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【深木】はらぺこさんの異世界レシピ  作者: 深木【N-Star】
第二章
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№5 葛藤のパルミエ 2

「そのとおりです。そういえば、マリーさんの作ってたデトランプもそろそろいい頃合いなんじゃないですか?」

「あ、たしかに丁度よくなってますね」


 言われたとおり冷蔵庫の中を確認してみれば、ほどよくデトランプが冷えていたので取り出し、作業台の上に広げる。


「どうぞ」

「ありがとうございます。じゃぁ、やっちゃいますね!」


 マルクさんから渡されたバターを受取った私は、そう宣言してパイ生地の折り込み作業に入った。

 まずはバターがギリギリ包める程度の大きさにデトランプを伸ばし、その上に板状にしたバターを乗せる。四角いデトランプの真ん中に、ダイヤ型のバターの板が載っているイメージだ。

 デトランプの四つの角をダイヤ型のバターの中心で合わせるように、デトランプでバターを包んだら、つなぎ目を指先でしっかり摘まんで生地をくっつける。

 あとは打ち粉をしながら、正方形のパイ生地を三~四倍くらいの長さの長方形になるまで伸ばし、三つ折りに。今度は方向を変えて、折り目が見えている辺を自分の腹に向けて、再び三~四倍くらいの長さの長方形になるまで伸ばし、三つ折りにする。


 このあたりで、そろそろ生地が温まりダレて来る頃なので、乾燥しないようにラップや固く絞った布巾などで包んで、冷蔵庫でしばらく休ませる。

 折り込みパイは生地が温まり間にあるバター層が溶けてしまうと、デトランプの層にバターが吸収されてしまい、焼いた時に膨らまないという大変悲しい事態に陥る。そのため生地が温まり過ぎないよう、気を付けなければならないのだ。

 生地が冷えたら、長さの長方形になるまで伸ばして三つ折りにする作業を生地の様子を見ながらあと四回、つまり計六回折り込んでパイ生地の完成である。長かった!


「できました!」

「お疲れ様」

「といっても、ここから一度生地を休ませてパルミエの形に折るんですけどね」

「でもパイ生地を作る工程と比べたら、あと少しじゃないですか」

「そうですね」


 そう言ってマルクさんと笑っていると、レイスから驚きの声が上がる。


「まだ完成じゃないのか……」


「これから形を整えて、砂糖を付けて焼くのよ」

「そうそう。まだ材料のパイ生地ができたところだからね」


 パイ生地の折り方をしっかり観察できて満足したのかご機嫌なマルクさんの言葉に、レイスは信じられないといった様子で目を見張る。といっても、相変わらずレイスの表情筋は仕事していないので、目と声で判断するしかないんだけどね。


 とはいえ、レイスの目は口ほどに物を言うのでわかりやすい。一年前と変わらず如実に心情を伝えてくるアンバーの瞳に懐かしさを覚え、私はなんとなくホッと息を吐いた。

 そしてまだ材料が揃っただけという現実に唖然としているレイス置いて、私はマルクさんと共に調理を再開すべく動き出す。パイ生地を使った料理やお菓子には中に詰める具材も手が込んでいるものが多いので、この程度で心折れていたら話にならないからね。


「マリーさんが残してくれたレシピは読みましたけど、パルミエはまだ試してないから楽しみです」

「切って、お砂糖つけて焼くだけのシンプルなお菓子なんですけど、その分パイ生地の出来がわかりやすいので緊張するお菓子でもあるんですけどね」

「へぇ。パイ生地の練習用に俺も作ろうかな……あ、石窯の温度見ておきますね。アーモンドクッキーと同じくらいで大丈夫ですか?」

「大丈夫です。ありがとうございます。マルクさん!」


 石窯の温度を確認しに行くマルクさんをお礼の言葉と共に見送り、私はパルミエの調理に取りかかるべく、まな板と包丁を用意する。

 お城の調理長という肩書を持っているだけあり、マルクさんは石窯も扱えちゃうのだ。本当にすごいよね。オリュゾンにいた頃も何度かお世話になっており、細かい説明をしなくてもどれくらいの温度で焼きたいのか話も通じやすいので、ありがたいかぎりである。



 ……この世界で美味しいもの食べようと思ったら、人手がいるのよね。



 石窯とか、力作業とかね。オーブンなどの便利な調理機材がないこの世界で、魔法の扱いも覚束ない私一人で作れるものはかなり限られてしまう。

 一朝一夕には習得できない石窯はともかく、私ももっと体力と筋力がほしいな……。

 そんなことを考えながら私はパイ生地を取り出す。

 うん。いい感じに冷えているので、これなら大丈夫そうだ。

 作業台にパイ生地を乗せ、打ち粉をしながら五ミリの厚さに伸ばしていく。


 今回作るパルミエというお菓子は、コンビニやスーパーなどでもよく見かける断面がハートみたな形になるよう折り重ねたパイ菓子である。

 作り方は単純で、まずパイ生地が五ミリくらいの厚さになったら縦十センチ、横三十センチくらいの長方形に切り分け、パイ生地の中心に軽く印をつけて、生地全体に接着剤として薄く水を塗る。

