む男性は?赤ちゃんは?
「………。」
次のページ次のページへと郁はどんどん開いていく。
<遥>と思しき人物は、ページが進むごとに成長し、5、6歳くらいになったころに…遂には…
<郁、誕生。光児村診療所にて>
自分が登場した。
最初のページで見た写真と同じような構図で、母に抱かれた自分と、微笑む男性と<遥>が映っていた。
「え?なに、僕って兄さんがいたの…?」