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第5話 僕は幼女趣味じゃなく妖女趣味のようです

「オクタウィアさんと婚約ですか?」


 アグリッピナに皇帝の住まいへ呼び出されたと思ったら、皇帝の娘との結婚話を持ってきていた。


「そうよ。皇帝の正当な血筋である彼女との婚約よ。嬉しいでしょ。」


 彼女のほうが嬉しそうだ。何か思惑があるらしい。


「ふざけんな。貴女と別れて10歳の子供と婚約しろと言うのか? 僕のことが要らないというんだったらいつでも出て行くと言っているだろう。こんな回りくどいことをするなよ。」


 彼女の思いが透けて見えてくる。皇后の息子である僕と皇帝の娘を結婚させることで本気で僕を皇帝にしたいようだ。


 これで僕は皇帝の息子のブリタンニクスと法律上同格の存在となったのだ。


 いや僕が年上である分だけ有利と言ってもいいかもしれない。どうしても息子を皇帝にしたいアグリッピナにとっては絶対にやっておく必要があった一手なのだろう。


「ち、違うのよ。」


「何が違うんだよ。」


「皇帝が言いだしたことなのよ。クラウディウスは貴方のことが大層気に入ったみたいなの。ずっと傍に居て欲しいんですって。」


 最近確かに頻繁に皇帝に呼び出されて、政について聞かれている。どうも母親と同じように権力欲があると思っているようだ。本当に僕はここに居てもいいのだろうか。


「それでも同じことだろ。皇帝の傍に行くということは貴女と同衾できないということだ。しかも相手が10歳の子供だと。僕にどうしろと言うんだよ。」


「別にすぐに手を出せと言っているわけじゃないわ。」


「あたりまえだ。僕は幼女趣味(ロリコン)じゃないんだからな。」


 でも彼女の息子は13歳だから普通なのかもしれない。でも僕が13歳だったとしても無理だろうな。


「性欲処理なら大丈夫よ。オクタウィアに仕える解放奴隷にそれを専門にしている女性がいるから。気持ちいいからって夢中になりすぎてもダメよ。」


 何を考えているんだ。この女。エッチは愛情を交わす手段であって性欲処理じゃないんだということがわからないらしい。僕はなんでこんな女が好きなんだろうな。死にたくなってきた。オリンピックに出場するまで死なないけど。


     ☆


「私では気に入りませんか。別の女性を呼んできましょうか?」


 オクタウィアさんへ挨拶に窺うと意外と相手も乗り気だった。彼女が語ったところによると以前の婚約者は44歳だというから驚きだ。幾らなんでもそれは嫌だろう。


 そして皇帝の住まいに部屋を与えられ、一緒に住むことになった。


「違うんだ。」


 全く何を焦っているんだ僕は童貞じゃあるまいし。その日の夜、1人の女性が僕の部屋に訪ねてきた。何も言わずに寝室まで入ってきた彼女がいきなり着ている服を脱ぎ出したのだ。