 そして先ほど印を付けた中心は一センチくらい空けて生地の両端を二回折り、再度水を薄く塗って半分にしたらラップなどで包んで、冷凍庫でいったん休憩。

 生地が包丁で切れるくらい冷えたら、六~七ミリの厚さに切り分ける。

 次に、上になる面に砂糖を付けて並べていくんだけど、その際に生地が広がり過ぎるのを防ぐために互い違いに並べるとよい。

 あとは百八十度で約二十分焼いたら出来上がりである。


「できたのか?」

「ええ! あとはこれをマルクさんに焼いてもらったら食べられるわよ」


 完成の時が近づき弾む心のままレイスにそう告げれば、ようやく食べられるとわかったのか先ほどよりもずっと柔らかい声が耳をくすぐる。


「楽しみだな」

「そうね」


 期待に満ちた様子で砂糖がまぶされたパイ生地を眺めているアンバーの瞳が、輝く様子を思い浮かべながら私はマルクさんの元へパルミエの生地を運ぶ。

 完成をこんな風に心待ちにされると、作り手としても嬉しいかぎりだ。


「マルクさん! 生地の準備ができたのでお願いします!」

「お任せを。マリーさんが帰ってから、クッキーやパイを沢山焼いて練習したので一年前よりもっと上手くなりましたから、期待していてください」


 パチッとウインクを決めて、作業台に並べられたパルミエの生地をピールで軽々と攫っていくマルクさんの姿の頼もしさといったら。その上、クッキーやパイを焼くために一年間も腕を磨いてくれていたなんて、なんて素晴らしい人なんだろう。

 ピールの上にパルミエの生地を一つも取り残すことなく、一気に石窯の中へ収めたマルクさんの背に見惚れつつ待つこと、おおよそ二十分。

 石窯の中で燃える火にチロチロと焼かれていたパルミエの生地はふっくらと膨らみ、マルクさんが時々位置を調整してくれたお蔭で均一に茶色く染まった。また綺麗に色づいたパイの表面ではまぶしたお砂糖が揺らぐ火を受けてキラキラと輝きを放っている。

 焼けた小麦粉とたっぷり入れたバターの芳しさは格別で、共に香る砂糖の甘さが鼻先をくすぐれば、お腹の虫が辛抱たまらんといった様子で「クゥ~!」と声を上げた。


「マリーさん。もういいですよね?」

「はい!」

「じゃぁ、出しますよっ、と!」


 クルリと翻されたピールが勢いよく石窯の中に突っ込まれた次の瞬間、輝くハート形のパイ菓子が光の下に姿を現し、ザァーッと軽やかな音を鳴らしながら作業台の上に流れ出る。と同時に、先ほどもより強く甘い香りが放たれ、広い厨房内を一気に満たしていく。


 パルミエを見るかぎり上手く折り込めず融合してしまった層もなく、均一に伸ばせず分厚くなってしまっている層もないので、パイ生地の仕上がりは上々。食べるのが楽しみな出来である。

 肺一杯に幸せの香りを吸い込めば、胸に期待が満ちて、お腹の虫が早くおいでと鳴いた。

 おにぎりを食べていっぱいだったはずのお腹に隙間を空けて、お腹の虫がパルミエが入って来る時を今か今かと待ち構えている。



 いるんだけど、しばし我慢である。



「マリー?」

「もうちょっと待ってレイス。早く味見したい気持ちはものすごくよくわかるけどパイ菓子は焼き立てよりも少し熱が取れてからの方がサクッっとして美味しいから!」


 食べないのかと言いたげな声を漏らしたレイスに一息にパイ菓子の食べ頃を説明すれば、そうそうとマルクさんが頷く。

 温め直したクロワッサンの表層が少ししっとりするように、パイ菓子も熱々は少し柔らかい。

 そのため、粗熱が取れるのを待つ必要があるのだ。

 ちなみに家で温め直したクロワッサンも少し冷めるまで待つと表層がサクッとしてくるので、トースターから出して一、二分待ってから食べるのがベストだと私は思っている。



 そんなこんなで、二人と一緒にいい匂いを嗅ぎながらジリジリ待つこと、しばし。



「もう、いいと思うの」


 私の声にパッと顔を上げたレイスとマルクさんと目を合わせて厳かに頷けば、アンバーの瞳が輝き、反対側からはゴクリと唾を呑み込む音が聞こえた。私のお腹も激しく自己主張しているのでいそいそとパルミエを摘まみ上げれば、二人も手に取ったので頷き合っていざ実食である。



「「「いただきます!」」」



 サクッ! サクサクッ!


 見た目より軽いパルミエは、その重さどおり軽快な音と食感をもって口の中に消えていき、表面の砂糖がカリッとした感触と共に砕け溶けて、甘さを舌いっぱいに広げる。

 美味しい。それに軽いからサクサクと食べ進めてしまう。

 


 ――なんで、バターの風味と砂糖の甘さってこんなに幸せんだろう。

 そんなことを考えながら食べ進めること、五枚ほど。

 先延ばしにしていた食べたい欲求がようやく満たされ、人心地付いたので顔を上げれば、キラッキラッ輝くアンバーの瞳と目が合った。


「~~っ!」


 うん、うん。美味しいよね!

 言葉にならぬ声を上げて喜びを伝えるレイスに「わかる!」と頷きつつ、これだけ喜んでもらえると作った甲斐があるなぁと思う。


「気に入ったのならよかった。パイ生地はまだ残ってるから好きなだけ食べていいよ」


なんだか嬉しくなって、気が付けば私の口はそんな許可を出していた。


「!」

「ええっ?」


 目を見開いたレイスとマルクさんの驚いた声にハッと口を塞ぐも、時すでに遅く。


 ちょっと失敗したかも……。


 喜々として口に詰め込み始めたレイスを見た私はマルクさんに謝罪を込めて手を合わせ、追加分を作るべく余ったパイ生地を入れた冷凍庫へと向かう。

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[一言] あれ? 勇者様の好きな牛蒡のシーンが、再開の騒ぎでなくなっているww …ちゃんと、好物食べれたのかしら… 食べるシーン、楽しみにしてたのに侵入者騒動で忘れてたww
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