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クールなメガネ上司の裏表  作者: キョウ
39/48

39: いただきます

 店を出てもつかんでる腕を離してくれず、そのままグイグイと近くのコインパーキングまで連れて行かれた。見覚えのある青い車に乗り込む。

「家まで送る」

 さっきの甘い笑顔から一転、喫茶店を出てからずっと仏頂面だ。

 また逃げた私を怒っているの?

 莉乃さんと会ってたから怒っているの?

「あの……、今日、仕事は?」

「翔が休みをくれた」

「そう、ですか……」

 会話が続かないまま、家まではあっという間に着いた。

 車を停めて、理人は真っ直ぐ私を見た。

「奈都、今度の日曜日、見合いに行ってくる。ちゃんと断ってくるから、その後会ってくれるか?」

 今度は言ってくれた。

「……。怒ってるんだからね」

「うん」

「最初から、言って欲しかった」

「すまん」

「莉乃さんは……、彼女だったの?」

「違う。キスも、手も繋いでない」

 手が頬に伸びてきた。

「莉乃さんは未だに彼女だと思ってるみたいだけど」

「……。それは、誤解させた俺が悪かった…」

 手の甲をつねってやる。

「痛てぇよ」

「痛くしてんの」

 実は、顔を見ただけでもう怒ってるのはどこかへ行ってしまっていた。

 理人がふにゃりと笑う。緩んだ顔を久々に見た気がする。

「奈都、やっぱウチ来ねぇ?昼メシ、作ってやるよ」

「理人が?」

「俺が」

 こないだ見たキッチンを思いだし、ちょっと興味が出た。

「じゃあ、行く」

 理人はニヤリと笑って、もう1度エンジンをかけた。


 理人のマンションに行く前に、二人でスーパーに寄って食材を買いに行った。

「何を作ってくれるの?」

「何を食いたい?」

 そうきたか。

 理人とはなぜかイタリアン率が高いので、違うのがいいな。

「和食」

「いいぜ」

 自炊する、という理人は足りないものを買うくらいでさっさとレジに向かった。

 実を言うと、理人とスーパーって違和感があるかと思っていたが、商品を見る目や買い方が慣れてることに驚いた。

「ホントに自炊するんだねぇ……」

「奈都は?料理すんの?」

 買ったものを袋に詰めながら聞かれた。ちゃんと、エコバッグまで持ってるし。

「あー、実家暮らしだからってバカにしたな。ウチは共働きだからかなちゃんも私もそれなりに料理しますー」

「お、彼方もするのか。」

「かなちゃんはこだわり派で、カレーもスパイスのブレンドから始まる……」

「あはは!やりそう!」

 車に乗って出発する。

 二人でスーパーで買い物して同じ家に帰る……って、結婚したらこういう感じなのかな、とか考えてしまった。

 でも、それは楽しそう……。

 今も、ただ買い物してただけなのに、理人とあーだこーだ言いながら食材を品定めするのは楽しかった。


 マンションに着いて、理人は早速キッチンに立ち、無造作に置いてあったリネンのエプロンを付けた。

 うああ、イケメンのエプロン姿。かっ…格好いい……。

 エコバッグから買ってきたものを出し、冷蔵庫からもなにやら出して、食材を並べ始めた。鶏肉、玉ねぎ、三つ葉と卵…。メニューがなんだか分かった。

 お米を研いで、炊飯器にセットする。


 邪魔にならないように、カウンターの反対側に周り、スツールに腰かけて理人の作業を見つめる。

 包丁使いも手慣れたもので、安定感がある。

「理人はさ、「ポスターの彼女」を探してどうしたかったの?」

「?どういう意味?」

「えっと……、結果的に今私と付き合ってるわけでしょう。でも、見つけて、すごい理人と合わない人とかだったら……」

『もし見つかっても理人に応えてくれるか心配してたの』という東海林さんの言葉を思い出す。確かにそうだ。そういう可能性だってあった。

「んー、もしそんな奴だったとしても、見つけたことに後悔はしないと思うぜ」

「えっ、そう?」

 片手鍋にだし汁を入れて火にかけてる。もう1つ鍋を出して、こっちはだし汁の中にねぎと、豆腐を浮かべてる。味噌汁かな?

