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五十二話『勇者、僕』~あなたの物語~

 この物語は、あなたの物語でもある。


 そう、これを読んでいる、あなたの。


 今、あなたはどこで、どうやってこの文字を追っているのだろうか。


 木に囲まれた家の中、椅子の背もたれに身体を預け、紅い葡萄酒を片手に転がしながらだろうか。馬車に揺られ、日の光を帽子のつばで隠しながらだろうか。


 もしかしたら遠い未来、ずっと離れた東の大陸で、想像も出来ないような形なのかもしれない。


 ただ、一つ確かなこと。それは、あなたが今、この物語の扉の前に立っているということ。そしてこれから扉を開き、足を踏み入れるということ。


 そっと文字を指で撫でてみて欲しい。きっと、僅かながらに温もりを感じるはず。


 そう、この物語は、『今』のあなたに繋がる物語。


 だから、あなたの物語でもある。


 この物語は未完である。しかし、それは決して不思議なことではない。この物語が終わる時、それはこの世界が終わる時、もしくは、あなたの世界が終わる時なのだから。


 この物語は今も続いている。そう、あなたが今、生きているその世界で。


 それでも、この物語は誰かが筆を取り、認めなければならない。


 物語は時に、大きな『転』を迎えることがある。例えば、人類が言葉を得た時。火を使い始めた時。農耕牧畜を始めた時。内側にいる神を見つけた時。

 

 そして、魔物が現れた時。

 

 あなたがこれを読んでいるということは、おそらくあなたは、あなた達は、この物語の『結』を知っていることだろう。魔物という存在によって、翻弄された人類と世界。そして、その結末を。


 あの時、世界で、何が起き、誰が、どうして、世界を繋いだか。それを記すことは未来への大きな財産となる。


 また、真実を伝えることは、歴史を繋ぐ者の役目でもある。


 世界は不変ではない。この物語が閉じられたとしても、そこにはまた新たな物語が始まる。その物語を歩く際、ほんの僅かでもいい。


 この物語が、あなたの、あなた達の背中を押す力になれば、それはとても幸福であり、光栄なことである。





 この物語の主人公は白髪の少年である。そして、この物語にはたくさんの彼を支える脇役が登場し、そして、背景には数多の描かれない人物達も存在する。


 しかし当然、その数と同じだけの主人公が存在し、その主人公達の中では、白髪の彼は脇役、乃至は描かれない人物となる。


 あなたの世界ではあなたが主人公で、その他がたくさんいるように、白髪の彼が主人公であるこの物語にも、その他がたくさんいる。それはつまり、この物語だけが当時の世界の全てではないということ。


 あくまで、欠片に過ぎないということを、あなたには理解して欲しい。世界は一人の勇者によって繋がれるわけではない。遍く存在する主人公達の物語が集まった結果が、あなたの今いる、世界なのだ。




 前置きが長くなってしまったが、ここからあなたは過去の物語へと旅立つ。


 尚、断っておくが、ここからは真実のみが描かれる。そこには一縷の嘘も混じっておらず、あなたにはありのままの心で、この物語を歩いて貰い、そして感じて貰いたい。


 この、混沌とした、混じり気のない世界を。


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