27: 拗ねないで下さい。
「お父さん、なんで理人を置いて部屋を出たの?普通の父親なら出てかないでしょ?そもそも私の部屋に連れ込まないでしょ?!」
リビングのソファーに、お父さん、理人、私と三人で座って、コーヒーを飲んでいる。
お母さんに追い返された理人は、そのままお父さんが帰ってくるのを待っていたらしい。
お父さんが理人を入れてくれたおかげで、理人の本音が聞けたわけだけども、お父さんを責めずにはいられなかった。
「まー、理人君は奈都を傷付けるようなことはしないと思ってさ」
お父さんは、ニコニコしながら呑気にコーヒーをすすってる。
「自分で言うのもなんですが、数回お会いしただけの俺をどうしてそこまで信用してくれてるんですか?」
理人自身も不思議に思ってたのか。
「奈都の……昔の事件で、私ら家族はいろんな人達を見ただろう。人を平気で傷付ける人、優しいけど優柔不断な人、自分がなくて流されやすい人、すぐ裏切る人…。あの時に沢山の黒い人を見たおかげで、だいぶ人を見極める目が養われたみたいでさ」
お父さんは、そう言ってふふふと笑って続けた。
「理人君は最初っから裏表なく真っ直ぐぶつかってきてくれた。だって、好きな子のお父さんに初対面で「トラウマを溶きたい」なんて普通言えないでしょ?」
ゴボッ、とコーヒーを吹きそうになった。
おとー、お父さん!最初っから理人が私を好きだって分かってたの!?
「それに、これでも一応人事一筋20年だよ?おかげで、人を見る目は鍛えられたからなぁ」
「ありがとうございます」
理人が神妙にお辞儀をした。いや、それ、お礼言うとこ?
「ま、理人君なら何か間違って暴走しても、最終的には責任とってくれそうだしね!」
ゲホッゴホッ。今度は変なとこにコーヒーが入った。
隣の理人が背中をトントンしてくれた。
「仲直りしたみたいで良かった。理人君、今度はゆっくりご飯でも食べに来なさい」
「ありがとうございます」
理人を見送りに玄関を出た。
結構遅くなってしまった。住宅街なのであたりは静かで、空には星がチラチラ見える。
今日も気持ちは乱高下。最近、自分の気持ちが周りの状況についていけず、スピードの早いメリーゴーランドに乗ってるみたいだ。
でも、今はちょっとスッキリしてる。
1回ぐちゃぐちゃになったからこそ、わかった自分の気持ち。更に私を諦めずに追いかけてきてくれた理人の気持ち。
それがわかったことで、こないだの倉庫の掃除みたいに、ちょっと整理されたみたいなスッキリ感。
車で来ていた理人は運転席に座ると窓を開けた。うちに来る度に路駐してたら近所の人に怒こられるかしら?とちょっとよぎった。
「明日、休みだろ?迎えに来る」
「う、うん。あの……忙しくて疲れてるのに、来てくれてありがとう…」
何度も逃げる私を追いかけてくれる理人……。疲れさせてる自覚はあるから、お礼を言っておく。クッと笑った理人が意地悪そうな目で言った
「明日、覚悟しとけ」
そのまま発進して、小さくなる青い車を見ながら、ちょっと背筋が寒くなった。
*****
只今、座りごこちのいい例の赤いソファーに身を沈めながら、理人が入れてくれた紅茶を飲んでる…。
朝から迎えに来た理人の車に乗って、連れて来られたのは理人のマンションだった。
「理人!今度、アイツを呼んだらしょうちしないからね!!」
隣のソファーでは泣き腫らした目で悪態をついてる美人―三枝さんが同じく紅茶を飲んでる…。
理人はキッチンの向こうでちょっと半目になってる。
「俺らはもうちょっと話すことがあるだろ」と、マンションまで来たはいいが、ついてほどなくしてピンポンピンポンピンポンと、激しくチャイムがなった。ドアを開けたら、部屋着と思われるラフな格好で、ものすごくしおれた状態の三枝さんが現れたのだ。
何がどうなってるのかわからない。
が、仕事で会ってた三枝さんはハキハキとした快活な人で、こんな風に意気消沈を体現するような感じではなかった……のに?
キッチンの向こうからヒラヒラと手招きされた。飲み終わったカップを持って、カウンターの中に入る。入ってみて気づいたけど、意外と理人は料理する人みたいだ。それなりに使ってる感じのするキッチン。物が使いやすいように配置されてる。
「あー、奈都?翔が大学からの付き合いってことは知ってるよな?」
理人は、私のカップを受け取り、もう一杯紅茶をいれようとしながら話し出した。
「三枝と、あとこないだテレビ局で会った要、東海林要も同じ大学で、四人でよくつるんでたんだ」
頭の中で、その四人を思い浮かべる…。
なんって、ゴージャスなメンバー!それはさぞかし大学で目立っていたことだろう…。
「三枝は元々スキンシップ過剰でな……。奈都が誤解したのは、そういう所を見たからだと思うんだが……」
なんだか、歯切れが悪い。と突っ込んだら、「いや、三枝の態度に慣れて誤解させた俺も悪かった」と神妙に謝ってくれた。
「うん。分かった。理人を信じる」
あっさりそう言えたのは、今の三枝さんは明らかに理人に気がある感じがしないし、理人もまた、困った妹に手を焼くお兄ちゃん、って感じがするから…。って言ったら理人は憮然とした顔になった。
「いいなー……」
それまで私達の会話を黙って聞いてた三枝さんが、ポツリとこぼした。
「……昨日、翔に引き渡した後、何があったんだよ。ホントお前らめんどくせぇ」
翔に引き渡した?
さっき言ってた「アイツ」って神沢さんのこと?
「翔なんか……、翔なんか……、もう知らないっ!」
なんか、見た目とは裏腹にかわいらしい拗ね方をする人だったんだ…。ソファーに戻って、隣に座る。
「あのっ、三枝さんは神沢さんと付き合ってるんですか?」
「付き合ってない!」
即座に返ってきた返事が、強がって言ってることは、私にもすぐ分かった。
「じゃあ……、神沢さんのことが、好き……なんですか?」
どストレートに聞いてみた。
顔を真っ赤にして涙目で、私と目線を合わせないでこくんと頷いた。
何コレー!超かわいいんですけど!?
「奈都、悪いけど三枝の話を聞いてやってくれ。俺じゃオトメゴコロというやつはわからん」
理人はカウンターのスツールに座って、携帯をいじり始めた。




