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十三話『勇者、俺』~中型魔物との戦闘~


「バーン」「バーン」「バーンっ」。そう、バーン。耳元に生温かい風が当たる。これくらいの温かさなら、俺もバーンされてもいい。足が絡まっている。いや、挟まれているのか。それにそれだけじゃない。服を掴まれているのか。


「バーン」


俺は慌てて飛び起きた。そして身体を見る。髪を触る。熱い。熱い。いや、熱くはない。燃えていないのか。まだ頭が夢とごっちゃになっていて、上手く思考の整理が出来ない。レティは「うーん」と小さく唸ると、目を閉じたまま無邪気な笑みを浮かべている。「うーん、バーン」。おいおい。どんな恐ろしい寝言だ。これのせいで飛び起きてしまったじゃないか。


 俺は目を擦りながら、全身の筋肉を伸ばす。イタタタ。部分的ではなく全ての筋肉が痛い。まあこうなるだろうなとは思っていた。慣れるまでは仕方がない。これも全て、これまでの温い生活のツケだと思い、甘受する。


それにしても、何やら外が騒がしい気がするのは気のせいか。この町も朝は活気づくのか、なんて思いながら窓の外を見た俺は、そこに広がっていた光景に絶句した。


 そこには、これまで見たことのないような大きさの魔物の姿があった。


中型だ。


紫の身体に、大きく長い腕と足。そして相変わらず口から出ているニョロニョロが気色悪い。その中型の魔物が、今、まさに町の人間を襲おうとしている。


俺は反射的に剣と盾を持ち、部屋を出て階段を駆け下りた。そのまま脇目もふらずに玄関から外へ出ると、魔物が一人の男を追いかけていた。


男はすぐ近くの家へと逃げ込み、玄関の扉に手をかけている。何とか間に合った。そう思ったのも束の間、扉には鍵がかかっていて開かない。その家の二階の窓では、数人の男女が魔物と男性を見下ろしている。


「おい、何やってんだっ。早く開けろよっ」


 俺は窓の男女に向かって叫ぶ。しかし、男女はムッとした表情を浮かべると、窓を閉めてしまった。俺は殴られたような衝撃を受けた。見殺しにするのか。


しかし、今はそんなことに腹を立てている場合ではない。俺はとにかく走る。しかし、間に合わない。そしてついに、魔物は男性の肩にのしかかり、その太い腕を振り上げた。駄目だ。俺が目を閉じた次の瞬間、魔物が大きな雄叫びを上げた。 


 一体、何が。


 俺がそっと目を開けると、髭のおじさんが魔物に斬りかかっていた。おじさんの両手には、とても大きな剣。おじさんが「逃げるんだ」と男性に向かって叫ぶと、男性は足をもつらせながらも、必死に駆けて行った。


おじさんは大きな剣を魔物へと向けると、挑発するかのように手をくいくいっと曲げた。その顔には、薄っすらと笑みさえ浮かべている。


「さあ、化け物よ。僕が少し遊んであげよう」


 俺はワクワクした。なんだこの少年心がくすぐられる展開は。どうして髭のおじさんがあんな大きな剣を持っているのか。そうか。俺は理解した。おじさんがこの町で唯一、中立でいられるそのわけを。


おじさんは町を襲う魔物を倒せるのだ。


つまり、この町を守る英雄なのだ。中型の魔物を前にして、この余裕。絶対そうに違いない。俺は剣を下げ、盾を地面に置き、おじさんの勇姿を目に焼き付けることにした。頑張れ髭のおじさん。頑張れ町の英雄。


 魔物の脚の筋肉が隆起した。おじさんは半歩下がって構える。魔物は声なのか何なのかわからない大きな音を発したと同時に、地面を蹴っておじさんに飛びかかる。おじさんの目が、キッと見開かれる。


「はうっ」


 そんな抜けるような声がしておじさんは宙を舞った。おじさんを目で追うと、背景が一面真っ青になるくらいおじさんは高く舞った。魔物は跳躍し、落下してくるおじさんを鷲掴みにすると、そのまま地面に叩きつけた。


