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クールなメガネ上司の裏表  作者: キョウ
16/48

16: 逃がすかよって言ってんだろ

 ぼぐっ……


 めちゃめちゃ気持ち良く寝ていた所、頭部に衝撃を感じて目が覚めた。

「理人!!何やってんのよ!!」

 朝方までは確実に抱きしめていた温もりが、いつの間にか無い。

 ガバリと起きたら、なぜか三枝が右手をぐうにして仁王門立ちしていた。

「アンタ、家にまで連れ込んだくせに……逃げられるようなこと……したんじゃないでしょうねぇ!?」

 朝っぱらから憤怒の形相の三枝はいささか刺激が強い…。

 ガバッとシャツを脱いで聞いた。

「いつ?今さっき?」

「ちょっと!目の前で着替えないでよっ!今さっき!玄関ですれ違ったわ」

 三枝があわててくるりと後ろを向いた。

 クローゼットから適当な服を選び、車のキーをつかんで家を飛び出した。

「私、これから出張だから、じゃあね!」

 という三枝と別れて愛車に乗り込む。


 毎日追いかけっこしてるようだ。

 こうなったら絶対逃がさねぇ。

 昨日のあの奈都を、放っておくわけにはいかなかった。駅で追い付かなかったら事務所どころか、自宅まで行くくらいのつもりだった。

 泣いて泣いて、自分の殻に閉じ籠ろうとする奈都をただひたすらに甘やかした。けれど、最後まで相楽の話はしてくれなかった。

 まだ足りない。

 どうしたら俺を信用してくれるようになる?

 そもそもここまで逃げるって、それもどうなんだ?

 嫌われてはいない……と思う。多分。

 甘い言葉に真っ赤になりながらも、すがるように向けてくるあの茶色い瞳と、スーツの裾に伸びてきた手を信用するしかない。


 自宅前まで来たときに、さすがに「俺はストーカーか?」という疑問も浮かんだが、脱兎のごとく走り出した奈都を見たら吹き飛んだ。

 無自覚か?あれ。

 確かに全力で逃げてる。

 どんくさいかと思ったら、意外と足早いし。実際、見失ったし。

 でも、逃げる前の一瞬、確かに目が言っていたのだ。


「おいかけて」


 と。


 *****


『ごめんてー!だって聞かれたら答えるしかないじゃん。神崎さん、アグレッシブなんだもん。なに?いいとこだったの?寸止め的な?』

「違う」

 東海林といい翔といい、こいつら俺を何だと思ってるんだ。

 それまでふざけてた翔が真面目な声で言った。

『来たよ。相楽ディレクター。個人事務所を新築するそうだ』

「そうか……」

 どうやって奈都に会わせないようにするか、頭のなかで算段を始める。

『どう?聞けた?』

「いや、天岩戸はなかなか固くてな」

『もっかいごめん。俺はある程度聞いちゃった』

「例の会社か?」

『そう』

「俺は奈都から聞く」

『ああ、そうしな。とりあえず今日は事務所(こっち)来なくていいから、倉庫をお願い。アレもそこにあるから。バラすなら丁度いいでしょ』

「……わかった」

 通話を切ったところで、向こうから席に戻ってくる奈都が見える。


 二人ともカジュアルな格好だったので、ランチも近場の気軽なイタリアンにした。

「こないだもそうだったけど、如月さんはなんで私の好みを知ってるの?」

 観念したのか、リラックスしたのか、やっと敬語が取れた。口元が緩みそうになるが、それを見たらまた元に戻りそうで、スルーしておく。

「好み?」

 聞き返すと、あらかた食べ終わった皿を指差して奈都が首を傾げる。

「如月さんが注文するもの、ほぼ私の好きなもの」

 そんなことを気にせず自分が食いたいものを注文していた。

「そうか。食い物の趣味が合ってていいじゃないか」

「……。まあ、そう……ですけど……」

 歯切れが悪い返事だ。

「食ったらまた倉庫の整理だ。翔に戻ってくるな、と言われた」

 神妙に頷いてるが、これは相楽のことを心配してるのか、神崎のことを気遣っているのか…。


 倉庫にしてるマンションに戻った。

 また片付け再開だが、俺は()()()()を奈都に見せようと思っていた。しかし、その()()()()がまだまだ奥の方にある。

「如月さん、これはさっきのと同じにしていい?」

 数冊のファイルを持って奈都が聞いてくる。

 わざと返事をせずに、自分の作業の手を止めずにいた。

「如月さん?」

 俺の顔を覗きこんでくる。

 目線だけ合わせて無言でいると、どうやら気づいたようだ。

「……っ、……り、りひと…さん?」

 真っ赤になって目線を反らしながら小声で俺の名前を呼ぶ奈都は、想像以上にかわいかった。

 でもまだ許さない。

 顎をつかんでこちらを向かせる。

「ん?」

 聞き返してやった。

「り、………………理人」

 かなり間があったな。

「おう」

 自分の顔が緩んでる自覚はある。やっと呼ばれた自分の名前が、とてつもなくいい響きに聞こえる。

「理人」

「なんだ?」

「――っ、理人」

 箍が外れたらしい奈都は何度も俺の名前を呼んだ。

「私を、甘やかさないで……」

 両手で頬をつかんで上を向かせる。

「なんで?」

「だって、これ以上されたら……、頼っちゃう」

「いいぜ?頼って」

「ダメでしょう」

「ダメじゃない。頼れよ」

 しばし無言の後、目線をさ迷わせる。

「なんだ?こっち見ろ。何が不安なんだ?」

「……。不安とかじゃ、なくて」

 なんか、我慢してるような顔してんな。

「言えよ。全部見せろって言っただろ?」

「―――っ!」

 なんでだ?急に泣きそうな顔になった。

「俺は信用できない?」

 そっと聞いてみた。

「ちがっ……違う!」

 即座に否定してくれたのは嬉しいが、何かが引っ掛かってることは確かだ。

 俺は奈都を離し、部屋の奥にまとめて置いてある大きなパネルの束に向かった。

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