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クールなメガネ上司の裏表  作者: キョウ
10/48

10: 声をかけないで下さい。

 振り返って顔を見たら、その男は瞳を細くして変わらないぺったりとした笑顔を向けられた。

 手足の長いひょろりとした体形は変わらず、前は長かった髪を短くしている。たれ目が細められ、粘り気のある視線を放っていた。

 自分の手足からすーっと血が引いていくのがわかった。


 ……やだ……、やだっ!


 左肩をつかんでる手から、毒を流し込まれてるような感じにぶわりと鳥肌が立つ。と同時に悪寒と震えが走る。

 叫びそうになるのをこらえようとしたら、右肩にあたたかいものが触れた。と、同時に左肩に乗っていた手をつかんで持ち上げる腕が見えた。

 腕の先を辿って見上げたら、如月さんの無表情があった。

「守ってやるよ」

 さっきの言葉が頭によぎる。

 右肩には如月さんの手が添えられていて、よろめいた私を危なげなく後ろから支えてくれた。如月さんは相手の腕をぶんっと離すと、相手をじろりと見た。

「相楽さん、日向さんと知り合いなんですか?」

 一連の動きを見てなかった谷中さんが、肩をつかんだ男―――相楽 利之(さがら としゆき)に向かって言った。

「あ、ああ。前にちょっと……ね……」

 如月さんの威圧感にたじろいだのか、ちょっとどもりながら返事をしてジリジリ後退していった。

「そうそう、アンタ、神沢翔だろ?今度俺の事務所を新築するんでデザイン頼めないかなぁ?」

 急に話題を変えて神沢さんに向かって言った。その場にいた全員がピシッと固まる。

 かなり失礼なもの言いを全く気にした風もなく、神沢さんはニッコリ笑って

「正式な依頼でしたら、今度事務所を通してお願いします」

 と、言いながら名刺を渡した。

 そこに東海林さんが声をかけた。

「ちょっと、アンタこんなとこにいていいの?今頃Aスタジオで撮影中じゃないの?」

「あ?ああ……。ま、俺がいなくてもなんとかなるっしょ」

 そう言いながら、私を振り返りニヤリと笑ってからスタジオを出て行った。


「今の、何?」

 珍しく神沢さんが不機嫌そうな声で呟いた。

 東海林さんが、ため息をつきながらそれに答える。

「相楽利之。一応肩書きはディレクターなんだけど、ただの給料泥棒よ。どっかのお偉いさんの次男らしくて、コネ入社してフラフラしてんのよ!そのくせ口だけ出してきて現場をむちゃくちゃにするんだから、局のお荷物なのよ!っていうか、何?事務所新築って!?アイツ、独立するつもりぃ~!?」

 辛辣な言い方でメチャクチャ文句言ってるけど、東海林さん立場的に大丈夫なのかなぁ……などと思ったあたりで、段々意識が遠くなって行く…。

「……おい、奈都?お前、顔真っ青……」

 まだ感じる後ろの温もりにズルズルもたれかかるように私の意識は途絶えた。


 *****


「……あれから、どのくらい経ちました?」

 どうやらここは控え室のようだ。室内の時計を見ると、そんなにたってない。まだ神沢さんは撮影中のはずだ。

「お前、それやめろよ」

「え?」

 相変わらず抱きしめられたままで、急に怒られた。

「無意識?聞かれたくない話題が出ると話を反らすだろ」

 ……。そう、だった?そうかもしれない。

 今のは確かに相楽さんのことを言いたくなくて、別の話題にした……つもりはある。

 そういや前にも同じようなこと言われた…。

「言いたくないなら、言いたくないって言え」

「わ……わかりました」

 ぐいっと両肩を捕まれて真正面で向き合わされた。メガネのない如月さんの顔が目の前…。

「で?相楽とやらに何された?」

 凄むように聞かれた。

「……以前……知り合って……、ちょっとトラブルになり……ました。詳細は……言いたくありません!」

 最後の方は焦って早口になってしまった。如月さんは、ハーッと長いため息をついてから私の頭をくしゃっと撫でた。

「あんなに怯えるくらいなら、どう考えたって、ちょっとしたトラブルじゃねぇだろ。まあ、いい。今は聞かないでいてやる」

 頭にあった手が頬に触れる。

 ゆっくり、壊れものを扱うようにそっと触れてくるその手があたたかくて気持ちいい。

 どうして、如月さんは私に触れてくるのだろう?

 さっきも、誰よりも早く私の異変に気付いて助けてくれた…。

「あっ……あの、先ほどは、ありがとうございました……」

「ん?ああ、守ってやるって言ったしな」

 ニヤリと笑って、それでもまだ手が頬をふにふに触ってる。

「……っん……!」

 くすぐったさに顔をしかめたら、如月さんの顔がニヤリからふわりと甘い微笑に変わった。

 心臓が跳ねる。

 ヤバいヤバい!こんな整った顔の甘い微笑なんて目の前で見てしまったら……


「かっ、神沢さんはまだ撮影中ですよねっ!?」

 ほっぺふにふにを不自然にならないように止めるため、話題を変えたら声が裏返った。は、恥ずかしい!

「お、そうだ。奈都はここでもう少し休んでろ。俺はスタジオに戻って翔に言ってくる」

 膝に抱えてた私を下ろして如月さんは立ちあがりながら言った。ていうか、ずっと抱っこされたままだった!重かったのに!と、今頃気付いて赤面する。

「だ、大丈夫です。私も戻ります」

「ダメだ。俺が送ってやるからここで待ってろ。すぐ戻る」

 既にドアに向かってた如月さんは振り替えってそう言うと、有無を言わさず出て行ってしまった…。


「俺が送ってやる……って、もう帰るってこと?」

 ポツンと部屋に残された私は1人で呟いた。

 いやいやいや、神沢さんまだ時間かかるよね?私と如月さんだけ先に帰るとかダメでしょ。

 とはいえ、自分も戻る、とか言ってしまったが、また相楽さんに会うのが嫌でスタジオに戻りたくない。如月さんもそれをわかって、ここにいろ、と言ってくれたんだろう。

 スタジオに戻れないなら、もう局にいる意味ないよね…。そもそもここ控え室を占領してるのも申し訳ない。更に言えば神沢さんの取材なのに、私のプライベートの問題で迷惑もかけたくない。

 と、考えて1人で事務所に戻ることにした。

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