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クールなメガネ上司の裏表  作者: キョウ
31/48

31: なんか変じゃないですか?

「じゃあ、俺このまま大学行くわ」

 と言って理人は運転席から手を伸ばした。

 つられて屈むと、グイと引き寄せられ頬にキスされた。家まで送ってくれるのはありがたいんだけど、こーゆーことを家の真ん前でやるのはやめてほしい。熱くなる頬を押さえてたら、満足そうな顔して車は去っていった。


 相楽さんの実家がどんなであれ、神沢さんは断るつもりであることを聞いた。

 でもって、私が神沢さんに頼んだ「役目」として、断る理由をまとめてくれない?とも言われた。

 明後日には相楽さんが来る。

 理人が動いてくれてるなら、私もやれることをやろう。

 相楽さんにまた会うのは正直怖い。けど、背中を押してくれる人がいる。それをすごく心強く思ってる今なら、相楽さんを越えて行けると信じるしかない。


 そう思って自分を鼓舞していたのに、まさか理人までこの件に巻き込まれることになるとは思わなかった―――。


 *****


 次の日はまたテレビ局のスタッフが来る日だった。

 この日は神沢さんの作業風景を撮るらしく、作業用パソコンの周りに機材をセットしている。

 今は、地方の和菓子屋さんのパッケージデザインを作っている所だ。和菓子屋に了承を得ているので、作業を見せられる。

 インタビューされながらデザインソフトを操ってる神沢さんを撮影している横で、ふと、理人を見ると自分のデスクに座ってパソコンに向かい、なにやら難しい顔をしている。

 昨日、大学の教授に会った話に何かあったのだろうか?昨日はあの後も連絡もなく、今日は朝から忙しくて、まだ理人とその話をしていない。


 そこに谷中さんが来て理人に何やら話かけている。理人は無表情を通り越して眉間にシワが寄り始めた…。更に神崎さんまでが近寄り始めた。多分、谷中さんを気にしてのことなんだろうけど、右から左から何か言われて理人の機嫌がメチャ悪くなってることがわかる。

 ため息をついて顔を上げた時、私と目があった。とたん、サッと反らされた。

 えっ…。

 なんで?

 二人がそばにいるから?って、理人はそんなこと気にするような人じゃなかった。

 じゃあ、なんで?私、なんかしちゃったけっけ?

「日向さん、ちょっといいかな?」

 撮影が終わったらしい神沢さんに呼ばれる。

 微かな違和感を残しながら、その日の忙しさに紛れて理人の反応をそのままにしてしまった。


 *****


「高科教授に話を聞いてきた」

 仕事が終わって、神沢さん、理人、私と、ちょっと遅れて三枝さんも合流して、静かなレストランバーで話を聞くことになった。

 そういえば、気づけば神沢さんと三枝さんは普通に会話してる…。

 あの理人の部屋でのやりとりの後、どうなったのか気になる所ではあったけど、長年の付き合いの二人には私にはわからない絆があるのだろう。あんなに怒ってたのにすっかり元通りになるまでの経緯がわからない。

