十七話『勇者、俺』~次なる町へ~
自由の町、アロニアを出てからはゆっくりと時間をかけてサンアントへ向かった。小型の魔物を何匹も倒して実戦経験を積み、その際にマカロンにはたくさんのことを教えて貰った。
数え上げれば枚挙に暇がないが、最も大事なのは冷静になり、魔物の攻撃を避けること。それを念頭においてさえいれば、なんとかなるそうだ。
朗報だったのは、レティの魔法の技術が上がっていたこと。以前まで、レティは歩幅一歩分以内の対象物にしか魔法が使えなかったのに、いつの間にか一・五歩分まで届くようになっていた。
これは実に大きな意味を持つ。なぜなら、レティのバーンは届きさえすれば相手を必ず燃やすことが出来る。すなわち、魔物に勝てるからだ。
しかし懸念はある。それは、俺達三人の魔法に関しての知識があまりに乏しいこと。レティは自分で火の魔法を使っておきながらその仕組みも相手を燃やす方法も理解しておらず、本人曰く、「えいっ」とやればなぜか燃えるそうだ。
よくわからん。これまで旅を続けてきたマカロンでも、実際に魔法を使う人間を見たのはレティが初めてらしく、どうやら魔法自体が世界でもまだ未解明な部分が多い、謎の存在のようだ。
そして、アロニアを出て三日後の朝、俺達はサンアントの町に着いた。アロニアとは打って変わって、立派な外壁に囲まれ、厳重な門に入り口は閉ざされている。
マカロンが言うには、このサンアントの町からアロニアまでがサンアント地方になるらしい。
サンアントの町の外観は、町というより、城そのもの。城壁の周りが堀で囲まれて水が張られているのはグシウムと異なる。周囲の景色もこれまでの平原とは少し違い、黒っぽい色の砂の地面が多くなっていて、どこかお堅い雰囲気が漂っている。
俺達はとりあえず、門へと向かった。そろそろマカロンが持っていた食糧も尽きていたし、俺も武器や防具を揃えたい。レティは風呂に入りたいと散々文句を言って機嫌が悪くなっている。なんとか町に入って、旅の休息を取りたいところだ。
門の前には、屈強そうな門番が立っていた。俺達が遠くに見えている時から、ずっと鋭い目でこちらを凝視していた。なんだか話が通じなさそうな奴。そう思いながらも、おそるおそる近付いて声をかけた。
「あの、町に入りたいのですが」
「理由を述べよ」
「旅の休憩です」
「ならぬ。帰れ。町に入るには許可が必要だ」
誰のだよ、と思わず突っ込みそうになるが、そこはぐっと堪えた。それが誰であれこの国の領内では王様が一番偉い。故に、王様の頼みで動いている俺も偉い。
俺は袋から王様の手紙を取り出し、門番の鼻先へと突き出した。門番は始めこそ如何わしい目でその手紙を見ていたが、読んでいくうちに次第にその顔色が変わり出した。
おっ。いい感触だ。
門番は「少々お待ちください」と先程とは打って変わって恐縮した態度で町の中へと入って行くと、しばらくして戻ってきた。そして真っ先に、頭を軽く下げた。
「多大なるご無礼、誠に申し訳ございませんでした。どうぞ、お入りください」
門番が腕を広げて、俺達を門の中へと案内した。王様の手紙、凄い。
門を潜ると、そこには予想とは違った光景が広がっていた。てっきり町があるものと思っていたが、門の中は屋内だった。
俺が「建物なのか」と呟くと、門番は「ここは城ですから」と答えた。町の入り口がいきなり城だなんて面白いな、と思いながら俺が奥へと進もうとすると、突然「お待ちください」と門番に呼び止められた。
「お荷物の方はこちらで全てお預かりします」
「全部? 本気で言っているのか?」
「ええ。それがここのルールです。陛下のお遣いの方々であられても、サンアントのルールは遵守していただきます」
「金もか? ここで武器や食糧を調達していきたいんだが」
「お金も預からせていただきます。武器や防具はサンアントでは売買しておりません。食糧の方はこちらで用意します。お代は勿論頂戴しません」
「えー。信用出来ないんだけど」
レティが門番を訝しい目で見る。しかし、門番は一切動揺を見せず、それどころかむしろ胸を張っている。
「その御心配は要りません。この町では、絶対に盗難や着服は起きませんので」
「そんな自信満々に言って、もし起きたらどうするのよ?」
「絶対に起きません。もし起きたら、私が責任を持って弁償致します」
門番が断固として言うので、あのレティが引き下がった。レティが引き下がったのなら、もう何を言っても無駄だ。仕方なく、俺達は荷物を全て門番へと預ける。
門番は「お帰りの際にこのままお返しします」と、どこからか現れた兵士へと荷物を渡す。やはり、知らない人物に荷物を預けるのはどこか落ち着かない。
それにしても、あの自信はどこからやってくるのだろうか。誰にも開けられない金庫でもあるのだろうか。もしそうだったらぜひ見せて貰いたい。ジョウへのいい土産話になりそうだ。
身軽になったところでようやく俺が奥へと進もうとすると、「お待ちください」と再び門番に止められた。さすがに俺も、「なんだよっ」と口調が荒くなる。それでも門番は焦った様子もなく、「大事なお話があります」と落ち着きを崩さない。
「このサンアントにはいくつかルールがございます。いくら外部からのお客様であっても、それは守っていただく必要がありますので、これから全て説明致します。長くなりますのでこちらへどうぞ」
門番はそう言って、すぐ傍にあった部屋へと俺達を招いた。
窓が一つだけある狭い部屋には、椅子が五脚。俺達が適当にそのうちの三つへと腰を下ろすと、また別の兵士が俺達の前に立った。
なんだか忙しない奴らだな。早く宿で落ち着きたい俺の苛立ちが、椅子の足をガンガンガンガンと浮かしては落とす。これで察して急いでくれよ、兵士ちゃん。
兵士はエホン、と咳をすると、俺達三人の顔を交互に見つめた。その鋭利な眼差しだけで高圧的な性格が窺える。
おそらく俺が最も嫌いなタイプ。まだ一言も発していないのに、俺は独断と偏見でこいつのことが嫌いになった。そして俺の独断と偏見はよく当たる。
「では、こちらも忙しいので手短に説明する。二度は言わないので、一度でしっかりと覚えていただきたい。ではまず……」




