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五十話『勇者、わたくし』~娯楽の町パラメ~

 砂漠の湿地帯は、ラハットの想像を大きく超えるものだった。


 乾季である今は、砂漠の全ての生き物達が、水を求めてこの湿地帯へとやってくる。


 グシウムの行商人が言っていた通り、ここではライオンが泳ぎ、さらに象やカバ、ヌーの大群、そして魚やワニ、鳥達までもが集まり、まるで世界中の大地を凝縮したような、そんな光景が広がっていた。


 兵士達は即席でいかだ舟を作り、獣や魔物と戦い、そして時には数が多いせいか、互いに喧嘩することもあった。


 しかし、湿地帯を横断した数十日は、この二十六名の絆を深めるには充分であり、また、これまで小さな世界の中で生きてきたラハットとルインにも、大きな影響を与えたのは間違いないだろう。


 水平線に沈む夕陽によって並べられた、あの二十六の影を、ラハットは一生忘れることはない。それだけは確信を持って言えた。


 湿地帯を抜けると、ラハット達は互いに抱き合って喜んだ。そこには、貴族の令嬢も、王室の騎士も、使用人も兵士もいなかった。


 全員が互いを同じ立場である仲間として認め合い、讃え合い、そして労った。


 そこからしばらく歩いたところに、パラメの町はあった。入る前から、賑やかな音が聞こえ、華やかな雰囲気が漂っていた。


 町に入ると、カイは入り口近くにいた、口の上に大きな黒子がある男に訊ねた。


「なあ、ここはどんな町なんだ?」

「ん? キミ達は服装を見るに砂漠、それも湿地帯から来たんだね。大変だっただろう。でも、ここはそんな疲れも吹っ飛ぶ娯楽の町、パラメさ」

「娯楽の町?」

「ああ。別名、ギャンブルの町とも言うね」


 ギャンブルか。残念ながら、ラハットはギャンブルには興味がなかった。カイも同じく琴線に触れなかったようで、そのまま流れるように本題に入った。


「あんた、勇者の剣を知らないか?」

「勇者の剣? ああ、そう言えば最近、そんな噂が流れているな。なんでも、ここからさらに東に行ったところの神秘の森の奥にあるとか」

「それは本当か?」

「さあ、あくまで噂だからね。でも、興味本位で行くのはオススメしないよ。なにせあの森は深いし、おそろしい魔物がいるなんて噂もあるから」


 カイは「ありがとよ」と男に言うと、振り返って全員に指示を出す。


「ここで一泊して、明日、その森に向かう。町を散策するのはいいが、それまではギャンブルは禁止だからな。では、各自、身体を休めるように」


 各々の返事を聞いて、カイは一人、町の奥へと進んでいく。それをルインは小走りで追いかけ、カイの隣に並ぶ。


 そういえば、ルインが被っていたあのつばの大きな帽子はどうしたのだろう。いつから被っていないか、それも思い出せないくらい、ここまで数多の経験をしたということか。


 さて、とりあえずぶらぶらしようか。ラハットがそう思って歩き出すと、ふと、ラハットの裾が誰かに引っ張られた。


 見ると、それは恥ずかしそうに俯くルダだった。


「どうかした?」

「え、えっと、その……、服を買いたいんだけど、一緒に服、見てくれないかな、と思って。駄目、かな?」


 ルダの萎んでいく語尾に、思わずラハットは小さな笑みが漏れた。


 ルダとは湿地帯を抜ける間に随分と打ち解け、言葉遣いも軽くなった間柄だったが、ルダはまだ人への頼み事は気軽に出来ないらしい。


 それに、ラハットとの距離は縮んでも、ルダの人見知りが直ったわけではないので、一人で買い物をするのは厳しいのだろう。


 ラハットはルダに手を差し伸べた。


「いいよ。じゃあ、行こうか」


 ルダは小さく頷き、そっとラハットの手を取った。



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