 でも、いくぶん三枝さんと神沢さんの距離が近いような気がする。


 軽くご飯を食べて、一息ついた所で理人が話始めた。

「相楽の家族のことだけど、高科教授の親戚筋で、相楽はあそこの局の前副社長の息子だった」

 前副社長の息子…。

 そう…だったんだ。でも、なんで隠してたんだろ?と思ったら理人がすぐに答えをくれた。

「前副社長と女優との不倫の子らしい」

 みんなが止まる。

 それって、めちゃくちゃスキャンダル……。

「その女優はもう亡くなってる。前副社長にはちゃんと正妻がいて、二人とも今はだいぶ高齢だ。相楽は前副社長が50代半ばの時に出来た子供だそうだ」

「そのことを知ってるやつは少ないんだな?」

 神沢さんが確認する。

 だから局内でもあやふやな噂が立っていたんだ…。

「そう。次男は次男だが、本妻の方に長男がいて、そいつは今はテレビとは全く関係ない仕事をしている」

 なんだか理人がちょっとおかしい…。淡々と聞いてきたことを話してるんだろうけど、覇気がなく、固い。

「理人……、だい…」

「ん?」

 大丈夫?と聞きたかったけど、固いままこちらを向いた理人の顔を見たら、なぜか言えなかった。


 理人の話はまだ続いた。

 その女優さんは元々体が弱くて、相楽さんを産んで更に体調を崩し、赤ちゃんの相楽さんを残して亡くなってしまったらしい。

 女優さんの名前を聞いたけど、あまり聞き覚えのない名前で、ドラマや映画に端役として出演してはいたらしいけど、そこまで売れていたわけではなかったようだ。

 前副社長は本妻の手前、相楽さんを引き取れず、乳母を雇い、良心の呵責からなのかだいぶ甘やかして育てたらしい。

 親族の間でも相楽さんの存在は微妙だったようで、皆腫れ物に触るようで不憫だった、と教授は言った。

 お金は湯水のように使えるけど、家族と暮らすことはほぼなく、小さい頃からワガママ放題、学生の時には取り巻きを従えて、思い通りにならなければお金の力で人を動かし……。

 聞いてしまった相楽さんの人生を、確かに不憫だと思う。けれど、環境のせいだとしても、あんなに簡単に人を傷つけていいわけない。

 過去のことをちょっと思い出していたら、隣の理人が背中をトントンと叩いてきた。何も言ってないのに、私の気持ちに気付いてくれる理人が優しい。


 今回の独立話も、相楽さんがやりたい、と言ったから、という程度のことで話が進んでいたらしい。

「しかし理人、よくそこまで詳しく聞けたな」

 神沢さんが言った。

「あ、ああ……。教授も、相楽に関しては思うところがあったみたいで、ウチが断るつもりだと話すと、もし相楽がゴネたらあっちからも話してくれる、と言ってくれた」

元々、相良さんが神沢さんや理人の母校に親戚ー教授がいることを知って、ゴリ押しして口添えを頼んだらしい。教授も最初は理人達の会社だと知らずに口添えの依頼を受けていたようで、理人の話にすんなり了承してくれたらしい。

「それはありがたいな。正直、教授に頼まれてなかったら最初から断っていたからね。その本人が断ってもいいと言ってくれるなら助かる」

 理人は頷いた。

「まあ、素性が分かった所で断る理由は同じだけどな」

 神沢さんは、今日私が渡した資料を見ている。

 どんな状況になるかわからないので、断る理由をまとめたものを作るのが私の役目だった。

 ものすごい決定的な理由……というわけではないけど、持っていき方では正当なお断り理由になるだろう。


「日向さん、ちょっといい?」

 お店を出て解散間際、三枝さんに呼ばれた。男性二人は明日のことについてまだ話している。

「こないだはゴメンね。翔と……その…モメてる所を……」

 照れてる三枝さん、かわいい。

「あれから仲直りしたみたいで、良かったです!ちゃんと気持ち、伝えられました?」

「あ、あの……、一応、ちゃんとお付き合いすることに……なって」

 そこで言葉を切り、顔を真っ赤にしながら私の手を取って言った。

「ありがとう、って伝えたかったの。日向さんに「ちゃんと気持ちを伝えた?」って聞かれて、やっと自分の気持ちを素直に伝える大事さがわかったっていうか……」

 照れながらお礼を伝えてくれる三枝さんが、かわいすぎる。

 こ、この人、見た目と中身のギャップがスゴい。これは神沢さんでなくてもグッとくるな…。

「と、とにかくお礼を言いたかったの。それで、あの…、なっちゃんって呼んでもいいかな?」

「えっ!か、かまいませんよ?あっ、連絡先交換します?えーと、私も、道香さんって呼んでも?」

「うん!しようしよう!」

 神沢さん、惚れた理由がわかりましたー。

 いつもキリリとしたボンキュボンのデキるナイスバディ美女が、デレた時の威力がスゴい。これはやられる。

「何二人でテレテレしてるの?」

 理人が近づいてきて、私の腰を引き寄せた。

「三枝、翔に送ってもらえよ?」

「たからさー、なんで同じマンションなのに理人じゃないの!」

「そこは翔に甘えとけ」

 こんなやりとりも普通に見れるようになった。

「道香、行くぞ。じゃあ明日よろしく」

 神沢さんが道香さんを連れて歩き出した。後ろから見ていてなんだか、ほっこりしていたら理人から頬にキスされた。

「り!」

 店の前、しかも人が行き交う道端でやられたので、焦って名前が半端になった。

 怒ってやろうと顔を見たら、変な顔してる……。

「ど、どうしたの?今日はずっとなんか変だよ……?」

「奈都が足りない」

 そう言って抱きしめられた。

 手を背中に回してトントンと叩いてあげる。珍しく弱ってる理人に優しくしてあげたかった。

 何があったのか、何に不安なのか、聞いてもいいのかわからなかった。





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