6: 話を聞き出すのはやめて下さい。
あの中で、二人が何を話しているのか気になる。
そもそも私のことなのに、なんで私が外されなきゃならないのか。
はぁ、っとため息をついて自分の席に戻ろうとしたら、腕をつかまれた。
また?
もう犯人はわかっている。
「山岡さん、日向さんを少し借ります」
そう言いながら如月さんは、グイグイと私を引っ張り、事務所の外に向かった。
それでなくてもさっきのかなちゃん乱入により、事務所にいる社員からチラチラ見られているのに、如月さんと連れだって外出したら、後で女子社員になにを言われるかわかったもんじゃない。でも、如月さんは掴んだ腕を、会社近くのカフェに着くまで離してくれなかった。
本当に何がしたいのかよく分からない。
窓際の明るい席で向かいあい、お互い無言のままコーヒーを飲んでいる。
無言は無言なんだけど、いつの間にかメガネは外してて、その直接来る視線でさっきからものすごい見られている…。
「あの……」
「ん?」
ああ、やっぱり口悪い方だ。
「如月さんは……なんで二重人格してるんですか?」
沈黙に耐えかねて、話題を振ろうとしたらそれを聞いてしまった…。
「……俺のこと、知りたい?」
ニッコリ笑いながらいたずらっ子っぽく瞳がきらめく。メガネの如月さんでは絶対出ない…出さない表情だ。
謎が多い如月さんのことを知りたいような、知ってしまったらもう戻れなくなりそうで知りたくないような…。
「……いえ、話題がないから言ってみただけです」
「翔と……神沢と会社始めた時は普通だったんだけどさ」
「話すんですか」
「別に隠してねぇし。設立当時からいる社員は知ってるし」
「はぁ…」
「翔もあの見た目だろ?大学の時から二人でモテまくりでさ」
「……」
「翔は適当に遊んだり、かわしたり、うまいことやってたんだけど、俺はそういうのもめんどくさくて」
あー、神沢さん…。ああ見えて面倒見いいし、マメだから上手くやりそう……。
「とりあえず仕事でそんな揉め事は困るから、見た目からシャットアウトできないかと試行錯誤したらこうなった」
と、言いながら両手を広げる。
この格好で口が悪いとインテリヤクザみたい。
でも、そうか。本命(三枝さん)がいるのに、モテてもめんどくさい……のはわかる気がする。
とはいえ、クール系メガネも需要はあると思うから、それで100%防げてる……とは思えないなぁ…。
「……そうですか…。じゃあ、今の如月さんが素の如月さん?」
「スーツで丁寧にしゃべってても、中身は俺のままだよ。だから別に二重人格ではない」
仕事を無駄なくテキパキこなす如月さんは本質なのか。でもそんなにキッパリ切り替えられるのは器用……を通り越してちょっと尋常ならざるものを感じる……などと考えていたら
「じゃあ、今度は奈都のこと教えろよ」
と、言われた。
突然のことにびっくりしたが、そうだった。如月さんはスイッチの切り替えが素早い人だった。
「名前、呼び捨てはやめて下さい」
「会社、やめるんだろ?じゃあもうプライベート。名字にさん付けなんて他人行儀なことやめようぜ?俺も「理人」でいいよ」
よくない!!
仕事では、論理的かつ的確で簡潔な分かりやすい指示を出すのに、この如月さんはハチャメチャだ。
「『かなちゃん』とやらは奈都の身内?」
私が無言だったのは了承したからではなく、どう反論しようか考えてたからなのに、お構い無く話は進む。
「お……弟…です」
「ふーん。ずいぶん心配性な弟だな。普通、姉の退職にまで口出すか?」
「……」
元々かなちゃんは小さい頃から私にベッタリの甘えん坊だった。それがあの件から猛烈なシスコンになったのは、仕方ない所もある……。
「あれじゃ彼氏も出来ないだろ」
「別に……いりませんから……」
それまで淀みなく思ったことをそのままぶつけてきたであろう如月さんが、止まった。急に真剣な眼差しになる。
「さっきも気になること言ってたな。「ああいうのホイホイ」……。「俺様粘着系」が他にもいた……ってことか?」
「かなちゃんの言葉をそのまま使わなくて結構です」
「おい、話をズラすな」
急に低い声で言うから、ビクっとしてしまった。
「その「俺様粘着系」の話をしてもらおうか」
コーヒーはもう冷めてる。かなちゃんと神沢さんの話も終わってるだろう。
あの件の話をするつもりはない。
「あの……。如月さんには関係ないのに、なんでこんなに私に構うんですか?」
あんまりにも強引でマイペースな会話に疲れて、多少イラっとしてたのでついイヤミっぽい言い方になった。
さっきまで自信たっぷりに輝いていた瞳が、スッと無表情になる。
あ、怒らせた?
いやいや、どっちかっていうと怒るのは私の方でしょ!
今まで、大人しく目立たずそつなく大衆に紛れてきたのに、こんな主役級の人に突然舞台のど真ん中に連れてこられても困る。
「関係ない……ね」
そう言って如月さんは、無造作にスッと手を差し出してきた。
あまりに自然なその動きに、避けるとか戸惑うとかの間はなかった。気付いた時にはもう頬に触れられていた。
でも、その手が小さく震えている…。
なんで……
「なっちゃん!」
店内に大きい声が響いた。
びくん!として声のした方を見たら、息を切らせてぜーはーしてるかなちゃんがいた。
「こんなとこにいた!もう!探したよ」
大股で近づいてくるかなちゃんは、如月さんに気づくと嫌そうに顔を歪めた。
「神沢さんから連絡。なっちゃんは今日はもう帰ってもいいって。テレビ局への連絡だけはよろしくってさ。あと、アンタには早く帰ってこい、だそうだ」
そう言って如月さんを見る。
「彼女がいるならこっちにちょっかい出さないでもらえますか」
睨み付けて言い捨て、かなちゃんは私を引っ張って店を出てしまった…。
ドアが閉まる瞬間に如月さんが「彼女?」と呟いたことも、お会計を如月さんまかせにしてしまったことも、私は気付いてなかった。




