二十三話『勇者、俺』~勇者の剣へ~
サンアントの町を出てから、俺達四人は順風満帆とまでは言わないが、一応大きな怪我や病気などもなく旅を続けた。
ある町でやっている武道の大会にマカロンがどうしても出たいと言いだしてわざわざ赴いたら葡萄酒の大会だったことや、自称魔法発祥の村でレティがバーンを披露すると魔物が化けていると追い出されたことなどはもう遠い過去の思い出となるくらいには旅をした。
俺とマカロンはかなり強くなり、二人ならば中型の魔物相手でも余裕が出来るくらいにはなった。いつかは一人で中型を倒せるようになりたいが、さすがにその域に達するまではまだまだ精進が必要だということもわかった。
つまり、俺は今の自分の力が量れるレベルにはなったということだ。これは戦闘においてはとても重要なスキルだ。勝てないと思ったらすぐに逃げる。命は一つしかない。命よりも重い矜持は存在しないことも、この旅で学んだ。
レティは地味に魔法の力を上げていった。とは言っても、威力の大小に変化はない。燃えたらどんどん燃えるし、燃えなかったら全く燃えない。
だが、射程距離が少し伸びた。レティは三歩分の距離までの物体を燃やせるようになった。もう少し距離が伸びれば実戦で強力な武器となるのだが、今はまだ戦闘時はヘレネと一緒に隠れている。
そしてたまに二人して遠くから魔物に向かって石を投げたりする。いい迷惑だ。
ヘレネはすっかり女の子になった。一人称も『私』になり、見た目も少し垢抜けて可愛げが出てきた。それでも時々、わんぱくで生意気な部分が垣間見えるものの、俺がそのまま育つとレティのような性格になるぞ、と脅すと本気で嫌がって改善に努めた。
おかげで随分と素直でいい少女になりつつある。そんなヘレネの意外な才能も見つかった。それは歌だ。歌が下手くそなレティが歌うと小型の魔物がうじゃうじゃと寄ってくるというある意味では別の才能を発揮するのに、ヘレナが歌うと、立ち止まって大人しくなる魔物がいた。
勿論、俺達の耳にもヘレナの歌声はとても心地良く、何かに渇いた旅に潤いを与えてくれた。
だが、俺達はただ仲良く旅行をしていたわけではない。収穫もあった。立ち寄ったある村で、このラウス帝国の東、砂漠を越えた先にあるパラメという町に、勇者の剣に関する噂があるという情報を掴んだ。
そして俺達一向は充分な支度を整えると、砂漠の玄関町へと入り、砂漠に関する情報を集めた。
「砂漠ではこの世の全てを見ることが出来るのよ。訪れない朝に更けない夜。身も心も凍る極寒に全身の水分を奪われる猛暑。そして、生と死の狭間の世界」
酒場にいた男の姉ちゃんにそう教えて貰った通り、俺達は果てのない砂の上で世の真理の端くれに触れた。ような気がした。そう思い込まないと釣り合わないほど、砂の大地は恐ろしく過酷だった。
ようやく砂が途切れた時、俺達四人は落涙していた。その理由はわからない。達成感か安心感か。俺は何より、体内にまだ水分が残っていることに驚いた。
俺達は振り返り、茫洋な砂地を見つめる。そして、二度とここには来ないと誓う。魔王を倒してグシウムへと戻る時は海から帰る。泳いででも海から帰る。砂漠怖い。辛い。もう嫌だ。
そこからしばらく歩くと、町が見えてきた。久方ぶりの町。それも大きくて賑やかそうな町。頼むから変な事件が起こっていないでくれよ。
魔物はもういい。砂の中から延々と出てくる小型の魔物で飽きた。オアシスで水を飲もうとした際に水面から中型の魔物が出てきた時なんかは心底うんざりした。
正直、どうやって倒したかも覚えていない。多分、全員が黙々と攻撃したのだろう。
町に入るとその活気に驚かされた。グシウムも賑やかな都市だったが、ここはまたそれとは異なる雰囲気。往来する人の顔がやけに輝いている。
俺は口の上に黒子がある男を捕まえると、この町について訊ねた。
「なあ、ここはどんな町なんだ?」
「ん? キミ達は服装を見るに砂漠方面から来たんだね。大変だっただろう。でも、ここはそんな疲れも吹っ飛ぶ、娯楽の町パラメさ」
「娯楽の町?」
「ああ。別名、ギャンブルの町とも言うね」
ギャンブルか。それは興味深いな。とりあえずもう一つついでに訊いておく。
「あんた、勇者の剣ってのを知らないか?」
「勇者の剣? ああ、そう言えば最近、そんな噂が流れているな。なんでも、ここからさらに東に行ったところの神秘の森の奥にあるとか」
「それは本当か?」
「さあ、あくまで噂だからね。でも、興味本位で行くのはオススメしないよ。あの森は深いし、恐ろしい魔物が守っているなんて噂もあるからね」
俺達四人は顔を合わせて頷いた。どうやらギャンブルはお預けのようだ。さっさと剣を引っこ抜いて、それからこの町に戻ってきてギャンブル三昧だぜ。
俺達は町を出て、神秘の森へと向かった。