 え、弱っ。


 俺は剣を握り直し、全速力でダッシュした。あんな余裕をかましていたくせに、おじさんは魔物の攻撃を一切見切れないで、ただ突っ立ったままぶっ飛ばされた。あれくらいなら、俺でも難なく避けられたのに。もしかして見かけ倒しってやつか。そんなおじさんは魔物に容赦のないラッシュを喰らっている。


まずい。今はおじさんを馬鹿にしている場合じゃない。死んじゃったら不謹慎になる。


 俺は足音を立てず、振り被る際に大きな雄叫びも上げず、出来る限り静かに、さらに後ろから、しかし思い切り魔物を斬りつけた。


魔物とはいえ、生物を斬るという行為にはやや抵抗があったものの、生理的な気持ち悪さが勝って遠慮なく剣を振り下ろすことが出来た。だが、手に当たった感触は予想とは違った。


 硬い。


 イメージでは首すとん、はい大勝利、だったのに、実際には魔物の身体に少し刃先が入ったところで止まってしまった。


まずい、カウンターが来る。


魔物は俺の存在に気付くと、そのまま思い切り腕を振った。俺は剣を抜いて避けた、はずだった。しかし、なんと剣が魔物の身体から抜けない。俺は一瞬の迷いが生じ、僅かに判断が遅れた。


俺は避け切れず、頬に魔物の爪が掠ってしまう。ズキン、と痛みが走ったと同時に、右頬が温かくなった。おそるおそる手で触ってみる。よかった。そこまで傷は深くない。ただ、ざくっと切ったようだ。


 さて、これは最悪の展開だ。剣はまだ、魔物の身体に刺さったままだ。さすがに、素手で中型の相手は出来ない。


何とか隙をついてあの剣を抜かなければ。俺は髭のおじさんを見る。駄目だ。あれでは陽動にも使えそうにない。おじさんは口の端から液体を垂らし、そして股間付近がぐっしょりと湿っている。失禁したのだろう。生きているかどうかも微妙なところだ。


 いや、待て。おじさんは使えなくても、あの剣は使えるんじゃないか。見ると、おじさんの傍に大剣が虚しく転がっている。魔物から剣を抜くよりも、あの剣を取る方がおそらく可能性はある。


よし、作戦は決まった。俺は魔物との間合いを取る。腕力と瞬発力は格段にこいつが上だろう。


だが、俺にはこれまで培ってきた喧嘩の経験値がある。喧嘩とはすなわち、卑怯な方が勝つ。それすなわち、頭がいい方が勝つのだ。


 俺はダッシュで盾を取りに戻る。それと同時に魔物は俺を追いかけてくる。それも跳躍して。予想通りだ。背中を見せれば跳んで追いかけてくると思っていた。だが、先程見たスピードなら、俺が盾を取る方が僅かに早い。


そして予想通り、俺は先に盾を手にした。魔物のシルエットが、影になって地面に映っている。俺は即座に盾を構え、魔物の攻撃を防ぐ。そしてその隙に、砂で魔物の目を潰す。魔物は完全に目で獲物を追っていた。目を潰せば、状況はこちらの完全優位に傾く。


 はずだった。


 誤算は勇者の盾の絶望的な脆さだった。勇者の盾は魔物の攻撃で、まるでタルトを砕いたかのように粉々になった。


あ、終わった。


俺はそう思った。町の周囲でもう少し経験を積んでから来ればよかった。まだ野生の小型すら倒したことがない俺に、いきなり中型はそりゃ荷が重いって。


くそっ。どうせ死ぬなら昨日の夜燃やされてもいいからやることやっておけばよかった。すまないモリマロジュニアよ。お前は未使用のまま、その猛威を奮うことのないまま、土に還ることになる。全ては俺が臆病だったせいだ。もう一度謝る。すまなかった。


 魔物は容赦なく腕を振り下ろす。俺は魔物越しに空を見た。グシウムで見た空と変わらない青い空。


ああ、俺もあの流れる雲のように自由に生きたかった。なんて最期の言葉を頭の中で呟いた次の瞬間、魔物の身体が視界から消えた。


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