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二十四話『勇者、俺』~神秘の森~


 陽の光が靄となって浮いているような、そんな神秘的な雰囲気。


 これだけ深い森にも関わらず、風も吹かず、葉も揺れず、生き物の脈動も一切感じない。なのに、誰かにじっと見つめられているような気配は感じる。


 しかし、それは窮屈ではない。むしろ、温かく見守られているかのような感覚。


 不思議な世界。まるでこの場所だけが世界から切り離され、時間も空間も異なる別の世界にあるような、そんな錯覚さえ抱かされる。


 無垢な世界。これがあの世だと言われたら、俺はなんの疑いもなくその事実を事実として受け入れる。そんな世界。


 俺達四人は言葉もなくただひたすら奥へと進んだ。いや、誘われたと言うべきか。正しい道なんて誰も知らないはずなのに、自ずと足が進んでいく。


 もしかしたら、俺達ではなく、森の方が動いているのかもしれない。俺がそんなことを平然と思えるくらい、自然と足が動いた。


 やがて、俺の耳が水の流れる音を捉えた。見なくてもその清冽な様が伝わってくる、緩やかで穏やかな水の音。それと同時に、鳥が歌い、風は踊り、葉が揺れる。森が目を覚ましたかのように、動き出す。


 ふと目の前を見ると、そこには滝があった。


 そして、滝の前で台座に突き刺さる神々しい一本の剣。


 マカロン、レティ、ヘレネは俺を見てゆっくりと頷いた。


 俺は荷物を置き、一歩ずつを踏みしめながら剣へと近付く。


 不思議と何も感じなかった。奢りも謙遜も期待も興奮もない。ただ、この世に生を受けるように、俺は勇者を受け入れるだけ。その使命を受け入れるだけ。


 運命なのだから。俺はそっと手を伸ばし、剣の柄を握り締めた。そして、剣を思い切り台座から引き抜いた。


 しかし、剣は抜けなかった。


 俺は振り返って三人を見る。三人は俺を真顔で見返している。


 俺は何度か力を入れて剣を引き抜こうとする。しかし、剣はびくともせず、俺は手が痛くなって止めた。そして、王様の言葉を思い出す。


『選ばれし者だけが台座から引き抜くことが出来るのだ』


 そうですか。


 俺は三人の元へと戻り、荷物を手に持った。


「帰るか」


 三人は頷き、踵を返した。


 よく見れば、どこにでもあるただの森だった。 


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