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第2話 遠回りをさせられています

 寝物語として彼女アグリッピナから聞いた半生は年齢32歳にして波乱万丈だった。


 初代皇帝アウグストゥスの孫を母親に持ち、皇帝カリグラを兄に持つ皇帝一家だが、カリグラ暗殺を企てたという冤罪で流刑地に送り込まれたそうだ。その後皇帝カリグラが暗殺され、父親の弟クラウディウス帝の時代にローマに戻ってきたそうだ。


 この時代、共和制の時代が色濃く残っており、皇帝に集中する権力の分散を狙い、元老院や軍部が暗殺はもちろんのこと皇后に対する誘惑や唆しなどありとあらゆる手段を使って暗躍しているらしい。


 彼女は過去に2度結婚しており広大な土地を所有する資産家だという。


 クラウディウス帝の妻メッサリナが亡くなっており、その後釜を狙っているらしい。


 つまり元老院の陰謀により政から遠ざけられた復讐に叔父と結婚して、政にの中心に復帰したいという権力欲の持ち主のようだ。この世界の法律でも叔父との結婚は許されていないそうだが、そこは皇帝一家の権力を使えば容易いというから驚きだ。


「でも貴方が一番よ。皆、乱暴に抱くばかりでこんなに優しくしてくれる男性は居なかったの。」


 その言葉が嘘でも本当でもどうでもいい。


 実の母親は東京オリンピックの出場メンバーに選ばれたときにはまるで自分の手柄のようにマスコミのインタビューに答えていたというのにドーピング検査で陽性反応が出た途端、何処かに雲隠れしてしまったのだ。


 情は薄いよりも熱いほうが良い。たとえそれが相手を殺してしまうほど激しいものだとしても。この母親ならどんな相手からも守ってくれそうだ。


     ☆


「そうです。たとえローマ皇帝がオリンピアに出たいと言っても出られません。」


 家庭教師としてつけられた哲学者セネカと軍人ブッルスにギリシャについて教えて貰っていたところで古代オリンピックについて質問を投げかけるととんでもない回答が返ってきた。


 古代オリンピックは古代ギリシャのための祭典であって、他国の人間はどれだけ権力があっても出場できないらしい。


 なんという差別だ。ここに来ても僕は出場機会を得られない差別を受け続けることになるらしい。どうすればいいんだ。


「セネカは杓子定規だな。ネルオ。そんなにオリンピアに出てみたいのか?」


 それを聞いていたブッルスが笑いかけてくる。彼は軍人でありながら身体に障害を持っている。これまで一体どれだけ差別を受け続けてきたのだろう。


「ええ。僕はそのために生まれてきたのです。」


 正確には転生してきたのだがそれはどうでもいいことだ。


「ははは。大げさだな。まあ確かにネルオの足は速いからな。間違いなく優勝できるだろう。どうしても出場したければ裏技があるぞ。今、オリンピアの運営権を握っているのはギリシャのエーリスという都市だ。皇帝の権限を持ってすればオリンピアの開催を中止させることもできる。それを盾に脅せばいいんだ。」


 なるほど皇帝に謁見できる機会があれば進言してみよう。


 アグリッピナの言う通り、皇帝になれたならば古代ギリシャを滅ぼしてでも運営権を奪ってしまえばいい。そしてギリシャ人しか出場できない差別なんて無くしてしまえばいいのだ。


     ☆


 アグリッピナが皇后になった。本当に叔父と結婚したらしい。結婚式は盛大に行なわれ、そのときに僕が叔父の養子になると彼女に告げられた。


 現代では連れ子が再婚相手の養子になることは珍しく無いが、古代ローマ帝国の皇帝としては異例なことで法律上実子と同列に並ぶらしいのだ。


 このときから僕の名前はネロ・クラウディウス・カエサル・ドルーススとなった。何処かで聞いた名前だ。大学では経済学を主に取っていて歴史は殆ど知らない。こんなことなら習っておくべきだった。


「やっぱり、ネルオの胸がいいわ。クラウディウスなんて、痩せててひょろひょろなのよ。」


 皇后になった今でも時折訪ねてきては同衾する仲だ。皇帝は男としての魅力は無いらしい。


「仕方が無いじゃないか。あれは子供の頃に病気を患った所為なんだよ。そんな差別は許さない。」


 皇帝クラウディウスは優しそうな人だ。ただ顔面に麻痺があるようで喋る際に涎が出たりどもったりしていて周囲の人間は傍に寄りたがらないようだった。


 昔からそうらしいので出産のときか子供の頃に患った病気の所為なんだろう。彼女と同衾している僕が言うのもなんだが、そんなことで差別するなんてあってはならないことだ。


 謁見の後、王宮で会ったときに彼を抱き締めて母のことをよろしくお願いしますと頼むと随分と驚いた表情をしていた。そんなふうに近付いてくる者が居なかったらしい。


「ふふふ。随分と気に入ったのね。クラウディウスも貴方を気に入ったようよ。」


「そういう問題じゃない。差別するなと言っているんだ。優しくしてあげなさい。」


「どういうつもり何様のつもりよ。」


「僕は別に全てを投げ出しても構わないんだよ。居なくなって欲しいのなら、今すぐこの場から消え去るのみだ。」


 ハッキリ言って凄く遠回りをしている。皇帝になんかなる必要は無い。ローマじゃなくてもギリシャで直接、有力者の養子にでもなってオリンピアに出場できればいいのだ。彼女の息子という立場なら今すぐでも可能だ。


「待って! 何が不満なのよ。」


 僕がそんなことを言い出すとは露ほども思わなかったらしい。とにかく僕は差別が嫌いだ。目の前で行なわれるのなら、何が何でも阻止してやる。


「僕は差別をする人間が嫌いなんだ。ただそれだけだよ。」


「わかったわよ。クラウディウスに優しくすればいいのね。」


「寝室での話じゃないぞ。政だけの話でも無い、全てにおいてだ。彼の補助をしてあげればいい。君ならできるはずだ。」


 最近は彼女が政に口を出しているらしい。全く権力欲の強い女だ。それをして元老院の恨みを買うのも彼女の自由だが皇帝の権力を利用するならば、優しくするくらい何でもないことのはずだ。


なんかこの時代の情報は某歴史家が一方的に悪辣に記述したものしか残って無くて全く信頼できません。

他の書物は後世で廃棄されてしまったのでしょうね。かなり情報を集めるのが厄介です。


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