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【深木】はらぺこさんの異世界レシピ  作者: 深木【N-Star】
第一章
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№5 そぼろの二色丼 4

 ――浸水してる間に具材を作っちゃおう。


 今日は卵かけご飯のつもりだったけどお客様がいるので予定を変更して、卵と鶏肉で二色丼にするつもりだ。海外の方に生卵はハードルが高いらしいという話を聞いたことがあるからね。たださえお米を食べるという行為は敷居が高いようだから、ちょっとした優しさである。

 

 というわけで、まずは炒り卵。

 いつもならば鶏の卵に砂糖と塩を混ぜて炒る。

 しかし砂糖なんて高級品にはまだ手が出ないので、カリーナさんが分けてくれた蜂蜜で代用しようと思う。蜂蜜でもレイスが目を見開いて立ち上がるくらいには贅沢な品なので、おもてなし料理を作るには最適、二色丼をより豪華な物にしてくれるはずだ。


「お前、それは……」

「カリーナさん、ここの奥さんが分けてくれたの。ご馳走してあげるって言ったでしょ?」


 そう言って笑えばレイスはなにか言いたそうな様子で口をパクパクと動かしていたけど、無視して調理を進めれば少しして諦めたのかストンと再び腰を下ろした。

 逸らされることのない視線をひしひしと背に感じながら私が机に置いたのは魔石コンロとフライパン。魔石コンロは勇者様が語った地球の話を元に大国の魔法使い達が開発した代物で、火加減の調整が可能、し かも動力となる魔石に魔力を溜めておけば魔法が苦手な人でも簡単に使えるという大変ありがたい設計となっている。


 ――勇者様はここの人達がすごく好きだったんだろうな。


 魔王が討伐されるまでの五年間で勇者様がもたらしたという様々な恩恵の内容を聞いた時、そう思った。だって魔王と戦争しているというのに彼が行なったのはスプーンやフォークなどのカトラリーの普及に魔石コンロや魔力式水洗トイレの開発、学校や病院の設立など、生活改善に重きをおいたものばかりだったから。

 だからこの世界の人々もまた、勇者様を愛したのだろう。

 彼の願い通り、こうした道具が広く普及しているのがなによりの証拠だ。

 

 ――ありがたく、使わせていただきます。

 奇しくもトリップ前に私が出会った最後の人となった男子高校生の顔を思い浮かべながら心の中で手を合わせて、私は魔石コンロのつまみをひねる。

 今日はそぼろ状にするつもりなので火加減は弱火。油を引いたフライパンを温めている間に、調味料を加えた卵を木製のフォークで混ぜていく。ちなみに今回は卵三個に蜂蜜大さじ一杯と塩を三つまみ、卵液を作る際はグルグルかき混ぜるよりも卵白を切るイメージで一文字を書くように往復させる方が手早く綺麗に混ざる。

 そろそろいいかな……。

 フライパンの上に卵液を一滴落としてパッと色が変わり固まるのを確認したら、残りの卵もすべて投入。次いでフランパンの中を塗りつぶすようにフォークを縦横無尽に細かく動かしながら、卵液をそぼろ状にしていく。フライパンが温まり過ぎてそぼろ状になる前に卵が固まってしまいそうになったら、一度コンロから外して濡れ布巾に乗せるなどして温度を下げてあげると失敗が少ない。

 そうして完成した炒り卵をお皿に出してたら、フライパンは汚れを軽く拭き取り油を塗っておく。

 一回ずつフライパンを洗うのは面倒なのでこのまま使うためだ。

 人によっては嫌がるかもしれないが私は気にしない。それに異世界での洗い物は大変なのでできるだけ回数は少なくしたいし、連続使用することを考えて味の薄い炒り卵を先にしているので鳥も卵も同じ味なんてことにはならないから私的には問題ない。

 ――ということで鶏そぼろの準備を始めましょうかね。

 カリーナさんが分けてくれた掌大の鶏肉から皮を外しなるべく細かく切り刻んだあと、トントンと包丁で叩いてミンチにしていく。

 柔らかく少し粘り気がではじめれば完成だ。

 

