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【深木】はらぺこさんの異世界レシピ  作者: 深木【N-Star】
第二章
41/71

№1 衝撃の辛子明太子チャーハン  2

セロリと燻製イカはすでに小鉢に盛り付けあるし、わかめスープも保温中であとはよそうだけ。

あとは辛子明太子と紫蘇のチャーハンを作ったら楽しい昼食の時間だ。

想像すれば自ずと口元に笑みが浮かび、クゥとお腹の虫が鳴く。


――はいはい。早く作りますよ、っと。

今日も元気なお腹の虫に心の中でそう答えて、フライパンが載ったコンロに火をつける。

サラダ油大さじ一杯とマヨネーズ大さじ一杯をフライパンへ投入し、まずは弱火で温めながら混ぜ合わせる。

マヨネーズが溶けてきたら温かいご飯を六百グラム投入して強火に。

木べらでご飯をほぐしたらフライパンを振って具材を二つ折りにし、再びご飯をほぐす、という動作を繰り返し行い手早く油を絡めてご飯をパラパラにしていく。

ちなみに、冷たいご飯だとほぐれにくいし、炊き立てのご飯だと水分が多く水っぽくなりやすいので、解凍したご飯やパックのご飯などの方がパラッとしたチャーハンを作りやすい。

木べらご飯をほぐし、油分でお米一粒一粒にコーティングさせるイメージで混ぜたら、ほぐしておいた辛子明太子一腹半と顆粒のかつお出汁小さじ二杯をご飯の上に広げ、フライパンを振って二つ折りにしてほぐす動作を繰り返しながら炒めていく。

具材が大体混ざったら、みじん切りにした大葉十枚とみじん切りにしたいぶり漬け三十グラムをフライパン全体に広げるようにして加え、さらに炒め混ぜる。

仕上げに、醤油を大さじ一杯。

この時、醤油はチャーハンではなくフライパンの縁に沿って鍋肌にかけるように加えると、焦がし醤油になって美味しい。また、今回は辛子明太子を使っているので、口当たりを柔らかくしたい人は醤油の代わりに濃縮出汁などを使うと少し優しい味わいになるので試してみてほしい。


――ジュワッ。


一思いに醤油を回しかければ、小気味のいい音と共に湯気が立ち、香ばしい匂いが部屋中に広がる。しかしここで焦がし醤油の香りにうっとりしているとチャーハンが焦げてしまうので、気を抜かずに手早く醤油とチャーハンを炒め、火を止める。

強火にかけたフライパンは熱く、火から下ろしてすぐに混ぜるのをやめてしまうと焦げ付いてしまうので、パチパチと焼ける音がしなくなるまで数回混ぜ続けてからコンロから外す。

ここまで来たら完成まであと少しだ。

ラップを敷いたお椀に出来上がったチャーハンを詰めてお皿を被せてひっくり返し、いそいそとお椀とラップを外せば、桜色の明太子と緑色の紫蘇が散りばめられた半球状のチャーハンが姿を現す。

最後に、チャーハンの山の上からお好みで小口葱を散らしたら完成である。



――我ながらいい出来だわ。



鮮やかな色合いと食欲を誘う香りに自画自賛しつつ時計を見れば、コンロに火を灯してから完成までにかかった時間は七分強。

その間フライパンを振り続けていたから利き腕が若干プルプルしてるけど、美味しいチャーハンのためなので後悔はない。あとは食べるだけだしね!

ウキウキした気分で食卓に二人分の明太子チャーハンを運び、保温しておいたわかめスープを小ぶりのどんぶりにたっぷり注げば、待っていた勇人君の目が期待に輝く。

こういう時の彼の表情は高校生らしくて、とても微笑ましい。


「いい匂いですね」


 そう言って、手持無沙汰にしていた先ほどまでとは違う意味でそわそわしだした勇人君の呟きに笑みを深め、私も心持ち急いで椅子に座る。

頑張って炒めたんだから、熱々のうちに食べないと――、


――グゥ!


