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クールなメガネ上司の裏表  作者: キョウ
45/48

45: 言えよ

 玄関だというのに理人は止まらなかった。

 部屋に入ったとたんキスの嵐。

 確かに帰ってきて安心したのはわかるけど、

 でもでもでもでも……

「ちょ……、んっ…まって……」

 両頬をガッチリ抑えられて、壁際に追い込まれて、身動きが取れない。

 でも……、でも!!

「………………っ、ニオイ!!!」

 ……理人が止まった。

「ごめ……。やっぱりその洗剤の香り、嫌」

 どうにも鼻につくフローラルな香りが我慢出来ない。多分、普通に友人とかから香ってきたら嫌いな香りではないけど、理人から香ってるのが嫌。

「悪りぃ……。シャワー行ってくる……」

 固まった表情の理人は、大人しくバスルームに消えて行った。

 なんか、いっつもこんな感じだなぁ…。

 暴走理人。

 余裕がないのはすごく求められてるようで、嬉しいっちゃあ嬉しいんだけど、困る時もある。


 人の家のキッチンだけど、こないだ来たとき多少物の配置は覚えていたので、何かホッとしたくて勝手に緑茶を入れた。

 シャワーを終えた理人がリビングに来ると、いつものハーブの香りで、思った以上に安心した。

「ごめんね、勝手にお茶入れちゃった」

「いや、ありがとう」

 ソファーに座って、ちょっとボーっとしてる。まだ薬が完全に抜けてないのかもしれない。

 湯飲みを渡すと、ゆっくり飲み干して目を閉じている。

「大丈夫?今日はもう遅いし、寝よ?」

 腕をつかまれて引き寄せられる。

 座った理人に抱きしめられて、お腹あたりに顔を埋められた。

「ずっと、奈都に触れたかった……」

「……うん。ものすごく、心配した……」

「ああ……」

 薬のせいか、疲れたのか、いつもは猫科動物的に迫ってくる理人が、大人しく甘えてくるのがかわいい。

 濡れた髪を撫でてあげた。

「ね、もう寝た方がいいよ?」

 すっくと立ち上がった理人が、私の膝裏に手を回してぐっと持ち上げた。いつの間にか支えられてた背中の腕に体を預けると、ぐわっと目線が上がる。

「り、理人!」

 これは、いわゆる、お姫様抱っこではないですか!

「首に手を回して」

 言われるまましがみつく。

 そのままベッドのある隣の部屋に移動すると、とさっと布団の上に下ろされた。

 隣に理人も寝転がってきた。

「まだ、眠い?体調は?」

 心配して起き上がって覗きこむと、顔をこっちに向けてフワリと微笑んだ。

「奈都、ここにいて」

 手を握ってきた。

「うん、いるよ」

「俺の隣に……、ずっと……いて?」

 語尾があやしくなってきた。

「うん、いるよ」

 そのまま、すーっと寝入ってしまった。

 前にも寝顔を見たことあったけど、あの時とは違う気持ちで観察する。

 この無防備な顔を、莉乃さんも見たのかと思うとモヤモヤしてきた。

 更には一緒に寝た、とか言ってたし!裸でとか言ってたし!

 モヤモヤがイライラになりそうで、もう寝ることにした。

 本当は私もシャワー借りたかったけど、理人が手を離してくれないし…。

 せっかく理人が戻ってきて一安心……、なのに私の心の中はあんまり穏やかじゃなかった。


 *****


 次の日、昼過ぎになっても理人は起きなかった。

 思わず寝息を何度も確認してしまったが、普通に寝てるだけみたいだったので、自然に起きるまでそっとしとくことにした。


 起きたらお腹が空いてるだろう。

 こないだの親子丼のお礼もかねて何か作ろうかと思った。

 幸い近くにスーパーがあったことを思いだし、ちょっとだけ出かけて買い物をした。

 外はキレイに晴れてて、平日の真っ昼間にスーパーにいる自分がなんだか現実みがない。

 莉乃さんは、今頃どうしてるんだろう。

 お付きの人が「旦那様にご連絡します」とは言ってたけど、周りはともかく本人はまだ理人と結婚するつもりでいるんだろうか?


 部屋にそーっと戻って理人の様子を見に行く。

「理人、理人?起きない?」

 あんまりにも寝てるので、ちょっと怖くなって起こしてみることにした。肩を揺すってみると、身動ぎした。

「……ん……、莉乃……?」

 自分がスーっと冷えて行くのが分かった。

 いくらなんでも、ここで間違える!?

 突然ガバッと起き上がった理人が私を見た。

「奈都!ごめん!今、俺……間違え……た?」

「…………。『りーちゃん』はもっと寝てれば?」

 掴んでこようとする手をはたいてやった。寝室を出てリビングに行き、自分のカバンをひっつかむ。

「奈都、待て。悪かった!寝ぼけてた。まだ捕らわれてる夢を見てて……」

 言い訳しながら追いかけてくる。

「あっ、あれ?何か作ってくれるつもりだった?待てって!」

 キッチンを通り過ぎざま、買ってきた袋が見えたらしい。

 玄関で後ろから両腕の中に閉じ込められた。


「それだけ動けるなら、大丈夫そうね」

「大丈夫じゃない。腹減った。莉乃のクソ不味い親子丼を一口食べたっきりだから。奈都の手料理食べたい」

 首筋に柔らかい感触がある。

「はぁっ……。奈都のニオイ……」

「やだ、昨日シャワー使ってない」

 振りほどいて離れようともがいても、ビクともしない。

「奈都……、頼む。行くなよ」

 大抵、落ち着いてて余裕の表情で迫ってくる理人が、珍しく弱々しく懇願する。


 私だって、本当はこんな態度取りたくない。

 でもやっぱり、いくら寝てたとはいえ莉乃さんと過ごした時間があることが心に引っ掛かる。

 理人が悪いわけじゃない。

 仕方なかった。

 分かってるからこそ、何も言えない。

 文句とか、嫉妬とか、言ってもしょうがない

「言えよ」

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