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クールなメガネ上司の裏表  作者: キョウ
26/48

26: 俺のミューズ

「『ミューズ』って聞いたことある?」


 首を左右に振る。直訳だと、女神?

 あれ?でも誰か他の人も「ミューズ」って言ってたような……。

「よく、ファッション業界で使われる言葉だけど、デザイナーのインスピレーションを刺激するモデルのことを、ミューズって言うんだ」

 インスピレーションを刺激する…。

「『ポスターの女性』は俺にとってのミューズ。ファッションではないけど、今までに携わってきたいろんなデザインで、あのポスターのイメージに助けられてきた」

 初めて聞く、理人の仕事についての話。あのポスターが転機になった、とは言ってたけど、それだけじゃなかったんだ…。

「かなちゃんが聞いたら、すごく喜ぶと思う」

 姉としてちょっと誇らしく思って言ったら、きょとんとされた。

 ブハっと、急に理人が吹き出した。

「……奈都……、わかってねぇの?ポスターの女性は、奈都だろ?」

「……?、うん?」

 体を起こした理人に腕をつかまれて、私も起き上がる。ベットに向き合って座った状態になったら、理人の手が頬に伸びてきた。


「奈都が、俺のミューズ」


 眩しいくらいの甘い笑顔で言われた。

「あ、……ありが……とう?」

 真っ赤になって言ったら「なんで疑問形なんだよ」と笑ってる。

 だって、あのポスターの中の私は、私であって私でない感じ。かなちゃんマジックがかかっていて、自分っていう意識が薄い。

 って言ったら、なぜかニヤリと笑われた。

「実は、ポスターの女性って気づく前から奈都のこと気になってた」

「えっ……」

「社員全員で野外イベントの飾り付けした時あっただろ」

 あった。天気がメチャクチャ良くて、イベント的にはいいけど、みんなで汗だくで飾って手伝って……。

「あの時、太陽の下で見た奈都のこの茶色い瞳が、吸い込まれそうにキラキラしてたのを見て、ドキっとした」

 理人が、珍しく照れて目元がちょっと赤くなってる。って、もちろん私も赤いのだけど。

「その前から、仕事が丁寧で実は一目置いてたんだ。奈都が入ったグループは、案件が終わった後の資料がよくまとめられてて、後で参考にしたい時なんかに分かりやすかった。あれ、奈都がやったんだろ?」

「うん…。私、デザイン系はそんなに力になれないから、他でサポート出来たら、って思って…」

 まさかそんな所を認められてたなんて、思いもしなかった。

「あと、あの彼方の写真展の時のおしゃれした奈都にもドキドキした」

 こ、この人……、口が悪い悪いと思ってたけど、もの言いはストレートで、こういう時……参るな。

 恥ずかしすぎて、居場所がない…。

 頬にかかる手が耳に移動して耳たぶをクニクニいじってる。顔を見たら、とろけそうな微笑みで、こちらを見ていた。とたん、反対の耳元に顔が近づいた。


「奈都を俺のモノにしていい?」


 自分の声の効果をわかって、ここぞとばかりに低い艶めいた声色が理人の口から出た。

「……っ、へっ……?」

 言葉の意味より、先に低い響きが背中を走り、何を言われたのか一瞬理解出来なくて、変な返事をしてしまった。

 俺のモノ?

 理人のモノ??

 ―――って、どういう意味?

 耳の手が動き、ぐっと襟足をとらえて顔が近づく。

 泣いた夜は、目元や頬にキスされたけど、これは確実に口にしようとしてる……

「ちょっと待った!待った!!」

 ぐいーっと理人の口元に両手を当てて押し返す。

「嫌?」

 とたんに不機嫌そうな顔になった。

 この人は、表では無表情でクールな仮面を被ってるのに、裏では喜怒哀楽がすごくハッキリしてる。

「嫌とかの話じゃなくて、ここウチだし、お父さんとお母さんいるし!」

「じゃあ、いないとこならいいのか?」

「そうじゃなくてー!」

 混乱して、涙が出てきた。

「そうじゃ、なくて、理人のモノになるってどういうこと?理人も私のモノになって……くれるの?」

 両手をつかんでぐいっと引き寄せられた。

 顔と顔が近い。

 真剣な表情の理人は本当に整った顔で、その造形にドキっとする。

「俺が欲しい?」

「!」

 私が質問してるのに!

 でも、もうダメだ。この、一見クールな黒い瞳に吸い込まれて、嘘もごまかしももう効かない。

「……ほっ……欲しい。理人が欲しい!」

 なにを聞いてもダメなんだ。彼が欲しいのは許可を得るための質問ではなくて、私の意志なんだ。

 目の前で理人の顔がふにゃりと緩んだ。


 メガネ越しの無表情、困った時に寄る眉毛、大型猫科動物の獲物を狙う鋭い瞳、いたずらっ子みたいな面白がってる目、心配そうな真剣な顔、溶けそうな甘い微笑……。沢山のいろんな理人を見てきたのに、まだ私の知らない顔がある。

「奈都、俺が欲しいなんて、えっろ」

「!!!!」

 理人が言い出したんじゃん!!

 恥ずかしさが限界突破で両手で顔を覆った。


「奈都、理人君、下でコーヒー飲まないかい?」

 コンコン、とノックの後にドアの向こうからお父さんの声がした。

「行く!すぐ行く!」

 この状況から逃れたくて、即座に返事をした。

 ベッドから下りかけたところで、後ろから理人に抱きしめられた。

「なんで守山の前で泣いたか、後で聞くぞ」

「……。こっちだって、三枝さんのこと後で聞かせて。まさか二股…」

「んなわけねーだろ」

 即座に否定して、耳元にキスされた。

 赤くなった顔が収まるまで、コーヒーを飲みに行けないじゃないの!!


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