24: なんでこうなる
逃げるように去っていく奈都を見送る。
よりによって守山とかよ。
アイツは奈都にちょこまかちょっかいかけていたから、一番要注意人物だというのに。
神崎が勝手にデスクにコーヒーを置きながら言った。
「理人さん、良かったら今晩ご飯をご一緒にどうですか?美味しいイタリアンを見つけたんです」
「イタリアンは昨日食べたので結構です」
ああ、ウザイ。
かまいたい女は遠ざかり、ウザイ女は寄ってくる…。これが不機嫌にならずして何になる?
*****
「理人……、顔怖い…」
「ほっとけ。それよりさっさと相楽の案件片付けるぞ」
「そうだねー。とりあえずグループはまだ作らないで俺と理人で対応しようと思うんだけど、いいかな?本決まりになったら参加者を募ろう」
打ち合わせスペースで翔と向かいあい、話を詰める。
「本決まり……。に、なりそうか?」
「うーん。わからない。手を抜いて提案する気はないけど、日向さんや要以外からもいい噂がないから、あんまり対応がひどかったらこっちから断ることも出来るよ」
「そうか……」
相楽次第、ってとこが腹立たしいが立場上仕方ない。とりあえずこの件は翔とコンセプトを詰めていくことにする。
メシを食いに外に出た。大抵近場の食堂やレストランに入ることが多いが、この日に限ってどこも混んでてなかなか入れない。食料難民になってきた。
「ところで、翔、三枝から連絡来たか?」
「?昨日の今日で?来てない」
「あー、じゃあ俺だけか。今夜飲みに誘われてんだけど」
「昨日のアレだろうなぁ…。悪い、話聞いてやってくれない?」
「お前ら、マジ、めんどくせぇ」
「道香、ああ見えて奥手なんだよ。なのに気ぃ強いから、なかなか一筋縄ではいかないんだって」
チラリと翔の顔を見て言ってやる。
「そこがかわいいって顔に書いてあるぞ」
「そこが、かわいいんだよなー。だからつい、いじりたくなる」
「ほどほどにしとけ」
三枝にちょっと同情して、ふと顔を上げたら昨日奈都と行ったイタリアンの店の前だった。
「あらら」
翔が気づいて呟いた。
窓際の席に奈都と守山がいた。
守山が何か必死に話しかけて、奈都がそれににこやかに答えている。
「昨日もここだったから、今日は勘弁な」
くるりと踵を返す。
「なんだよー、ヤキモチくらい焼かないの?」
そう言いながら翔が顔を覗きこんできた。
ムカついたので睨んでやる。
「……っ。……ごめっ……、超ブチ切れてた……?」
「あー、もう嫉妬で狂ってメシが食えねー」
棒読みで返したら、翔はクスクス笑ってる。
「いやあ、新しい理人を見れて、俺は嬉しいよ?ホント、今までまるで色恋沙汰に無関心だったじゃん。それがこんな執着を見せるだなんて、思わなかったし」
なんでお前に心配されなきゃならん。
俺らはあきらめて事務所下のコンビニで買って済ませることにして、事務所に戻った。
*****
就業時間もすぎて、事務所の人数もまばらになってきた頃に
「戻りましたー」
と、言いながら帰ってきたのは守山だけだった。
「日向さんはどうしたんですか?」
席に行こうとする守山を引き留めて聞いた。
気まずそうな顔になった守山は、目線を合わせない。
「現場から直帰する、というので最寄りの駅まで送りました……」
「そう…ですか。具合が悪い、とかではなく?」
「いや、体調は大丈夫そうでした」
体調は、ね。
何をやらかしたのか。
とりあえず、家に帰ったのなら大丈夫……か?
携帯を取り出して奈都にかける。
目の前に守山がいるが、かまわない。
「……奈都?今、どこにいる?」
『あっ……お疲れ様です…。もう、家に着くところなので……』
なんか、鼻声に聞こえるが?