 ミンチができたら合わせ調味料の準備。

 といってもみりんや酒や生姜はないので、醤油と蜂蜜を一対一の分量で混ぜ合わせるだけなんだけどね。

 見た感じ鶏肉はスーパーの小さいパック三つ分、おおよそ三百グラムほどと思われるので蜂蜜と醤油を大さじ三ずつ。

 ちなみに我が家では調味料を火にかける前にミンチに直接混ぜ込んでおく。こうした方が炒めた時にお肉がほぐれやすくなるからだ。

 あとは炒り卵と大体同じだけど火加減は少し温度を上げて中火で、フライパンが温まったら味付けた鶏ミンチを投入して木製フォークを動かしながらそぼろ状にしていく。次いで汁気がなくなるまで煮詰めていくのだが、使用した部位によっては油が浮いてくるのでその場合はスプーンですくい取りつつ炒り煮すれば完成だ。

 こちらもお皿に移しておき、フライパンに水を張って冷やしたらついにお米の出番である。

 チラリとレイスを見れば出来上がった二色のそぼろを凝視している。蜂蜜や焦げた醤油と鶏油の香りに刺激されたのかお腹を盛大に鳴らしながら、穴が開くほどそぼろ達を見ている。

 まさかここまで来てレイスが狼藉を働くことはないと思うけど、アンバーの瞳に籠もる熱量に少し不安になったので念のため釘を刺しておくことにしよう。


「お米を炊いたらできるからもう少し待っててね?」

「――ああ」


 聞いているんだかいないんだかわからない返事に少し不安を感じつつ、私は炊飯に取りかかるため浸水していたお米をザルに移して余分な水をきった。しっかり吸水して白くなったお米を鍋に移した私が次いで手に取ったのは、最初にお米を量るに使った小鉢サイズの入れ物である。

 日本ならばお米を米びつに入れておけばボタン一つで何合か計れるし、水加減は炊飯器の内釜に書かれたラインどおりに注げばいいけど、ここは異世界。

 お米一合や炊くのに必要な水を計量してくれる容器もなければ、家庭用の秤もない。ではどうやってお米と正しい水分量を計るかといえば容積、ようは見かけの量で量る方法になるわけで。

 私が大学時代に教わった水分量は重さならば米の重量に対し一・五倍、見かけの量ならば米の容積に対し一・一倍。古米か新米かまた米の品種などによって水加減は多少前後するが、そのくらいの差は数回炊けばなんとなく調節できるようになる。

 というわけで今回は小鉢で十杯米を擦り切ったので、水は十一杯入れておく。あとは蓋をして鍋を魔石コンロに乗せたらいよいよ炊飯だ。

 大学生の時は調理実習のたびに鍋でお米を炊かされる意味はあるのかと思っていたけど……。

 案外必要になる時は訪れるものである。

 友人達となんで炊飯器を使わせてくれないのかと先生方に文句を言ってしまったことを、今心から反省している。あの日々があったからこそ、私はこうして異世界でも白米を食べることができているのだから。

 懐かしい日々に想いを馳せつつ、私はお米と水を入れて蓋をした鍋をコンロに乗せて火を点ける。

 まずは中火で五分、沸騰するまで待つ。

 鍋の中からブクブク音が聞こえたり、蓋がカタカタ鳴るなどして沸騰していることが確認したら、弱火にして十三分。

 最後に焦げないよう注意しつつ強火で五分ほど過熱して鍋肌の水分を乾かしたら、火を消して十分くらい蒸らして完成だ。

 ちなみに、時間は両親から就職祝いにもらった手巻き式の時計で計っている。

 電池交換をしに行くのは意外と面倒だし、社会人になるのだからこういった物を手入れしながら長く使ってみるのもいいだろうと言ってちょっと奮発してくれた両親のお蔭で大助かりだ。

 

 二人とも元気にしてるかなぁ……。

 就職してからほとんど連絡を取ってなかった両親について考えつつ、時計を隠しながら時間を計り火加減を調整することしばし。



 ――美味しそう。

 つやつやと輝くご飯を木杓子でほぐしてホカホカと上がる湯気を吸い込めば、日本人ならば自ずと口元は緩むというもの。

 鍋炊きならではのおこげもしっかりできていることを確認した私は一日の疲れも忘れて、ご飯を持ってレイスが待つ机へ向かう。

 さぁ、ご飯の時間だ!


「できましたよ」


 そぼろに魅入っているレイスの注意を引くようにドンとご飯が入ったお鍋を置けば、ようやくアンバーの瞳が白米を映した。


「…………これがあの米か?」


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