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ルハネスの部 【新魔王の包囲網】

「なるほど。まさかそのような返答を頂くとは……さすがに予想しておりませんでしたよ」


 ルハネス・アルゼイドは含み笑いを浮かべると、すこし安心したように背もたれに身を預けた。


「ですが、そういうことならご安心ください。最も安全で、血の流れない結果を保証致しましょう」


「へえ……」


 これはまた大きく出た。

 それだけ自信があるということか。


 ややあって、さっきまでずっと沈黙していたコトネが口を開いた。


「ひとつ……聞かせてください」


「ふむ。なんだね?」


「もし、あのままシュン国王の仲裁がなければ――あなたはニルヴァ市を犠牲にしてでも首都を攻撃しましたか?」


「ほほう」

 ルハネスは感心したように二回頷いた。

「良い着眼点をしているな、とだけ言っておこう。回答は差し控えさせていただく」


「え……」


「安心するがいい。私の見立てがうまくいけば、今後一切、魔物が人間に襲われなくなることを保証しよう」


 要領を得ない答えに、僕も同じく背もたれにふんぞり返った。


「はぐらかすねえ。これが政治家ってやつかな」


 だが、ルハネスの考えはだいたい掴めた。

 信用ならない部分はあるものの、彼は魔物界を一応守る気のようだ。その手腕のほどは、昨日、嫌というほど見せつけられている。


 権力のままに好き勝手振る舞おうものなら始末しようとも考えていたが、とりあえずその必要はなさそうである。


 僕はちらりと隣のコトネを見た。

 だいぶ緊張している。あまり長居するのは良くないだろう。


 互いに状況確認が終わったところで、僕はソファーから立ち上がった。


「じゃ、もういいかな。まだ話はあるかい?」


「……では最後に、ひとつだけ聞かせていただきたい」

 ルハネスも同じく立ち上がる。

「ナイゼルについている神……創造神について、あなたはなにかご存知ですかな?」


「なに……」


 さすがに目を見開いてしまう。

 魔王とはいえ、一介の魔物でしかないルハネスが、創造神の存在をも知っているというのか。


 いや。

 違う。

 僕の存在だって世間に知られていたし、《神話》とやらで創造神の存在が広まっていてもおかしくはない。


 問題は、その創造神がナイゼルと手を組んでいる事実まで知っていることだ。


 いったいなぜ。

 この男はどこから情報を入手しているのだ。

 それらのことを瞬時に考え、僕は長身のルハネスを見上げた。


「なぜそれを知っている……と聞いても、ま、答えてくれないよね?」


「フフ。申し訳ございません」


「そしたら僕も教えたくないね。……と言いたいところだけど、こちらはなにもわからない。創造神の企みは、僕にもまだ掴みきれていないんだよ」


「なるほど……そうですか」


 ルハネスは表情を変えず、両腕を腰にまわすと、またも予想外の発言を放った。


「なにはともあれ、私の目的は変わりません。創造神が我が覇道を阻むのであれば……遠慮もなく、慈悲もなく、徹底的に叩き潰してやるまでです」


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