表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/126

魔神なら回復もお手のもの

「う……」


 呻き声とともに倒れる男を、僕は無感動で見下ろした。


 ――たった一撃。


 あれほど魔物に畏怖され、強すぎるとまで言われた人間が、僕の前に、たった一撃で倒れた。


 そのことに対して、オークやカノーネはまさに驚きを隠せないようだ。

 あんぐりと口を開け、僕と死んだ人間とを交互に見つめている。


 さて。


 僕は生き残りの人間たちに目を移した。

 その数、約九十と言ったところか。


 古代竜の登場と、代表格をたった一撃で死亡させた僕に、かなり戦意を消失しているようだ。人間たちはあちらこちらでたたらを踏んでいる。


 このまま人間たちを壊滅させるくらいわけはない。


 だが……

 僕は大きく息を吐くと、警備員たちの方向へ歩き出した。


 そして、現在の最強戦士――オークに、うっすらと微笑みかける。


「悪いんだけどさ。急な用事ができてね。この場は任せてもいいかな」


「な、なぬ……!」


 オークが大きな眼をぎょろりと剥く。


「心配いらないよ。リュザークもしばらくここにいてもらう。君たちだけでも勝てるだろう?」


「し、しかし、俺には、足が……」


 悲痛な表情で自身の足を指差すオーク。


 なるほど。

 いくらリュザークがいるとはいえ、警備員たちでは人間ひとりにすら勝てるかどうか怪しい。


 もしかしたら隙を突かれて殺されるかもわからない。


 仕方ないか。


「治してあげるよ。……ほら」


 僕は治癒魔法を発動し、片手をオークの足にかざした。

 純白の輝きがほのかに輝き、そして薄れていく。


「どうだい。もう動けるだろう」


「なにを馬鹿いって……あ」


 オークは大きく目を見開いた。そのまま数歩歩いてみせる。


「い、痛くない……どういうことだ……」


「ただの治癒魔法だよ」


「お、おまえ……何者なんだ……回復魔法使いでもすぐには治らないと言っていたのに」


 魔物の弱体化。それは戦闘面だけじゃなかった。

 たいしたことのないオークの怪我さえ、いまの医師たちはすぐに治せない。


 ……このぶんだと、鍛冶や生産面、あらゆる面で魔物が弱体化している可能性がある。


 僕はふっと苦笑いを浮かべると、片手をひらひら振って歩き出した。


「なんでもいいじゃん。じゃ、僕はこれで」


「お、おい……!」


 オークの制止も聞かず、僕はひとり、ニルヴァ市へ走り出した。




 

 最初から違和感があった。


 街を襲撃しにきた人間は、約二百人。


 その気配は、ニルヴァ市の正面からだけではなかった。


 僕の感知が正しければ、《もうひとり》いる。


 しかも、気配の消し方が他の人間より格段にうまい。大魔神たる僕を欺くことはできなくても、そこそこ腕が立つ戦士でさえ、この気配には気づけないだろう。


 だから、二百人の襲撃は陽動ようどうだと思っていた。

 二百人が魔物と戦っている間に、残りの部隊が街の中枢を叩く。

 そんな作戦だろうと思っていた。


 なのに。


 代表格の男はなにも知らされていなかった。


 あいつらは、はじめから人形にすぎなかった。


 何者かがいる。

 みずからの手を汚さず、ニルヴァ市を壊滅させようとしている何者かが。


 そいつはいま、街中を素早く移動している。

 住民の多くが屋内に避難している現在、かなり動きやすいことだろう。


 瞬間。


「うっ……!」


 頭部に形容できない激痛を感じ、僕は立ち止まった。頭を抱え、そのままうずくまる。


 脳に多くの情報が押し込まれてくるかのような、そんな重い痛みだった。


 ――ハヤク、キテ――


 ふいに可愛らしい女の声が脳裏に響きわたり、僕ははっとした。


 慌てて周囲を見渡すも、もちろん誰もいない。

 気づけば頭痛も綺麗さっぱり収まっていた。


 ――なんだったんだ、いまのは……


 僕はかつて、いまの少女の声を聞いたことがある気がした。だがいくら記憶を手繰り寄せようとしても、なにも浮かんでこない。かなり入念に記憶を封印されているようだ。


 この先になにが待ち受けているのか。


 それはわからない。


 けれど、うまくいけばきっと、僕の過去が明らかになる……

 それを原動力に、僕は再び走り出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