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建て前の挨拶ほどつまらないものはないよね

 ――たしかに。


 現時点において、ルイスの立場は非常に危うい。


 魔物界の頂点に立っているだけに、敵も多いのだ。


 時期魔王を狙っていた、他の有力貴族。

 はたまた、ルハネスの政策に賛同しかねる活動家たち。

 権力そのものを嫌う魔物たち。


 その他、数えあげればキリがないほどに、ルイスには多くの敵対者が存在する。まさに《魔王の息子》になってしまったがゆえの、不可抗力的な重責ともいえる。


 だからテルモは言ったのだ。

 たとえルイス本人に拒否されようとも、生涯をかけて彼を守ってみせると。


 そこまで決意が堅いのであれば、僕に止める資格はないだろう。彼らも優秀な学生だし、ただの馬鹿ではないはずだ。


 と。

 緊迫した状況には不釣り合いな、軽快な楽曲が流れ始めた。


 これは――ラッパの音だろうか。

 思わず足踏みしたくなるような音楽が数秒響いたあと、ゴゴゴゴ……という轟音とともに門が外側に開いていく。


 コトネがびくりと肩を竦ませ、テルモがごくりとつばを呑み、その場にいた全員が固唾を飲んで見守るなか――


 ついに、史上初ともいえる、人間と魔物の平和的な接触が行われた。


 開かれた門の先には、外見が見事に《軍人》という職にハマっている人物がいた。


 豪快に白髪を生やしており、筋骨隆々な肉体はまさに歴戦の戦士を思わせる。彼がこの場の責任者ということか。

 視線をすこし奥にずらすと、武装した兵士たちが縦に向かい合う格好で通路をつくっていた。


 やはり警戒されているようだ。


 名目上は平和のための訪問だが、人間と魔物はまさに犬猿の仲。おいそれと友好な態度は取れないということだ。


 それでも一応の配慮はしてあるようだ。

 僕たちを歓迎する旨のプラカードを持った人間たちが、そこかしこに見受けられる。彼らは門が開かれるなり、黄色い声をあげて僕たちを出迎えた。見る限り、あれは演技ではなく本当に喜んでいる。


 おそらく、人間界でも左翼系の連中だろうか。対話を重視し、魔物たちも受け入れるべしという考えを持った人間たちだろう。


「こほん」

 開口一番、先頭に立った白髪の軍人が威厳ある声を響かせた。

「魔物界の方々、この度はご訪問くださいましてありがとうございます。私は第一魔術師団の団長、エルモア・レグナスです」


 エルモアと名乗る老人が声明を発表をしたあと、今度はルハネス・アルゼイドが一歩前に進み出た。事ここに及んでもまったく動じないさまは、さすがといわざるをえない。


「こちらこそ、豪勢なお出迎え感謝致します。私はルハネス・アルゼイド。魔物界にて、魔王を務めている者です」


「ほう、あなたが……まだまだお若そうなのに、壮健でいらっしゃいますな」


「エルモア殿こそ、素晴らしい魔力を秘めていらっしゃいますな。感服致しました」


 それぞれに建前の誉め言葉を口の端に乗せながら、両者は短い握手を交わした。


「私が首都への案内役を務めます。どうかご同行願います」



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