八話『勇者、俺』~東の塔へ~
再び太い門番に声をかけられたのを俺はスルーし、東の塔へと向かう。
頼むからまだ誰も鍵を手に入れていないでくれよ、と願いながら塔に入ると、きちんと門は閉ざされたままだった。
門番の姿はない。そういやその姿を見なかったが、途中で息絶えていなかったということは、無事に自力で帰ることが出来たんだろう。
きっと滅茶苦茶怒られるんだろうな、と俺は門番に同情しながら、門に張り付いている奴に「おい、どけ」と声をかける。
鍵穴に木の棒を差し込んでいたとんがりの襟部分を掴み、俺は思い切り引き剥がす。とんがりは俺の手の中にある鍵を見て、喫驚する。
「お、お前、鍵を手に入れたのか?」
俺は無視して鍵を開けて塔の内部に入る。あんな奴に、俺の喉の筋肉を使うだけ無駄だ。多分、帰りに襲ってくるだろうが、その時はその時だ。あんな奴、どれだけ不意をついてこようが俺の敵ではない。
塔の内部は、外観と同じく円状になっており、内壁にそって螺旋階段がずっと続いていた。見上げると、果てしなく続く階段はまるで渦のようにとぐろを巻いていて、じっと見つめていると吸い込まれそうな気分になってくる。
俺は階段を上がり始める。俺の足音がコツコツと壁に反射してよく響く。何だか心地がいい。どんどん上に行くこの感じ。レベルアップしている感じ。
でも、すぐに飽きる。足も痛くなってきた。息も切れてきた。しまいには、尻が痛くなってくる。意味もなく石の壁を手で触りながら上る。石のブロックをこんなにも高く積み重ねて、よく倒れないなと思う。ブロックが凄いのか、支える大地が凄いのか。まあ、どっちでもいいけど。
ようやく頂上に着くと、俺は膝に手を置いて息を整えた。ふと見ると、鉄製の箱が置いてある。俺は箱に近付き、そっと開けてみる。中には、見たこともない紋章が彫られた青い盾が入っていた。
これが勇者の盾か。
しかし、思っていたよりも年季が入っている気がする。俺は取り出して手に持ってみる。うん。悪くはないけど、思ったよりもしっくりはこない。あと、地味に重い。これだけ重くて厚ければ、強度は充分だろう。
俺は盾を置き、一息ついた。手すりにもたれて外の景色を見下ろす。そこからの眺望は圧巻だった。海、山、川。平原に茂る草木が、風にその頭を揺らしている。それは風の紋。海に吹く風とは異なる顔を覗かせている。
小型の魔物がウサギを追いかけ、失敗している。それにしても、相変わらず魔物は気持ち悪い。虫と数多の獣を掛け合わせて適当に割ったような姿。
何が気持ち悪いって、個性溢れる色彩豊かな身体と、あの口許からたくさん出ているクネクネしたミミズみたいなやつ。そりゃウサギも本気で逃げるわ。
俺は火照った身体を風で冷ますと、階段を下り始めた。レベルダウンしているみたいで不快だったが、やはり何でも上るより下る方が楽だ。俺は数段飛ばしながら一気に下りてしまう。盾の角の部分が膝に当たって痛いけど、我慢。
今、他の受験者達は必死になって東の森で中型と戦っているんだろうな、大変だな、と思いながら俺は階段を下り切った。またいつかジョウを連れてきて登ろう。あの眺めは一度見ておく価値がある。
塔を出るとそっと俺に近付いてくる影が見えたので、寸前でその影の攻撃をかわし、腕を掴んでそのまま背中越しに投げ飛ばす。
こんにちはとんがり。あまりにも惨め過ぎて一瞬放っておこうかとも思ったが、今後の関係性をはっきりとさせておくためにしっかりと締めることにした。
早速、俺は手に入れた勇者の盾でとんがりを殴打する。さすがは勇者の盾。数回殴っただけで、とんがりは泡を吹いて気を失ってしまった。
ものには限度があるので、締めるのはそのあたりにしておいて、俺はそのままグシウムへと戻る。
太った門番が盾を見て驚いた顔を浮かべたので、俺は塔の方を指差して「体調の悪そうな奴が塔の前で倒れている」とだけ伝えて宮殿へと向かう。
宮殿へと入ると、金髪の騎士が俺を見て目を開き、そして手を叩いてくれた。俺はエヘヘと後頭部を撫でながら、広場へと向かう。出てきた大臣へと盾を掲げると、大臣は目を細めて頷いた。
「これにて試験は終了とする。合格者を、陛下の下へと案内しろ」
大臣の甲高い言葉と共に、どこかで鐘の音が鳴り響いた。やったぜ母ちゃん。俺、騎士になれたよ。近所の人に自慢出来るね。