 年齢は20歳くらいで中々の美人だ。肉付きもいい。この時代の若い女性は細過ぎるのだ。


「私でよろしいのでしょうか。お聞き入れ頂きありがとうございます。アクテと申します。よろしくお願いします。」


 僕が頷くと即座に強引に圧し掛かってきた。まるでエッチを覚えたばかりの少年のように早急すぎる。


「僕は君がいいが、君は僕ではダメなようだ。愛が感じられない。だから横で寝るだけにして欲しい。丁度、温もりが欲しかったんだ。」


 完全には拒絶しない。アグリッピナに実質的な別れ告げられ心が冷え込んでいる。温もりが欲しいのは確かなのだ。


 視線を感じる。僕に圧し掛かったままの姿勢で彼女がマジマジと見ている。


「何? どうしてもエッチしないと何か問題が発生するのか?」


「えっ。ええ・・・まあ。後で私の身体を調べることもあるようです。・・・手を出さないと・・・子供を作る能力が・・・無いと・・・判断されかねないと・・・思います。」


 考え考え説明をしているところを見ると嘘だな。たとえ本当であっても、アグリッピナに思惑に乗る必要がどこにある。


「解って言っているのか? 脅迫しているも同然なんだぞ。とにかく君の身体に心が付いていないのならエッチはしない。」


「それじゃあ。困るんです。」


 悲鳴に近い声をあげる。やはり何かあるようだ。


「やっと本音を言ったな。どういうことだ。相談に乗るぞ。」


「母が・・・母が・・・鉱山奴隷として働かされていて、引き取りたいんです。そのためには貴方の力が必要なんです。」


 解放奴隷が奴隷を買うことは規制されており、病気になって使えなくなった奴隷は捨てられる運命なのだそうだ。


「それなら問題無いじゃないか。君が愛や心がこもったエッチをしてくれれば、それだけの財産と立場を君に与えることを約束しよう。まあ頑張って僕をその気にさせてくれ。今日だけは手付け替わりに抱いてやろう。それでいいか?」


 どうせアグリッピナを思い切れない限り、傍を離れることなんてできないんだ。心を開かせるように頑張ってみよう。


「はいっ。」


     ☆


 郊外に家を購入した。女神に貰ったお金の半分近くをつぎ込んだ。アグリッピナに小遣いを貰っているが、他人の人生で暇を潰すと決めたんだから、自分の金を使いたかったのだ。家の名義はアクテにしておいた。


 アクテの母親は病気になっていた。捨てられる寸前だったようで殆どタダ同然だった。なるほど急がなくてはいけなかったわけだ。間に合ってよかった。


「ありがとうございます。」


「ここに薬がある。これを使う使わないは君が決めてくれ。使えば病気が治るかもしれないが薬が合わなければ悪化するかもしれないし、最悪死ぬかもしれない。だが今のままでは半年も持たないぞ。」


 女神に貰った喘息の薬と過眠症の目覚まし薬を半年分取り出し、懸命に頭を下げ続けるアクテに提案する。僕の見立てでは喘息の症状だった。痰に血が混じっているからかなり酷いようだ。喘息は気管内部が炎症を起こし気管が狭くなる病気でセキをすると炎症が酷くなってしまう。


 空気が綺麗なところで静養し、夜中もセキを我慢するように付きっ切りで看病すれば治るかもしれないがかなり確率が低い賭けになってしまう。


 相性が悪くても酷い副作用が出るだけで使い続ければ治ると思うが、なにぶん現代人向けの薬だ。薬に耐性の無い古代ローマ帝国の人間が使っても大丈夫かわからないのだ。


 過眠症の目覚まし薬は興奮剤の一種としてドーピング検査に引っ掛かったが気管を広げる作用もあり、喘息の薬としても使われているものだ。


 喘息が苦しいのは自分の経験から解っていることなので治してやりたいと思うが現代の医者が居ないしレントゲンさえ無いのでは判断できない。何か他に病気を持っているかもしれないと思うと自分では判断できなかった。


「使ってみます。」


 アクテは薬を前にして30分くらい考え込んでいたが、ようやく重い腰を上げた。信用してくれたらしい。1歩進歩したかな。


「この薬は寝る前と昼食後に飲んでくれ。」


 そういって過眠症の目覚まし薬を渡す。本当は3錠が用量の最大なのだが様子をみるため、2錠にしておく。確か僕の場合もそうだったはずだ。


 咳止めはテープタイプと錠剤だから説明は簡単だ。


 だが吸入剤は説明が大変だった。現代人の僕でも覚えるのが大変だったのだ。何度も何度もやり直しを命じる。口から漏れる量で判断するしかないのだが、上手く肺の中に入って行かなければ効果は無い。


「うがいも忘れずにすること。」


 最後にうがい薬を渡して終わりだ。


 ただ厄介なのは喘息は再発しやすいことだ。セキ風邪が原因となりやすい。その辺はおいおい教えていくしかないだろう。

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