40: まさかね
『なっちゃん?落ち着いて聞いてね。理人と最後に連絡取ったのはいつ?』
日曜日の昼過ぎ、理人からの連絡を待っていたら、道香さんから電話があった。
「えっ……と。会ったのは金曜の夕方が最後で、土曜の朝にメッセージアプリで連絡来たのが、最後……です……。って、理人に何かありました!?」
電話から伝わる緊張した空気に、肌がビリっと嫌な感じに震えた。
『理人と……連絡がつかないの……。今日のお見合い、理人のご両親には説明してないから、立会人として翔が付いてくはずだったのね。でも約束の時間になっても待ち合わせ場所に来なくて、連絡をもらった私がマンションの理人の部屋に行ったんだけど、鍵がかかったまま返事がなくて。管理人さんに説明して鍵を開けてもらったんだけど、中にいないの。携帯も圏外のままで繋がらないし……』
足元がグラリと揺れたかと思った。
家のリビングで、コーヒー片手に立っていたのだが、その場にしゃがみこんでしまったのを見て、かなちゃんがあわてて近づいてきた。
『……なっちゃん、なっちゃん大丈夫!?』
携帯から道香さんの声がしてるのは分かってるんだけど、声が出ない。
かなちゃんが私から携帯を取り上げ、道香さんと話出した。
「……すいません、代わりました。弟の彼方と申します。……はい、……ええ、……ええ、わかりました」
携帯を切ったかなちゃんは、私を支えてソファーに座らせた。キッチンからお父さんがのぞいてきて「どうした?」とこちらに来た。
「神沢さんが、お見合い相手に今確認してるそうだ。あちらと一緒にいるかまだわからないらしい。三枝さんの話だと、部屋の中に携帯はなかったけど、財布は残ってて、多分見合いで着るつもりでフォーマルなスーツがクローゼットから出してドアにかかっていた……って」
「見合い?」
まだ事情をお父さんに説明してなかった。
かなちゃんがザックリ説明してる間に、理人の携帯にかけてみる。無情にも圏外のアナウンスが流れるだけ。メッセージアプリにコメントを乗せるもすぐに既読にはならず、念のためメールも送ってみた。
なんで?
金曜は普通に別れたし、土曜の連絡は普通に『日曜日に終わったら連絡する』程度のものだった。
改めてメッセージアプリのコメントをやりとりした時間を見ると、土曜の午前10時半…。そこまでは普通だった、っていうことだよね?
胃の奥がすーっと冷えていく。
「奈都、落ち着きなさい。まだ何もわかってないんだから。とりあえず、何かあったら対応出来るように、着替えなさい。お前、それ部屋着だろう?あと、携帯充電して」
年の功なのか、お父さんは冷静にやることを指摘してくる。
「なっちゃん、どこかへ行くなら俺も付き合うから、先に着替えてきな」
かなちゃんは私から携帯を取り上げ、充電器に持って行った。私も2階にあがり、着替えた。
全く意味がわからない。
なんで、理人がいなくなる?
事件?事故?
自分から?
そんなわけない。私と、会う、約束をした……。
ふいに莉乃さんの顔が頭をよぎった。
まさか……。
まさか、ね……。
リビングに行くと、お父さんもかなちゃんも深刻な顔して座ってた。
「なっちゃん、今、神沢さんから連絡あって、理人さんから連絡あった、っていうんだけど……」
かなちゃんが言いよどむ。なんとなく、どういう展開になったかわかった気がする……。
「莉乃さんに拉致られたのね……」
かなちゃんがコクリと頷く。
お父さんは、信じられない、と言う顔をしてるけど、かなちゃんは莉乃さんのぶっ飛び具合を目の当たりにしてるから、すぐ理解したようだ。
「神沢さんは、今は教授と連絡を取ろうとしてるみたい。とりあえず、なっちゃんの会社に集合、だそうだ」
かなちゃんが運転して、会社まで送ってくれた。
事務所に着くと、すでに道香さんと神沢さんがいる。
神沢さんは、見合いの立会人……のまま奔走してくれてたらしく、珍しくスーツ姿だった。
「なっちゃん!」
道香さんはぎゅうと抱きしめてくれた。
「彼方くんまで、悪いね」
「いえ、俺も心配なので……」
とりあえず、リフレッシュコーナーに集まって、神沢さんが説明してくれた。
「理人と、お見合い会場になるホテルの近くの喫茶店で待ち合わせしてたんだよ。けど、時間が過ぎても来ないし、連絡しても繋がらないし…。で、俺は高科教授も莉乃ちゃんのも連絡先を知らなかったもんだから、ホテルの予約してたレストランに問い合わせたら、今朝キャンセルされたって言うわけ」
とりあえず、大学側から教授の連絡先を教えてもらえないかと、問い合わせたものの、日曜日で大学には担当者がいないし、部外者の問い合わせに連絡先を教えてくれるわけもなく、神沢さんはツテのツテを辿って、大学関係者を探していた所、神沢さんの携帯に理人からメールが来た。
「これだ」
と言って神沢さんは携帯の画面を見せてくれた。
『事情があって、見合いはなくなりました。用事があって出掛けます。心配しないで下さい』
四人で顔を見合わせる。
「これって、理人さんじゃないですよね?」
かなちゃんが言う。
「彼方君でもわかるか。逆に言えば理人をよく知らないやつが打ったってことだよな」
表の理人しか知らない人……。
すぐさま莉乃さんの顔が思い浮かぶ。
「莉乃ちゃんだろうな」
神沢さんも言う。
「確証がなきゃ、問い詰められないわよ」
「そうでもないぜ。少なくとも俺は約束をすっぽかされたわけだ。理人を探す正当な理由がある」
「メール来たじゃない」
「こんなんで納得できるか。とりあえず、教授だ。社会的立場からも教授はこの件にからんではいないと思う。莉乃ちゃん単独だ。だとしても俺らじゃ莉乃ちゃんの行動範囲は掴めない。今、大学の時の友人に頼んで教授の連絡先を聞いてもらってる所だ」
「待つしかないってことね」
道香さんはため息をついた。
私は四人分のコーヒーを入れて、みんなに配った。
「かなちゃんは帰ってもいいよ?」
気を使って言ったつもりだったが、怒られた。
「何言ってんの。真っ青な顔してんのに、置いていけるわけないでしょ」
「ごめん、ありがと」
本当、頼りになる弟だ。
「ふふ、これが理人の言う、シスコンの砦ね」
道香さんがかなちゃんを見ながら言う。
「そんなこと言ってたんですか」
「なっちゃんのお父さんは突破してる気がするけど、弟君にはまだ認めてもらってない気がする、って言ってたわよ」
「そんなこと、ない……ですよ」
かなちゃんが憮然とした顔になった。
え?認めてくれてるの?と聞こうとした時、事務所の電話が鳴った。




