プロローグ
光のベールに包まれて暗転した世界。
背に感じる柔らかな草の感触に目を開ければ、綿あめみたいな白い雲とオーロラが揺らめく青い空が一面に広がっていた。
「…………最悪だわ」
ジンジンと痛む背中に顔をしかめた私は青空に広がるオーロラを睨みながら声に出して悪態を吐く。
天高く遠ざかった光のベールに歯噛みしながら思い出すのは、近所の公園で数分前に見た光景だ。
私が跨いだのと同じ柵を跳び越えて驚くべき速さでこちらに駆け寄る男子高校生と、握っていたコンビニの袋ごとオーロラに吸い込まれていく自身の左腕。
ユウトと呼ばれていた高校生が必死に手を伸ばしてくれていたけれども、私の右腕を掴むことはできなくてむなしくも空を切っていた。
そして視界が光で埋め尽くされたかと思えばエレベーターで数十階を一気に降ったような浮遊感に包まれて一瞬の暗転のち、この状況である。
大学を卒業して社会人となり、せっせと働くこと早四年。
異世界から男子高校生が帰還するという非日常的な光景に年甲斐もなく浮かれた私も悪かったのだろうけども、これはあんまりではなかろうか。
怒りを上回る虚無感に、ただボーと空を見つめる。
泳いだら気持ちよさそうなほど澄み渡った青空と神々しく輝く光のベールが心底憎たらしかった。




