36: ふいうちはやめて下さい。
「いい?莉乃ちゃんはね、悪い子じゃないんだけど、ド天然なの。悪気がないだけにそれが厄介。理人の時もそうだったけど、無駄に行動力あるから、多分なっちゃんに接触してくる!なるべく彼女のペースに嵌まらないように!」
―――って、道香さんにアドバイスされたけど、うん、早速来たよ…。後ろには黒服の女性のお付きの方がいる。
「あなたがあのポスターの方なのですね。お会いできて光栄です」
眩しいくらいキラキラした笑顔で言われた。
「さすがりーちゃんが憧れてた方ですわ…。とってもステキな方……」
り、りーちゃん…。
えーと、確か道香さんの話によると、大学の時の理人って仕事モードの理人と同じ感じなんだよね……。あれを「りーちゃん」…………。
この時点で、強者だわ、と思ってしまったが莉乃さんは更に斜め上な方だった。
「あっ、わたくし高科莉乃と申します。如月理人さんの婚約者です。キャッ」
自分で言った後、照れた。
「あの……。私のことはどこで……?」
「利之お兄さまからお聞きしました。今までりーちゃんをありがとうございました」
相楽さん……。一体なんて言ったんだ…。断った腹いせに話をややこしくしたとしか思えない。
「ん?ありがとうございました?」
「りーちゃんのお仕事は、どんなことをなさっているのですか?りーちゃんの朝食は和食ですか?洋食ですか?コーヒーと紅茶だとどちらがお好みですの?ご愛用の石鹸やシャンプーなども教えて頂けると助かりますわ!」
怒濤の勢いで繰り出される質問責めに圧倒されてたら、今まで黙ってたかなちゃんが言った。
「何この女。頭沸いてんの?」
「かなちゃん!」
腹に肘鉄を食らわせたけどあっさり止められた。
「ああ!こちらが奈都さんの弟さんですね。いつも奈都さんを騎士のように護っているとお聞きしましたわ!」
相楽さん~!どういう説明したんだ!!
ニヤニヤ笑ってる顔まで思い浮かんで腹立たしい。
「まあ、わたくしとしたことが、こんな所で立ち話なんて、失礼しましたわ。お買い物のお邪魔をしてしまって、申し訳ありません。後日、改めてお伺い致しますわ。その時にはりーちゃんのこと沢山聞かせて下さいませね」
そう言って去ろうとするので呼び止めた。
「ちょっと待って!どうして私に理人のことを聞くの?」
「……。今まで奈都さんがしていたことを私が今度から致しますので、ご本人から聞いた方が早いと思いまして……」
「仕事の引き継ぎかよ……」
かなちゃんが呆れてる。
「あの、それは理人と話をした結果ですか?」
「話?ああ、お見合いのことですか?お見合いは今週末になります。それまではお会いして頂けない、と言われてしまったので、先に奈都さんに聞いてしまいましたの」
ずっと幸せそうな笑顔で話す莉乃さんが、逆に怖い。本気でそう思ってる…。これは一体どうしたらいいのだろう?
「あの……私、理人のことが好きなの。別れるつもりはありません!」
ハッキリ言えば、通じるかと思ったけど、ダメだった。
「まあ、りーちゃんに聞かないと、お妾さんにするかは決められませんわ」
*****
「なんなの?あの女!」
私よりかなちゃんが大爆発した。
理人から大筋は聞いていたらしいので、莉乃さんが理人のお見合い相手だということはわかっているけど、まさかああいう人だとは思わなかったようで、莉乃さんが去った後、すぐさま理人に電話してしまった。
仕事中だからやめてって言ったのに~…。
『彼方……、心配させて悪い。奈都、そこにいる?』
「いるけど、出さない。あの女、なっちゃんに妾になれって言ったんだぞ」
『……マジか……』
理人のため息が聞こえた。
「とにかく、あの女をどうにかしてからじゃないとなっちゃんに会わせられない」
『彼方、奈都は電話に出なくていいから、スピーカーにしてよ』
理人にしては珍しく弱ったような声が聞こえた。スピーカーにしなくても意外と聞こえてるんだけどな。
かなちゃんが操作して、携帯をこっちに向けた。
『奈都、愛してる』
電話越しでも、その声が聞こえたとたんガクンと力が抜けた。座り込みそうになる私をかなちゃんが咄嗟に掴んだ。
二人でいるときのあの低くて甘い艶っぽい声。
ふいうちなんて、ヒドイ。
『また、連絡する』
そう言って切れた。
スピーカーにしてたせいで、周りの人にも聞こえてたみたいで、顔を赤らめた何人かが、チラチラ見てくる。
は、恥ずかしーい!!
って、理人は会社だったはず!事務所でアレをやったのかと思うと更に顔が熱くなった。
と、私の携帯がメールが来たことを知らせた。
あわてて見てみると万由子からだった。
『如月さんの奇跡のデレを盛大に披露してたんだけど、何があった!?事務所中、大パニック!』
ひー!!




