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クールなメガネ上司の裏表  作者: キョウ
19/48

19: 昔の話をします。その2

「あー~……、奈都はアイツと付き合ってたのか?」

 変な表情の理人が聞いてきた。

 首を左右に振る。

 ただ、ご飯食べたりしてただけ。

 当時の私も、相楽さんにとって自分が特別な存在だなんて思ってなかった。他にも遊んでる子がいることも知っていたし、私も相楽さんのことは、異性としての意識はなかった。


 *****


 なのに、相楽さんは信じられないことを言い出した。

私のことを「俺に婚約者がいることを知っていながら、付き合って欲しい、と迫られてた」と。

 それを周りに吹聴しまくって、ついには私が通っていた大学にまで噂が広まった。


『婚約者がいるのに略奪して、婚約者を自殺に追い込んだ女』


 それが、私に付いたレッテル。

 もちろん周りから友人達は遠ざかっていった。

 心配してくれてた佐原さんは、私がそんなことをしてないことを知っていたのに、相楽さんのバックに怯えて庇ってはくれなかった。

 友人達の態度より、佐原さんの方が私にはショックだった。

 大学にもしばらく行けなくなって、かなちゃんがすごく心配してくれた。この頃のことはよく思い出せない。部屋にこもってぼーっとしてたら1日が終わってるような毎日だった。


 更に、事件からだいぶ経って、周りも静かになってきた頃に、ずっと連絡のなかった相楽さんからまた食事の誘いがあったのだ。

 どういう神経してるのか、わからなかった。

 謝られるのかと思って、かなちゃんに一緒に来てもらって、待ち合わせ場所に行ったら開口一番

「あれぇ?デートに弟連れなんて、不粋だなぁ」

 と言ってまるで悪びれもせずニヤニヤしてた…。

「かの子さんはどうしたんですか?」

「ああ、退院したよ。でももう婚約は解消したよ。いくら良家のご令嬢でもねぇ。年増で傷物なんて勘弁だよ」


 *****


「止める間もなく、かなちゃんが殴ったの」

「そりゃ……、殴るわ。逆に彼方を褒めたい」

「でも、そこで相楽さんに通報されて、かなちゃん、傷害の前科持ちになっちゃったの」

「……」

 絶句してる。そりゃそうだよね。

「裁判で?示談とかは……?」

「もちろん、やれることはやったけど、向こうはお金かけて有能な弁護士雇って……。敵うわけないよ……」


「もう、メチャクチャだった。なんか、誰を信じていいのか、お金やコネさえあればどうにでもなる世の中なのか……。かなちゃんや家族以外は敵みたいに思ってる時もあった」

 理人が痛ましいものを見る目で見てくる。

 あんなことがあったのに、まだ気軽に声をかけてくることが信じられなかった。もはや別次元の人種みたい。相楽さんが何を考えているのかさっぱりわからない。ぺたりとしたあの細い目の奥に、私には理解出来ない得体の知れない怪物が隠されているようで、怖かった。

「それで、あんなに怯えてたのか……」


 理人は、はーっと深いため息をついた。

「ありがとう。話してくれて」

「こちらこそ、聞いてもらって……ありがとう」

 ずっと誰にも、自分から話したことはなかった。

 話すことを、思い出すことをずっと拒んできたけど、実際に話してみたら案外過去のこととしてちゃんと話せた。そのことに自分でちょっとビックリしてる。

「理人には申し訳ないことに、だからこのポスターは私とかなちゃんにとってはちょっと黒歴史なんだよね……」

 二人して4枚のポスターを見る。

「俺にとっては、転機のきっかけになった写真だ」

「そう言ってもらえると、私もかなちゃんも報われるわ」

 理人はニヤリと笑って言った。

「彼方が超シスコンなわけもわかった」

「いい弟でしょ」

「ああ、妬けるくらいにな」

 妬ける?そんな感情……どうして……


「さて、そろそろ終わりにするか」

 周りを見渡して、理人が立ち上がった。

 完全に片付いたわけではない……けど、最初に来た時よりはだいぶ空間が空いた。

 時間は5時過ぎ。外はもう真っ暗だった。

 ポスターを元のように壁際に片付けた。他の社員に見られて私だと気づかれたら恥ずかしい、という私を笑って、理人は布まで掛けておいてくれた。

「ちょっと、事務所寄るけど…」という理人について行った。私もメールチェックやら細かい連絡やらあったからだ。


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