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クールなメガネ上司の裏表  作者: キョウ
13/48

13: 起きないで下さい。

 二度あることは三度ある。


 今回は大丈夫。

 何があったか、ちゃんと覚えてる。

 逆に、今すぐ忘れて消去したいけど、残念ながら覚えてる。

 カーテンから漏れる光が明るくて早朝だと分かる。

 後ろから聞こえてくる規則的な寝息と、もう嗅ぎ慣れたウッディなハーブ系の香りに、自分がこんなに安心してることにビックリだ。

 そのせいか、近年稀に見る快眠だった。

 とはいえ、頭の中はスッキリしてるけど、泣きすぎて目も頭も痛い。

 さて、二度は身動ぎしただけで起きてしまったけど、今回はどうだろう?

 抱き枕状態で腰に回ってる腕を慎重に持ち上げてみる。こんな状況だけど、三度目ともなると結構冷静だぞ、私。

 ゆっくり如月さんの腕の中から抜け出し、彼が起きないことを確認して、ベッドから降りる。


 昨日は泣いてる私を如月さんはずっと離さず、キスの雨を降らせた。

 私はいつの間にか寝てしまったらしい。寝室に連れてかれてたことも全然覚えてない。

 改めて寝ている如月さんを見る。

 いつもスーツしか見てないから、くつろいだスウェットで、セットしてないサラサラの髪が額に落ちてる如月さんが別人のように見える。

 目を閉じてるから余計に長く見える睫毛、キレイな顎のライン、通った鼻筋、ちょっとぱかっと開いてる唇がかわいい……。

 いつの間にか如月さんはシャワーでも浴びたのか部屋着になってる。この人は、着る服や場所でだいぶイメージが変わる人なんじゃないかと気づいた。


 どうして、私を追いかけてきてくれたのか…。

 って、あんなに怯えてる人をほっとけるような人じゃないことは、もう分かってる。泣いてすがってしまったし…。

 でも、慰めるためだけに部屋まで入れてくれるのは……。


「……ん……」

 身動ぎした如月さんにビクッとしたが、そのまままたスーっと寝入ったのを見て、そっと布団から離れた。

 時計を見れば、朝の6時過ぎ。

 自分の格好を改めて見る。服は昨日のままだ。リビングに戻り、着ていた薄手のコートとカバンをソファーから回収して、そーっと玄関に向かう。

 会社は9時からだけど、今回はさすがにフレックスを使うつもりで一旦家に帰る気だった。玄関のカギを開けっ放しにしてしまうが、マンションはオートロックだったので多分大丈夫だろう…。

 泊めてもらったのに、挨拶も無しで出ていくことに罪悪感を感じつつ、玄関ドアに手をかけて、音がしないようにゆっくりと開けた。


 目の前に、朝の光に眩しく輝く肉感的美女が、今正にインターホンを押そうと人差し指を出している光景があった。

「さっ……!」

 声を上げそうになって、あわてて口を押さえる。

 向こうもビックリ顔で、私をまじまじと見た。

 こ、この状況はまずい……。

 昨日とは違う意味で血の気が引いていく。

 廊下に出て、まずはゆっくりドアを閉めた。ここで如月さんが起きてきたら目も当てられない。

三枝さんはエレガントなパンツスーツで、足元にはゴールドカラーの小ぶりなキャリーケースが置いてある。

「あの……三枝さん……」

「日向さん、大丈夫?」

 二人の声が同時に重なる。

 ん?大丈夫?

「あ、ごめんね。翔から聞いて、私これから出張だからこんな時間だけど様子を見に来たの」

 ん?ん?

 色々突っ込みたい所満載なんですが。

 神沢さんから私がここにいることを聞いた、ってことは如月さんが神沢さんに言った、ということ?そして、なぜに神沢さんは三枝さんに話して……

「私もこのマンションに住んでるの」

 サラリと答えをくれる。

 昨日の怯えっぷりを神沢さんも見ていた。心配して、わざわざ三枝さんをよこしてくれた、ということか。

 でも、神沢さん。人選間違ってます…。

 いくら精神的に不安定な同僚を落ち着かせるため、とはいえ彼氏の家に一晩泊まった女性の様子を彼女に確認させる……って、鬼ですか?

 あ、神沢さんは三枝さんが如月さんの彼女だって、知らないとか?

「あ、あのっ……、本当に何もなかったのでご安心下さい!皆さんにご心配をお掛けして…本当に申し訳ありません!それではっ、失礼します!」

 深々と頭を下げて、いたたまれなさに早足でその場を離れた。

「え?あ……ちょっと……!」

 三枝さんが後ろから声をかけてきてるのは聞こえたけど、これ以上あそこにいられなかった。

 心臓がぎゅーっとして痛い。


 また朝帰りしてしまった。

 でも、今回はかなちゃんのことを心配しなくていいらしい。

 如月さんが昨日のうちにかなちゃんに連絡してくれたからだ。いつの間に連絡先を交換したのか。

 とはいえ、なんて言ったのか聞いてない…。事と次第によってはメチャクチャ怒られるかもしれない。

 だって、仕事とはいえ、自分で危険だと分かってる穴に飛び込んで案の定傷ついて周りに迷惑をかける……って、どんだけアホな女なんだ、私!

 下り電車に乗りながら、どんどんめげていく心にふと昨日の如月さんの声が甦る。


「奈都……。大丈夫…俺がいるだろ?」


「もっと、泣けよ……」


「……なーつ、ホラ、こっち向けって」


「ん?眠いのか?」


「くっ……、顔ぐちゃぐちゃだぞ。かわいい」


「いいから、隠すな。全部、見せろ」


「……なつ……、なつ?寝たのか?」


 言われた言葉と、これっぽっちも隠さない色気駄々漏れの甘い顔の如月さんを思い出して、電車の中だというのに体がムズムズして顔から火が出そう。

 三枝さんに「何もなかった」と言ったけど、こ、これは何もなかったと言っていいレベルなのか……な?いや、ダメだろう。

 如月さんが優しすぎるのか、これは慰めるという行為の範囲を越えている気がする。

 あんな完璧カップルの邪魔者にはなりたくない。そう思ったら心臓がまたキュウと傷んだ。


 さっきから携帯が振動し続けてるのは知ってるけど、あえて無視している。

 カバンの中に自分の気持ちと携帯を押し込めて、開けないように家に帰った。


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