表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/126

種族間の葛藤

「……ニルヴァ市、だと……?」

 サクヤはそこで初めて目を見開いた。

「……まさかあんた、ニルヴァ市の住人なのかよ」


「僕じゃないさ。こっちのコトネがそう」


 名前を呼ばれ、コトネがぺこりと頭を下げる。いつも通りというべきか、かなり恐縮しているようだ。


 対するサクヤもいくらかテンションが落ちたようだ。姿勢を正し、どこか遠い目をする。


「……そうだな。あれも国からの依頼だったが……おかしかった。ギルドに回ってくる仕事にしちゃ、規模がでかすぎる」


 そう。

 さっきサクヤは、余り物の仕事をギルドが請け負うと言っていた。


 だが――

 ニルヴァ市を殲滅するという依頼は、余り物にしては大きい。

 小さな集落ならともかく、ニルヴァ市は地方都市と言ってもいいくらいの規模はあった。それを滅ぼすのはかなりの大仕事のはずだ。


 なのにその依頼はギルドに押しつけられた――

 サクヤは沈鬱な空気を払うかのように首を振った。


「いま、人間界じゃある都市伝説が出回っててな。国王と魔王ワイズが密約を結んでたっていう噂さ」


「…………」


「くだらねえ与太話だと思ってたが、たしかに辻褄が合う。密約を結んでいる以上、ニルヴァ市を滅ぼそうがどうしようが、どうでもいいからな。国王は大事な兵士を失わないために、わざわざ俺たちに依頼を押しつけて、戦争してますよっていう体裁だけ保っていたわけだ……」


 まあ、そういうことだろう。

 そしてその陰謀のために、多くのギルドメンバーが死んだ。いくらサクヤが奔放な性格であろうが、これを笑い飛ばせるほど無神経ではあるまい。実際、あの襲撃で二百人もの人間が死んだ。


 見れば、周囲の男たちも沈鬱な表情を浮かべていた。死んだ二百人のなかには、当然、彼らと親しかった者もいるのだろう。それがナイゼルの策略により殺されたのだ。


 ――いや。

 策略がどうこう以前に、その二百人を殺したのは……


「正直に言おう」

 僕は真っ直ぐにサクヤを見据えた。

「その人間たちを皆殺しにしたのは……僕だ」


「な、なんだと……!?」


 サクヤがまたも目を見開いた、その瞬間。

 ガタン! 

 乾いた音が響き渡った。

 椅子から立ち上がった男たちが、再びそれぞれの武器を手に持ち、僕に向けて構えてくる。


 今度はみな無言だ。すべての者が厳しい視線を向けてくる。


「待て待て。落ち着けおまえら」


 サクヤは立ち上がり、男たちを宥めていく。

 数秒後、彼女は目線だけを僕に向けた。


「エル。おまえ一人で殺したってのか?」


「そう。ま、正確にはもう一匹いたけどね」


「に、二百人の戦士だぞ? たしかに大して強くもねえ奴もいたが……それでも、一人で殺すのは不可能なはずだ」


「それが……エル君はとっても強いから……信じられないと思いますけど、本当なんです……」


 と言ったのはコトネだった。


「でも私、エル君が間違ったことをしたとは思ってません。だって……あなたたちは、私の街を滅ぼそうとしたんですよ? エル君がいなかっったら、私も、お父さんもお母さんも、みんな死んでた……。それだけじゃない。あなたたち人間に、私は……」

 そこまで言い掛けて、コトネはぐっと言葉を飲み込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