二十九話『勇者、わたくし』~ルイン・オルデルク~
グシウムを出てから次の町までは二日ほど歩いた。ラハット達だけならもう少し早く次の町に着けただろうが、ルインの体力のことを考えて小休止を挟みながら進んでいたので、思ったよりも時間がかかった。
立ち寄った町で休憩を取ると、一行は北へと向かった。ラハットは魔物との戦闘を警戒していたが、運がよかったのか、そこからしばらくは魔物とも出会うことなく、二つの町と一つの村を順調に経由した。
その頃には四人での旅も違和感が少なくなり、ラハットも徐々にではあるが、他の三人の人間性がわかってきた。
ルインはお嬢様、カイはお調子者、ルダは恥ずかしがり屋。
勿論、彼らという人間がそんな簡単な一言で片付けられる単純な人間だということではないが、良くも悪くも、形容し易いくらいの個性には溢れていた。
その中で意外だったのは、ルインだった。正直、ラハットは旅の始め、ロビンの言葉を警戒し、ルインの我儘に振り回されることを覚悟していた。
実際に振り回されることもしばしばあったのだが、ルインは思ったよりも不平や不満を言わなかった。何か不都合なことがあっても、今の状況からそれが致し方ないことである旨をカイが理路整然と説明すると、ルインはそれをすんなりと受け入れた。
どうやら、カイが言った通り、ルインはとても素直な性格の持ち主のようだ。故に、思ったことは何でも言ってしまったりするものの、彼女にはまるで幼い子供のような、そんな無垢なところがあった。
立ち寄った町村では勿論、勇者の剣と魔王に関する情報収集に努めた。すると、砂漠の方で、ラハット達と同じく勇者の剣を探していた四人組がいたとの情報を手に入れた。
おそらく先に出た彼らのことだろう。ということは、やはり勇者の剣は東の方にある可能性が高い。
ラハット達一行は、当初の計画通り、北を迂回して東に向かうことにした。
やがてラハットも踏み入れたことのない地域に入ると、平原が続いていた道が徐々に荒廃し、草木の姿が見えなくなった。赤い砂を纏った突風が、時折ラハット達の進行を妨げる。
砂漠に近付いたのだろうか。そう思っていた矢先に、その村は現れた。とても小さく、言ってはなんだが粗末な村。
ラハットは地図を確認して首を傾げた。どういうことだろうか。地図にある村とは、少し様子が異なるようだ。
「酷い村だな。本当に人が住んでいるのか?」
カイが顔を歪めてそう言ったが、誰も反論する者はいなかった。とても人が住んでいるとは思えない。砂が吹き荒れ、並ぶ家屋には穴が空き、納屋などは壁が剥がれ、壊れている。
まるで嵐でも通り過ぎたような、そんな有様だった。
「とりあえず、入ってみましょう」
ルインが一歩踏み出した時、カイが「待て」とルインを止めた。カイは目を細め、じっと村を見渡す。
「様子がおかしい。張られている」
ラハットも村の中を注視する。確かにカイの言う通り、納屋の陰や家の裏から、人の気配がする。こちらの様子を窺っているのか。もしかしたら、ここは盗賊のキャンプなのかもしれない。
ラハットは震える手を、佩用している剣へとかけた。しかし、カイが手を伸ばしてそれを制する。
「俺が行くよ。ラハットちゃんはもしもに備えてルイン様の傍に」
「しかし……」
「大丈夫。戦わない方向に進めるから」
カイはそう言うと、両手を上げながら村の中へと入っていく。
「勝手に入ってすまない。こちらに攻撃する意思はない。俺達は、グシウムから来た王の遣いの者だ。旅の途中、ここに行き着いただけなのだが、少し話を聞かせてくれないか。探し物をしているんだ」
大きな声でカイがそう言うと、村の中からはざわざわと人が動く気配がした。話し合っているのか、小声で会話を交わしているような音が聞こえてくる。
カイは続ける。
「もし都合が悪ければ、すぐに引き返す」
すると、しばらくして納屋から一人の青年が出て来た。浅黒い肌にとても短い銀髪。一枚の大きな布を身体に巻き付けたような衣服。
こちらを警戒しているのか、手には槍を持ち、慎重に、ゆっくりとこちらへと近付いて来る。
「ナミ族の手先ではないだろうな?」
「ナミ族?」
カイは振り返り、首を傾げる。ラハットは首を左右に小さく振った。
「申し訳ない。知らないな」
カイがそう言うと、青年は村の方を振り返り、大きく腕で丸を作った。物陰から、何人もの男達が出てくる。青年はカイを見ると、力なく微笑んだ。
「歓迎はします。しかし、申し訳ありませんがもてなすことは出来ません。……見て貰えばわかるように、この村はとても貧しいのです」
青年の手足は骨の形がはっきりと確認できるほど、やせ細っていた。