「あのポスターを見てから、だいぶ時間が経ってるからな。変わってしまうことに俺が口を出すつもりはない。ただ、どんな風になってるかは見ておきたかった」

「変わってて、ガッカリしなかった?」

「ガッカリ……というか、俺、前にも言ったけどポスターの彼女が奈都だと気づく前に、奈都が気になってたから、同一人物だとわかった時、すげー嬉しかった」

 作業しながらサラリと言われた。顔が熱い。

「そう考えると、俺は奈都にしか反応してないんだな。我ながら中々の粘着だ」

 あははと笑いながら言って、こっちを見た。

「嫌か?」

 そんな、挑発的な猫科動物の目で言われても。

「い、嫌じゃ、ない」

 クスッと笑われた。

 もう!恥ずかしいのを堪えて言ったのに。


 理人は手際よく親子丼と味噌汁を完成させ、ローテーブルに運んできた。

「どうぞ」

「いただきます」

 男性の手料理なんて、かなちゃんの以外食べたことない。でも、あの手慣れた感じからして味の心配はなさそう……と一口食べたら、ものすごく美味しかった。

「んー!おいしい!卵のトロトロ絶妙!」

 私が食べてるところを理人はニコニコしながら眺めてる。

「その顔が見たかった」

 満足そうに微笑んでる理人に言った。

「でも、あのポスターの笑顔と違うよ」

「……。莉乃も奈都も、何か勘違いしてないか?確かに俺は『ポスターの彼女』を探してたけど、『ポスターの彼女』が欲しかったわけじゃない」

 なんだか、目から鱗が落ちた。

 え?そういうこと?

「好きになった女がたまたま憧れてた女と同じだっただけだ」


「だっ、だって、『あの笑顔を見せろ』とか言うからぁ」

 涙目になった。

「お前、すぐ泣くな。俺の中では同じだぞ?奈都の無邪気な笑顔だったら、ポスターの笑顔も、俺の作った親子丼を旨そうに頬張る笑顔も」

 苦笑いした理人が抱き締めてきた。

「でも、その泣き顔もかわいい。奈都の色んな顔を1番近くで見たい」

「泣き顔なんて、かわいくない……」

 相変わらずの甘々でストレートな物言いを誤魔化したくて反抗するも力が入らない。

「いいから、食え。冷めるぞ」

「うん」


 親子丼を平らげて、食後にコーヒーをいただいて、二人でくっついてまったりしていたら、かなちゃんから電話があった。

 電話口でかなり怒ってる……。

 さっき、一応「理人の家にいる」ってメールしたからだ。

『理人さん出して』

 私のために怒ってるってわかってるから大人しく言うことを聞いておく。

「彼方か。悪いな、心配かけて。……ああ、うん……」

 なんか、理人とかなちゃんのお互いの口調は、本当に兄貴と弟みたい。いい意味で気兼ねがない。そういや、理人の家族のことを聞いたことないな。今度、聞いてみよう。

「分かった分かった。後で送るから、……ああ。じゃあな」

 切った携帯を返された。

「本当はこのまま泊まってくか?って言おうと思ったんだが、彼方が帰ってこい、だと」

「ご、ごめんね、なんか」

「いや、三枝にも彼方にも、莉乃をなんとかしないと奈都と会わせられないって言われてたのに、ぶち破っちまったからな」

 そんなこと二人は言ってたのか。ものすごく心配されてるのがわかって、ありがたいやらこそばゆいやら。

「時間、もうちょっといいだろ?奈都不足だったんだよ。くっつかせろ」

 臆面もなくそんなことを言って、腕の中に私を閉じ込めた理人は、心底安心したような顔をして、かなり長いこと抱きしめる腕をほどかなかった。


 夕方、理人に送ってもらって家に帰った。

「じゃあな、また連絡する」

 窓越しにキスされた。理人はよくこういう軽い挨拶のようなキスをしてくるけど、なかなか慣れない。恥ずかしい。

 遠ざかる青い車を、名残惜しく眺めた。

 有給をまだ申請した分残ってるけど、そろそろ会社に行こうかな、などと思って家に入った。


 まさか、この後から理人がいなくなるとは露ほども思ってなかった。

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