「大丈夫なんだな?彼方に確認するぞ?」
『かなちゃんは、今撮影で信州です』
チッ、使えねえ。
「……わかった。また連絡する」
携帯を切って顔を上げたら、守山がじっとこちらを見ていた。更に挑むように聞いてきた。
「如月さん、なんで奈都先輩にタメ口なんですか?」
そういう話なら丁寧に返すつもりはない。
「お前には関係ない」
そろそろ事務所を出ないと三枝との待ち合わせに間に合わない。奈都にちょっとでも会えれば、と思って待ってたが、こうなったら三枝との約束の後に家に行ってみるか……と、考えて踵を返したら、後ろから言われた。
「奈都先輩、泣いてました。如月さんのせいです」
…………は?
なんで俺のせいで奈都が泣く?
っていうか、アイツ守山の前で泣いたのか。
なぜだか、泣いた理由がわからないことよりそっちにムカついた。
ゆっくり振り返り、守山を見た。
「へえ?じゃあ、後で慰めに行くよ」
凄んだつもりはないが、守山がたじろいだ。
「どういう……つもりなんですか…」
絞り出すように呟いた声が聞こえてはいたが、無視して事務所のドアに向かった。
*****
待ち合わせたバーに行ったらすでに酔っ払った三枝がカウンターで管を巻いていた。
お前…この容姿で酔っ払ってるとすぐ野郎に目をつけられるだろうが。
案の定、俺が現れたら向こうのテーブル席の男性グループが大人しくなった。
三枝の容姿狙いで来る男達を、翔が握り潰してきたことを三枝は知らない。
いや、薄々気づいてるのかもな。
もう、お互いのことを知りつくしているのに、いい年してまだくっつかないコイツらをめんどくさい、と思いつつ面倒見てしまう。
バーテンダーに、ウーロン茶を2杯頼んだ。バーに来ておいて申し訳ないが、この後奈都に会うつもりなので飲まない。その分、三枝が飲んだだろう。
「もう、いいかげん捕まってやれよ」
「やあだあ」
「なんでだよ。アイツあれでも結構モテるんだぞ?」
「知ってる。理人と二人でいると逆ナンされホーダイなんでしょ?」
されホーダイって…。そこはあえてスルーしておく。
「他の女とくっついてもいいのか?」
「…………やだ」
ふー、っと息を吐く。
「この手の相談は俺じゃなくて要の方が向いてるんじゃないか?」
早々に降参宣言すると睨まれた。
「要はねー、乙女心がわかりすぎて最終的に説教されるのよ!」
「わかった、わかった。翔を呼んでやるから、もう帰れ」
「なんで同じマンションなのに理人が送ってくれないのよ」
「そこは翔に頼っとけ。俺はこの後用事がある」
「日向さん?焦がれ続けてやっと見つけたミューズだもんね」
「……そう言われると、俺スゲー粘着じゃね?」
「粘着されたい」
「…………は?もしかしてお前、翔のこと勘違いしてねぇ?」
急に力を込めて言い出した。
「いっつも女の子に囲まれて、チヤホヤされて、鼻の下伸ばして、テキトーに遊んで、ヘラヘラしてんじゃん!」
いや、それ、いつの話…。三枝の中では大学の時のイメージのままなのか。だとしても……
「でも、本命はずっとお前だろ」
黙った。自覚はあるのか。
人のこと言えないが、10年近く同じ女にいいよってる、って十分執着してると思うんだが?
携帯がなった。翔が近くまで迎えに来たらしい。
しょうがないので三枝の腕を取って、店を出る。
大通りで車を止めて待ってる、というメールを確認して、繁華街を三枝を連れて歩く。
抱き合ってる、ってほどでもなく、ヨロヨロ歩く三枝の腕をつかんでひきずってるつもりだったが、奈都に見られて気付いた。端から見ればカップルがくっついて歩いてるように見えないこともない、と。




