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十六話『勇者、俺』~新たな仲間~

 回収を終えた俺は、レティと並んで町を出た。ちょっと派手にやり過ぎたせいか、手と足がじんじんと痛む。服も随分と汚れてしまった。


 そんな状態で町を出ると、「おい」と誰かに呼び止められた。見ると、マッチョマンが腕を組んで笑みを浮かべていた。


「暴れ回ったみたいだな」

「回収だよ」


 俺はパンパンに膨らんだ小袋を掲げる。意外に持っているもんだ。間違いなく汚い金だろうが、第三者に渡った時点でそれは綺麗にリセットされる。これ、俺が考えた素晴らしいルール。


 まあそもそも、人間の手を渡り歩く金なんて全部汚いもんだ。俺はそういうのは気にしない。落ちた食べ物は食わないけど、落ちている金は拾う。汚れていても金の価値は変わらない。気にするだけ損。


「そんなに回収したら、あいつら、他から補おうとするだろ」

「今はその心配はないと思う。あの魔物、結構金になるらしいから」

「そうなのか?」

「ああ。皮なんかは結構価値があるんだって学校で習った。中型なんてかなりのレアだ」

「燃えていても?」


 そうか。燃えたのか。俺は少し考える。しかしすぐに考えるのを止める。過ぎ去ったことは仕方がない。皮以外も何かに使えるだろう。俺が答えないのを見て、マッチョマンはふっと笑う。


「まあいい。興味はないからな。それより、お前達はこれからどこに向かうんだ?」

「さあ。とりあえず東に」

「東と言えば、ここからしばらく進んだ先にサンアントという町がある。このサンアント地方の中心となる町だな。領主、サンアント伯が居城を構える町でもある」

「じゃあそこに向かうことにする。行ったことがあるのか?」

「いいや、ないね。いい噂は聞かないしな」


 何だか嫌な予感はするが、地図を見てみると、ここから北にはその町を挟んでしばらく町も村も何もない。食糧のことなどを考えれば、必然的に寄ることになるだろう。


 この町では例外的に使えなかったが、俺には王様の手紙があるのだ。なんとかなるに違いない。それよりも、俺はこのマッチョマンのことが気になった。


「なあ、お前はどうしてこの町に?」

「旅の途中だ」

「旅って、目的は?」

「強くなって、師匠を探すためさ」

「強くなってって、充分強いだろ、お前」

「いや、世界は広い。俺なんてまだまだだ。……それで、お前さんらの目的は?」

「俺達は魔王を倒しに行くんだ」

「魔王? なんだそれ?」


 俺は面倒くせえなとは思ったが、事の顛末をざっくり説明した。神妙に頷きながら聞いていたマッチョマンの顔が、次第に晴れやかなものとなっていく。


「……ってわけよ」


 説明を終えると、俺は息を吐く。どうもこういうのは苦手だ。マッチョマンは何を考えているのか、さっきからずっとにやついている。眉毛がないから怖い。


「なら、まずはこの国のどこかにある勇者の剣ってのを探さないといけないわけだな?」  

「ああ。その情報収集だな。これからしないといけないのは」

「そうか。だったらそれ、俺も連れて行けよ」


 俺はマッチョマンを見る。マッチョマンは俺を見返す。俺はレティを見る。レティも俺を見返す。俺は俺を見たいけど見られない。俺は再びマッチョマンに視線を戻す。


「それは、仲間にしてくれってことか?」

「ああ。それに、二人では心許ないだろ。お前ら、全く旅慣れていない様子だし」


 マッチョマンの言う通りだ。俺もレティも、あまりに世界のことを知らなさ過ぎる。グシウムという守られた都市で育った温さはやはりどうしても出てしまう。


 それに、元々俺は三人仲間を増やしたいなと思っていた。二人だと物足りないし、五人以上だと色々と面倒なことが起きそう。だから三人増やして計四人。


 出来ればどこかの町でレティを置いて、奥ゆかしい女を三人連れて旅をしたいと思っていたが、今朝の中型の魔物との戦いで気付いた。


 そんなことにこだわっている場合ではない。ちゃんと使える奴、戦える奴を揃えないと。その点で考えれば、このマッチョマンは仲間にする価値がある人選と言える。


 俺の中で、理想と現実が錯綜、交差する。ああ、非常に悩ましい。しかし、死ぬのは御免だ。俺は決意した。仕方がない。ここは実用性を取ろう。


「わかった。一緒に旅をしよう。レティは構わないか?」

「別にいいけど、変なことをしたら焼き殺すからね」


 レティがマッチョマンに釘を刺すと、マッチョマンはそれを鼻息で返した。


「それなら心配ない。お前みたいな乳臭いガキに欲情しないからよ」

 

 レティは眉間に軽く皺を寄せる。「まあまあ」とレティを宥めながら、俺は憂鬱になった。


 見たところ、このマッチョマンは器用なタイプではない。まずは、レティの周囲に無数に埋められている地雷の位置を具に教えなければ。


 マッチョマンが黒焦げになるのはどうでもいいが、俺まで巻き添えを食らうのは御免だ。


 俺はとりあえず、「まあ、宜しくな」と手を差し出す。マッチョマンはその大きな手で、俺の手を強く握り返す。


「ああ、宜しく」

「じゃあ、そのサンアントって町に向かうか」


 俺達は三人並んで歩き出す。少し歩き始めたところで、マッチョマンが立ち止まって口を開いた。


「ところで、お前らはなんて名前なんだ?」

「ああ、俺はカモノモリマロ。そんでこいつが、」

「こいつって言うな。あたしはレティ・ジェンキンス。あんたは?」

「カモノモリマロって、珍しい名前だな。ふむふむ、モリマロとレティな。覚えたぞ。ああ、俺の名前か。俺の名前は……」


 マッチョマンはそう言うと、親指を立てて白い歯を見せた。


「マカロン・クロップフェンだ」


 どこからか、甘い匂いがしたような気がした。


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