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なんで戦うのかわかんないね

 ――お、俺たちはただ……ギルドに載ってるおいしい依頼をこなしにきただけだ! 街を殲滅させれば、たくさんの報酬がもらえるって……!――


 以前、ニルヴァ市を襲った男はそう言っていた。


 ギルド――すなわち、冒険者たちの派遣所。


 男たちは《ニルヴァ市を殲滅させよ》という依頼をギルドから受け取り、言われた通りに行動しただけ。

 というわけだ。


 当時は僕がいたから良かったものの、運が悪ければ、街の住民も、そしてコトネも帰らぬ魔物となっていた。


 ならばこそ確かめてみたい。

 ギルドなる場所が、いったいどういうところなのか。

 ニルヴァ市の住民が言うように、本当に悪魔の住まう場所なのか。

 この目で見てみたい。


 コトネも異論はないらしく、僕の提案に黙って頷いた。彼女も気になっていたのだろう。自分の故郷を滅ぼそうとした組織なのだから、それも当然ではあるが。


 ホテルの部屋を出ると、すぐさま武装した兵士が歩み寄ってきた。どうやら近くで待機していたようだ。彼は片手を腰に当てると、やや不遜な態度で言った。


「私があなた方の護衛を務めます。全力を尽くしますが、万一のためにも、危険な場所へは入らないようお願い致します」


 言葉遣いこそ丁寧だが、声のトーンにはどこか邪気が感じられた。なんで俺が俗物の護衛をしなきゃいけないんだ――という、不満めいた感情が透けて見える。


「…………」


 正直、僕もあまり良い気はしない。護衛なんてそもそも不要だしね。


 だが、この場合は仕方ないだろう。勝手に拒否して、会議に支障を来すわけにもいかない。


「……ありがとう」


 短く礼を言い、僕たちはホテルを出た。


 兵士はこちらから一定以上の距離を取りながら、《観光》の邪魔にならない程度に付き添ってきている。その威圧感を察してか、人間たちも僕たちには近寄ってこない。もちろん、奇異な視線に晒され続けている状況は変わらないけどね。


 しかし、本当に――


「思ったけど、私たちも人間も、あんまり変わらないんだね……」


 コトネが縮こまりながら言った。彼女の手を取りながら、僕は返事をする。


「うん。中身もたいして変わらないさ」


「……なんか、変な感じ……」


 コトネが怯えながらも、不思議そうに周囲を見渡す。

 一部の魔物は、獣型だったりゾンビ型だったり――あまり容姿に恵まれない種族もいるが、ほとんどの魔物は、人間とさして見た目が変わらない。


 僕には角が生えていて、コトネには尻尾が生えている。人間との違いはせいぜいそれくらいだろう。

 だからこそコトネは驚いているのだ。魔物と人間が、あまりにもそっくりであることに。


 であれば、そもそも戦争の理由ってなんだろう――嫌でもそう考えざるをえない。


 ノステル魔学園でも、人間は絶対悪として教育されていた。きたる戦争に備えて、人間に負けないように魔力を鍛える――それが学園の存在意義だった。


 なのに、いま目の前にいる人間たちは僕たちと酷似している……

 コトネも同じことを考えていたのだろう。悲しそうに俯いている。


 僕は彼女の頭を優しく撫でてみせると、薄く微笑んでみせた。


「大丈夫さ。このためにシュンが会議を提案したんだ。きっとあいつが良く進めてくれるさ」


「だといいんだけど……」 


「…………」


 彼女の不安は痛いほどよくわかる。


 いくらシュンが優秀な国王といえど、魔王ルハネス、国王ナイゼル、そして創造神ストレイム……彼らもまたくせ者だ。会議がどのように進行していくのか、長らく世界を眺めてきた僕でさえ予測がつかない。


 ――ま、僕もできるだけのことはやってみせよう――


 心中に確かな決意を抱きながら、僕は首都サクセンドリアを歩き続けた。



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