立ち昇る湯気に逸る心のまま食卓に着いたまさにその時、心の中で呟いた台詞に返事するかのように私のお腹の虫が元気よく鳴いた。


「………………」

「………………」


なんとも言えない微妙な空気が広がり、訪れる沈黙。

 私のお腹の虫は、どうしてこのタイミングでそんな元気よく鳴いちゃったのか。

しかも先ほどのように控えめではなく、こんなにも大きく……。

丁度席について勇人君に声を掛けようと顔を見たところだったので、丸く見開かれた目とバッチリ視線がぶつかっていて滅茶苦茶気まずいし、なんとも恥ずかしい。

 ――あ、穴があったら入りたいっ!

 たいして広い部屋ではないのでさぞかしよく聞こえただろうお腹の虫に、頬がカーと熱を帯びていくのがわかった。しかし時は戻らず、先ほど響いた音はなかったことにはならないわけで。

 これでは年上の威厳もなにもないなと自嘲の笑みを零しつつ、私は意を決して口を開く。

 顔は熱いしとっても気まずいけど、この状況を作ってしまった張本人として、また年上の大人としてこの場をどうにかしなければ。

折角作ったご飯も冷めちゃうしね!


「……とりあえず、食べよっか」

「そっ、そうですね」


 対応に困っているのか、笑いを噛み殺しているのか、頷いた勇人君の声は上ずっていた。けれども彼は先ほど腹の虫や私の赤くなっているだろう顔に言及することなく、スプーンを手に取る。

 女性に恥をかかせまいとする勇人君の優しさは美徳だけど、いっそ笑ってくれた方が私の心の傷は浅かった気がする……。

 まぁ、自業自得だし、彼の精一杯の気遣いに文句は言うまい。

 こうなったら、さっさと美味しいもの食べて忘れよう。

 そう自分を元気つけて私もスプーンを持ち上げて、親指の根元で引っかけるように持ち両手を合わせる。次いで勇人君と一度目を合わせたら、食事の挨拶だ。



「「いただきます」」



 まずはスプーンを濡らすためわかめスープを飲む。

 その途端口一杯にニンニクと胡麻油の香りが広がり、柔らかくなったわかめと長葱を噛みしめれば野菜の甘さと鶏ガラスープの味が混ざり合い、時々黒胡椒のピリッとした刺激が鼻を抜けていっていいアクセントになっている。全体的にしっかりした味のスープに仕上がっているので、ここに白ご飯を投入して卵で閉じたらさぞかし美味しいに違いない。

 今日の夕飯の主食はこれにしようと考えながら次に目指すのは、辛子明太子と紫蘇の和風チャーハン。

ためらうことなく綺麗な半球にスプーンを突き立てて、桜色と緑色が入り混じるチャーハンを掬い上げて頬張る。

 香ばしい醤油と辛子明太子で味付けられたチャーハンを味わっていると、時々爽やかな紫蘇やいぶり漬けの燻製の香りが顔を覗かせ舌に楽しい。その上刻んで入れたいぶり漬けのコリコリした食感と沢庵に似た大根の甘さが食感や味に緩急をつけてくれるので、いくらでも食べ続けられそうな気がする。

 その気持ちに逆らうことなく二口目、三口目と食べ進めてわかめスープを飲んだら、スプーンを置いてお箸に持ち変える。

そうして次に食べるのは、セロリと燻製イカの漬物だ。

野菜の水分を吸って柔らかくなった燻製イカとショリショリしたセロリの歯触り、なにより噛みしめれば噛みしめるほどに出てくる燻製イカの旨味と胡麻油の香りがたまらない。

ものすごくお酒が飲みたくなる。

というか、私はこれだけで延々と飲んでいられる。

――多めに作ってあるし、今晩はこれで晩酌しよう。

そう心に決めて、それならメインは冷凍してある唐揚げを揚げ直して油淋鶏にでもしようかと思い馳せる。その間も食べる手は止まらず、黙々と食べ進めていた私はそこでふと、勇人君が静かなことに気が付いた。

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