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冒険者ギルド

 冒険者ギルド――


 その建物は意外にも小さかった。


 扉の上に《GUILD》という看板が掛けられていること以外は、たいした装飾もない。殺風景な木造の建築だった。


 まあ、それも仕方がないのかもしれない。

 街や人を守る職に就きたいのであれば、いま僕たちを護衛している兵士のように、城に仕えればいいだけだ。


 それが叶わないあぶれ者たちの巣窟なんだろう――という予想を立てながら、僕はギルドの扉を開こうとした。


 のだが。


「お待ちください」

 ふいに、護衛の兵士が背後から声をかけてきた。

「……よもや、ギルドにご予定が?」


「そういうわけじゃないよ。ただ……見てみたくてね」


「見てみたい……ですか」


 兵士は呆れたように首を振る。


「失礼ながら、ギルドは皆様にとってやや危険な場所。どうか、別の場所を観光してくださいますようお願い致します」


 ――ま、当然こうなるよね。


 だいたい予測はついていた。

 以前ニルヴァ市を襲った人間たちは、風紀という言葉からはまるでかけ離れた、粗暴な感じの戦士だった。なかに入れば、多少の騒動は免れないだろう。


 しかし、こればかりは譲れない。僕にも聞きたいことがある。


「悪いけど――僕が出てくるまで、そこで待機しててくれないかな。もちろん、僕がギルドに入ったことは忘れること」


 言いながら、サイコキネシスを兵士にかけてやる。僕の両目からわずかな魔力が発せられ、兵士の身体を包み込む。


「あ……う……」

 兵士はがくんと首を落とした。

「カシコマリマシタ……ココデ、オマチシテオリマス……」


「結構。――さ、コトネ、行こう」


「う、うん」


 ギルドの扉を開ける僕に、コトネは慌ててついてきた。





 室内には、合計で六人もの人間がたむろっていた。

 さっきまで全員で談笑していたようだ。あちこちに配置されたテーブルを囲み、人間たちがワイワイ騒いでいる。


 横暴に椅子に座り、テーブルに足を掛けている人間たちは、《野郎》という言葉を連想させた。床には新聞だの武器だのが散らばっていて、これまたなんとも汚らしい。


 ちらりと目線を走らせると、ところどころに掲示板のようなものが見受けられた。何枚かの紙も貼ってある。これこそが、いまは亡き人間が言っていた《依頼》というやつか。


 人間たちの視線が、さっと僕たちに集められ――そして、僕の角、そしてコトネの尻尾を捉えた。


 ガタン! 

 突如として大きな音が響きわたった。


 ひっとコトネが身を竦ませる。


 見れば、体格の良い筋骨隆々の男が、勢いよく椅子から立ち上がったところだった。


「あんだ? てめェらまさか――」


「エル。それからこっちはコトネ。見ての通り魔物さ。以後、お見知りおきを」


 僕の素っ気ない挨拶に、室内は一気に喧噪に包まれた。

 みな急いで立ち上がると、警戒したようにそれぞれの武器を手に取る。


「なんだ一体。魔物の襲撃かよ!」

「どっちにしろ、ぶっ殺しておくに越したことはねえようだな」

「囲め! 一気に叩き潰すぞ!」


 ――やれやれ。


 取り付く島もないとは。

 兵士はさっき《やや危険》と言っていたが、それどころではない。

 目が合っただけで喧嘩が起きるとは……魔物と人間の確執は、思った以上に深いようだ。


 ため息をつき、僕は右手を前方に突き出した。とりあえずサイコキネシスをかけて、落ち着かせるのが優先だろう――


 と。


「なんだなんだァ?」

 僕が魔力を発する前に、新たな人物が姿を現した。

「うるせーと思ったら、なんだ、魔物かよ」


 かなり荒っぽい口調だが、女の声だ。

 視線をそちらに向けると、ギルドのカウンターと思わしき場所に、身の引き締まった女性がいた。カウンターの奥には扉がある。そこから入ってきたようだ。


「へえ」

 僕は思わず口を鳴らした。

「驚いたよ。君……女性だけど、このなかで一番強いようだね」


「ほほー。わかるかよ」


 僕の発言に、女性はニヤリと笑った。この緊迫した状況で、なかなかの肝っ玉である。


 女性はさっと人間たちを見渡すと、迫力のある声で叫んだ。


「三大国平和会議に備えて、魔物界の有力貴族たちが入国したとの情報が入った。こいつらもその一員だろう。警戒する必要はねえ。エモノを納めな」


「お、おう……」


 男たちは素直に頷くと、言われた通りに武器をしまった。


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