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第3話 もしローマ帝国の国民が全てストア派哲学者だったならば

あらすじとプロローグを少し書き直してみました。


「ダメだよ。それじゃあ。国民が不幸になってしまうよ。」


 哲学者セネカの授業を受けていたときだった。彼の言う質素倹約をすれば幸福になるという理論はどう考えても論理破綻しているのだ。


「私に議論を挑むとは無謀ですね。」


 セネカが皺だらけの顔をくしゃくしゃにして嬉しそうにしている。議論することが3度の飯よりも好きなんだな。哲学者って皆そうなのかな。


「じゃあローマ帝国の国民が全てストア派哲学を実践しているとするよね。貴方は法務官だからお金は沢山貰っているよね。質素倹約な生活を送り余ったお金はどうするの。」


 軍人ブッルスによると僕の家庭教師代のほうが法務官の給与よりも多いそうだけど。


「ローマ帝国に返しますね。」


 セネカが自慢そうに胸を張る。ダメだこりゃ。


「受け取ったお金をローマ帝国はどうすればいいの?」


「貧しい者に施しをすればいいのです。それで幸せになれます。」


「でも貴方が余らせたお金だけじゃあ全ての人に施しできないよ。たとえローマ帝国中の人々が余らせたお金を全て集めたとしても有限だよね。一時的には幸せになれるけど半年後には不幸になる。」


「いえ違います。施しをする側が幸せになるのです。」


 なるほど気持ちの問題か。ストア派って一種の聖職者なのかな。


「そっかそうだね。でも半年後には一時的に増えていた収入が元に戻るんだよね。それって不幸と言わないかな。どうするの?」


「そ、それは。」


 セネカが黙り込む。どう考えても論理破綻しているのだ。


「それって多分ローマ帝国が支配者だから、それでいいと思うんだ。属州から収入の10ぶんの1の税金を取っているよね。それに小麦がどれだけ取れなくても同じ値段で買える。エジプトは皇帝の持ち物だから収入は全てローマ帝国のものだ。だからローマ市民はパンが貰えて飢えない。」


 どれもこれもセネカから教えて貰ったことばかりだ。


「ネルロならどうやって国民を飢えさせないんだ。」


 ほら今度は反対にセネカが僕を言い負かそうとしてくる。余程、悔しかったらしい。大人げないぞ。もう50歳になろうという男が。それとも議論が楽しいだけなのか。


「僕も同じように金持ちにお金を出させるよ。」


 僕はセネカがツッコミ易いように同じネタでいくことにした。


「それじゃあ一緒じゃないか。いつかはお金が尽きる。」


 セネカは本当に楽しそうだ。でもこれがどう変わるかと思うと楽しみだ。そういう僕もセネカとの議論を楽しんでいるのかもしれない。


「違うよ。お金を出させた上でお金を儲けて貰うんだ。」


 まあ経済学というほどのことでもないが資本家にお金を出させるには儲けが無くてはいけない。


「金持ちに商売をしろというのは無理だと思うぞ。」


 しかも楽して儲けさせる必要がある。そこに労働が伴ってはいけない。


「そんなことは考えていないよ。貨幣改鋳をするんだ。ローマ帝国の支配地域には沢山銀が取れるところがあるでしょ。銀の含有量が1パーセントだけ多い貨幣を作って流通させるんだ。古い貨幣は回収して潰して新しい貨幣を作る材料にする。」


 この手段は貨幣が銀という価値の高いもので出来ているからこそできるのだ。現代みたいに紙幣では到底無理だ。


「それだけじゃあ金持ちはお金を出さないと思うぞ。古い貨幣を溜め込んだままだ。」


「属州の税金を一時的に下げるんだ。そして1年ごとに少しずつ上げていくとどうなると思う?」


「それでも金持ちはお金を出さないと思うぞ。」


「そうかな。例えば属州で取れた木材があるとするよね。今年の税金は5パーセントだ。でも来年の税金は6パーセントだ。木材の価格はどうなると思う?」


「上がるな。」


「貴方が木材を買うとしたら、今年に買う? それとも来年買う?」


「絶対、今年だな。」


「来年買うつもりだったかもしれない。再来年買うつもりだったかもしれない。でも今年買う古い貨幣でね。つまり古い貨幣を置いておけば置くほど多くの木材を買えなくなってしまうんだ。」


「でも新しい貨幣がどう関わってくるんだ。」


「でも新しい貨幣なら少しだけ少ない貨幣で木材が買える。普通、古い貨幣なら101枚必要なところ新しい貨幣なら100枚だよ。もちろんローマ帝国が銀の含有量を保証する必要があるんだけどね。木材を売る側は新しい貨幣のほうが欲しくなるよね。まあイメージの問題で実際の価値は1パーセントしか違わないんだけどね。多少無理してでも新しい貨幣を手に入れようとする。そうすると新しい貨幣で買う材木の値段が古い貨幣よりも1パーセント以上安くなる。」


「なんか詐欺みたいだな。だけどそれが国民の幸せにどう繋がってくるんだ。」


「同じことが建物にも言えるよね。多くて安くなっている木材を使った今年と少しだけ上がる来年の木材。建てるなら今年だよね。でもローマの土地は限りがある。新しいところに建てる場所が無い。従って古い建物は取り壊され、新しい建物が建つ。そうすれば大工さんの収入が増えるんだ。」


 属州から入ってくる物資は木材だけじゃない。ありとあらゆる物資の量が増え値段が下がるのだ。そうすればそれらを国内で扱っている人々の収入が少しずつ増え続けるのだ。


「なるほど、でも毎年税金を上げ続けるわけにはいかないよな。属州が破綻して暴動が起こるぞ。」


「5パーセント下げておいて毎年1パーセントずつ上げていって属州が文句を言うのは6年後でしょうか7年後でしょうか。その時に上げるのを止めればいいのですよ。そのころには全て新しい貨幣に変わっているでしょうね。」


 最悪、属州とあらかじめ取り決めて10年後に元に戻すことにすればすっきりするんだけど。無理だろうな。


 少しだけ上がった税金を元に戻すという取引材料をローマ帝国が得られるわけだから、6年後でも構わない。目減りした15パーセント分の税金を取ったころに元に戻せばトータルで税収は変わらないのだ。


「参ったな。突っ込むところが無いぞ。」


 参ったと言いながらもセネカは嬉しそうだ。いやいやいや。これ経済学の問題だからね。セネカから習ってないからね。聞いてるのセネカ。

不思議ですよね。

何故政治家は消費税を上げるとき少しずつ上げないのでしょうか?

経済を活性化させるチャンス。これを使わない手は無いと思うのですが。

私なら0.5%刻みくらいで上げ続けるのに(笑)



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