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神を超えた闘い

「へえ……?」


 僕はぱちくりと目を見開いた。


 大魔神エルガー・ヴィ・アウセレーゼ。


 その正体を知ってもなお、僕に戦いを挑もうとしてくるとは。

 たいていの者は軽く魔力を見せびらかすだけで戦意喪失するか、彼我ひがの実力差もわからない馬鹿者だった。


 だがシュンは違う。

 彼は恐ろしい強さを持っている。

 もちろん、僕の実力にも気づいているはずだ。

 そのうえで勝負を申し込んできている。


「すごいね君。そんな面白いことを言うヒトは君が初めてだよ」


 そしてシュンの眼光を受け止め、にやりと笑ってみせる。


「いいだろう。受けて立つよ」


「はっ、そう来なくっちゃな」


 シュンも不敵な笑いを浮かべると、前傾姿勢を取る。右腕を上、左腕を下に構えたその様子からは、まったく隙がうかがえない。これまで何度も死線をくぐり抜けてきたのが窺える。


 ――強い。やっぱり。

 元熾天使の力を借りたというが、僕としては驚かざるをえない。神でもない、ただの人の身でここまでの境地に達するとは。


 単純な強さだけじゃない。色々なものを乗り越えてきたんだろう。だから強い。身も心も。


 久々ともいえる、ちょっとした戦闘欲とでもいうべきワクワク感を抱きながら、僕も構えを取った。


 とはいえ、別にたいしたものではない。両腕を垂らし、背中をやや曲げると、あとは全神経をシュンに集中させた。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 コトネが張り詰めた声を発する。

「戦うって……まさか、ここでやるつもり!?」


「問題ないよ。彼とならね」


「えっ……!」


 コトネが目を見開いた、その瞬間。


 僕とシュンは、ほぼ同時に地面を蹴っていた。

 互いに右腕を突き出す。

 光速で突き抜ける拳が激突し、火花を散らす。


 その衝撃で暴風が発生し、轟音が鳴ったのはそれから数秒後のこと。


 コトネが衝撃音を感知し、身を竦ませ、後ずさる前には、僕とシュンは次の行動に出ていた。


 ほぼ同じタイミングで、二人は宙に浮く。両足に魔力を付加し、浮遊する魔法である。


 二人は徐々に高度を上げていき、やがてぴたりと止まった。眼下を見下ろすと、すっかり粒の集まりになってしまった城下町が見通せる。昨日リュザークに飛んでもらった高度よりさらに上だろう。


 今頃、コトネはなにが起きたのかさっぱりわからないだろう。二人がぶつかり合った頃には、もう姿が消えていたのだから。


「コトネなら大丈夫さ。ロニンがしっかりサポートしてくれてるはずだかんな」


 数メートル先に浮くシュンが、構えを取りながらそう言った。

 僕も同じくさっきと同じ姿勢を取ると、苦笑いを浮かべた。


「それは有り難いんだけどね。彼女にはあまり心配かけたくなくてさ。楽しみたいのは山々だけど、あんまり時間かけらないよ?」


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