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クールなメガネ上司の裏表  作者: キョウ
37/48

37: 伝えたかっただけ。

 奈都が行ってしまってから、マジで落ちた。

 やっと俺に気を許して、体も預けてくれるようになったのに、腕の中で強張る体が離れていくのは、心が冷えた。

「理人、終わったら付き合え」

 翔が就業時間間際に言った。

 奈都が三枝といるなら、翔は居場所を知ってるのかも知れない。


 一応、山岡さんに電話してみるも、一向に出ない。

 三枝、奈都にかけても出ない。

 自分でも情けないほど執着してるとは思うが、どうにもならない。

 手につかない仕事を終わらせ、翔と事務所のあるビルを出たら、横からすごい勢いで抱きついてきた人物がいた。

「りーちゃん!」

 自分でも顔が無表情を通り越して、険悪な顔になってる気がする。

 見下ろせば、長い黒髪の目の大きい見覚えのある顔が、嬉しそうにこちらを見ていた。

 抱きついてきた腕をベリっと剥がす。

「…………。莉乃…さん……。お久しぶりです」

「はい、お久しぶりです!お見合いをお受けして頂けると父から聞きました。とっても嬉しくて、いてもたってもいられなくなり、会いにきてしまいました!」

 大学の時とあまり変わらない調子で話しかけてくる彼女は、相変わらず天然のままのようだ。

「見合いには伺いますが、お受けするとは言っていません」

「あら、そうですの?でもお見合いには来て下さるのですよね?」

「……伺います。ですが、会社の前で待ち伏せするのはやめて頂きたい」

 キッパリ言うと、ニッコリ笑われた。

「そうですよね。会社の方に知られたら恥ずかしいですよね。では、週末楽しみにしています。神沢先輩もお元気そうでなによりです!失礼しますね」

 と言って莉乃は、お付きの黒服と共に去っていった。

「相変わらずのようだね」

 翔が苦笑してる。


 大学の時の俺は、莉乃がそばをチョロチョロしていても特に気にせずそのままにしていた。それは莉乃だけにそうしていたわけではなく、他のまとわりついてくる女子には皆同じような対応だったのだが、そんな無反応な俺に飽きてどんどん減っていった女子達の中で、莉乃だけが最後まで残った。

 そしたら、いつの間にか周囲からは付き合ってると認定された。

 それも特に否定せずにいたら、莉乃本人も俺と付き合ってると思っていたらしい。

 あの時の俺を殴りたい。無気力すぎだろ。

 そのツケが今回ってきている。


「理人、付いてきな」

 そう言って歩き出した翔についていくと、電車に乗り、三枝の会社の近くのホテルに入っていった。

 そんなに大きくないホテルだが、ファザードや内装に品があり、落ち着いていて雰囲気がいい。

 翔はチェックインカウンターに寄らず、スタスタと奥のラウンジへ向かった。

 ラウンジでコーヒーを飲んでいる場合ではないのだが、翔は悠々とくつろいでいる。

「お前、なんで日向さんが顔見せてくれないか、わかってるのか?」

「……奈都がいるのに見合いするから?」

「それは理由を言えば、日向さんは許してくれそうだがな」

「……奈都に、言わなかったからか。相楽から聞いたから、よりショックだった…」

「だろうな」

 俺が奈都に甘えていたってことか。

 はーっとため息を付いてコーヒーカップを見つめていたら、翔がくつくつ笑い出した。

「それにしても、デレてる理人もレアだったが、落ちてるお前もレアだな」

「うるさい」

 睨み付けたとき、翔の携帯が鳴った。


「道香?日向さんと一緒?」

 話し出したとたん、表情が柔らかくなる。翔のはいつも通りなので、特に突っ込む気にもならない。自覚はないが、俺もそうなってるのだろうか。

「そのホテルのラウンジにいるから来いよ」

 先に言えよ、ここにいるって。

「会いたい」

 翔が言うもダメだった。

 三枝の言うように、マジで身辺整理してからじゃないと会ってくれない……というか、会わせてもらえない気がしてきた。

「奈都、5日有給って言ったっけ?」

「そう」

「俺も有きゅ…」

「却下」


 *****


 次の日、昼過ぎの変な時間にめずらしく彼方からきた電話の内容に、マジで久々に切れそうになった。

「なっちゃんに妾になれって言ったんだぞ」

 莉乃が奈都に接触するであろうことは想定できたが、まさかそんなことを言うとは思ってなかった。

 莉乃の中では「見合いする」=「結婚する」に変換されているようだ。

 デスクの向こう側で翔と目が合った。

 彼方にスピーカーにしてもらう。奈都が聞こえてようが、聞こえてなかろうが、どっちでも良かった。でも、思い切り甘やかしたあの夜の時のようにわざと甘く言葉を響かせる。


「奈都、愛してる」


 本心だ。

 伝えたかっただけ。

 他はどうでもいいから、それだけは信じて欲しかった。


 気づけば静まりかえった事務所。

 何事もなかったかの様に、パソコン作業を始めると、1拍おいて黄色い悲鳴が上がった。

「き、き、き、如月さんがデレた!」

「もう、ダメ。こっちが熱くなるー」

「あああ、奈都先輩、今頃腰砕けてる~」

「お前、今仕事中ってわかってるか?」

 翔に言われた。悪いな。


 とにかく、莉乃を奈都に近づけさせないようにしないと。

 天然なのはわかるが、突拍子もない発想で周囲を困惑させるのが彼女だ。奈都がそれに惑わされない……とは限らない…。

 会いたい女には会えないのに、会いたくない女に会いに行かなきゃならないこの状況。

 ため息しか出て来ない……。

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