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クールなメガネ上司の裏表  作者: キョウ
9/48

9: 巻き込むのはやめて下さい。

 またもや、なんでこんなことになってるんだろう?

 えーと、今回は全くさっぱり見覚えのない小さい部屋で、またも誰かに抱きしめられている。

 膝の上で横抱きされている状態。

 誰か、なんてもうわかってる。

 このウッディなハーブの香り。

 目の前には見覚えのある紫のストライプのネクタイ。

 顔をちょっと上に上げれば、案の定如月さんで、男にしては整った顔が目をつぶっている。

 長いまつげだなぁ…。などと観察してたら、その瞳がゆっくり開いた。

「……ん……、なつ?……お前、大丈夫か?」

 あ、メガネしてない。

「……大丈夫……?」

 疑問形に語尾を上げれば、気遣わしげに顔を覗きこんでくる。

「さっきよりは、顔色いいな」

 整ったキレイな顔が近い。のけ反って距離を取ろうとしたが、背中をガッチリ押さえられてて後ろに行けない。

「おい、落ちるぞ」

「お、下ろして下さい」

「やだね」

 そう言って更にぎゅっと抱きしめられた。

「お前、相楽ディレクターと何があった?」

 耳元でそう聞かれて、今日の出来事を思い出す。


 *****


 かなちゃんと神沢さんの話がどうなったのか、経緯は全く教えてもらえなかったのに、結局退職することは叶わず、その後も普通に勤務していた。あんなにうるさかったかなちゃんが神沢さんに従った?のか、大人しいのが何かありそうで怖い。

 そんな中、神沢さんの撮影をテレビ局のスタジオですることになった。

 インタビュアーの人との対談形式で撮りたいらしい。

 1人で行ってもらっても良かったのに、神沢さんが「アウェイ感がスゴいから一緒に来て」と如月さんに懇願した。如月さんはいつもの無表情で「わかりました。では日向さんも一緒に来てくれるなら行きましょう」とサラっと私を巻き込んだ。

 結局、神沢さんがあまりにも1人で行くのを嫌がるので、断り切れず同行するはめになった。

 その日はなるべく地味な格好して、うつ向いてすごそう、と思ってスタジオでも端っこの方で壁と同化していた。


 明るいセットの中で、臆することなくゆったり座ってインタビューに答えている神沢さんは、いつも事務所で見る神沢さんと別人のようだった。

 いつもツンツンにしてた金髪を、今日はスーツに合わせてセットしてるからよけいかも。

 でもって、更に女性スタッフをきゃあきゃあ言わせてる要因が、隣にいる如月さんだ。

 撮影前に如月さんと神沢さんが、二人で並んで話している姿は、芸能人かと思うくらいのオーラ。

 なんなんだろう、あの二人は。

 二人の見栄えする姿を見たプロデューサーが、急遽、如月さんも映らないか?と打診に来たくらいだった。如月さんが有無を言わせない無表情でお断りして無くなったけど。


「あの、もっと前で見ててもいいですよ」

 さっきから女性スタッフからのチラチラした目線が痛い。そんなことを気にしてないのか、私の話は丸無視。

「なぜ今日はそんな服装なんですか?」

 そんな服装って。

 如月さんは相変わらずビシッとスーツ。シャツは白だが、織りで細かい柄が入っている。そこに紫がメインのストライプのタイで、相変わらずオシャレだ。

 私は、といえば目立たないことを第一に黒いパンツに濃いグレーのニット、髪も特にいじらずひとくくりだ。私もスーツにしようかとも思ったけど、テレビ局のスタッフさん達の服装を見ていたら、逆にスーツだと外部の人だとすぐわかりそうでやめた。外部でも内部でも通じそうな無難な服と地味な色をわざと選んだ。

 忍者もビックリくらいに、今、スタジオの影に溶け込んでる自信がある。


「ここに来ることも異様に嫌がってましたよね?なぜ?会いたくない人がいる……とか?」

 なんでこの人は人の心を読むかな。

「……。まあ、そういう感じです。なので、ちょっと離れててもらえますか?」

 下手に隠しても更に追及してきそうなので、素直に認める。

「なぜ離れなければならないのかわかりません。逆に会いたくない人が現れたら」

 ふいに顔が耳元に近づく。

「守ってやるよ」

 膝が折れた。

 顔が真っ赤になってる自信がある。暗い所で良かった。如月さんを見上げて睨み付けてやったら、ニヤリとした顔で返された。

 その場にしゃがみこんでしまった私の腕をぐいっと引き上げて、立たせる。

 もう、もうっ!この人は!


 気づけば撮影は一旦休憩になったらしい。

「お疲れ様ですー!休憩用にあちらでドリンクとかあるので、行きませんか?」

 横から話しかけてきたのは、谷中さんだった。

 完全に目線は如月さんに固定されているけど、如月さんは谷中さんも見ずに無表情に頷いた。

 神沢さんは既にテーブルそばの椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。


「もーっ!翔と理人は、来るなら言ってよー!」

 そこに大きな声で現れたのは、豊かな長いピンクブロンドの巻き髪を揺らしながら、服装は細みのブラックスーツ、ワイシャツは黄緑に黒の水玉、ネクタイは蛍光ピンクという格好の、おじさんだった。

 思わず二度見。顔の中身以外はかなりブッ飛んだ格好なのに、いかんせんおじさん…。どこからどう見てもおじさんの顔が……

「日向さん、見過ぎ…。」

 神沢さんの声にハッとして我に帰った。

 如月さんが明らかに笑いをこらえて紹介してくれた。

「コイツは東海林 要(とうかいりん かなめ)、翔と同じで大学からの悪友だ。今はメイクアップアーティストをしてる。見た目こんなだが、一応売れっ子らしいぞ」

 口調が悪い方だ。そういえば三枝さんの時も悪い方だった。仕事以外の気のおけない人には悪い方なんだ…。

「失礼しちゃうわね!らしいじゃなくて売れっ子なの!!」

 如月さんに文句を言う東海林さんの口調は完全におネエだ。くるりとこちらに向き直り、がしっと肩を捕まれた。

「わーお!磨きがいありそうな子ね。この子が理人のミューズなのね!」

「ミューズ……?」

「ね、今度私にメイクさせてくれない?大変身させてあげられるわよ」

 と、おじさんにウィンクされた。

 面食らって黙っていると、それを横で見ていた谷中さんが、顔をこわばらせて言った。

「う…あ、トーカさんにメイクしてもらえる……なんてっ!」

「?」

 ただの社交辞令だと思って、話半分に聞いていたので、谷中さんの驚愕っぷりがわからない。きょとんとしてる私に谷中さんが、興奮気味に説明してくれる。

「トーカさんはね!あちこち引っ張りだこでスケジュールみっしりなんですよ!?だから自らメイクしたいって言われてる人初めて見ました!」

 へー、そうなんだ。私があまりにも地味だったから逆に磨きがいがあると思われたのかもしれない。チラと東海林さんを見れば、気の良さげなおじさんがニッコリ笑ってる。

「なんなら理人との結婚式のメイクアップ全てやってあげるわよ。美男美女でやりがいありそーっ!」

 弾む声でとんでもないことを言い出した。

 固まる私を見て、我に返ったらしい東海林さんは今度は如月さんを見た。

「やだっ!まだ捕まえてなかったの!?電光石火の理人らしくなーい!難攻不落?まさかの彼氏いた的な?略奪愛の真っ最中?」

 1人で暴走してる東海林さんの口を、如月さんがむんずと掴んだ。

「お前は余計なことを言うな」

 低いドスのきいた声色だった。また新たな如月さんを見た……などと思っていたら、ふいに肩を捕まれて、ぐいっと後ろに向かされた。


「なっちゃんじゃん」


 だから嫌だったのに。

 テレビ局なんてこんなに広いのに、1番会いたくない人に会ってしまった。

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