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やっぱり謎だよね

 ゴトゴトゴト――と。


 振動音だけが、馬車のなかで控えめに響いている。ふと窓を仰ぎ見れば、高速で移りゆく外の世界。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 学園を出てから約五分。

 誰一人として喋ろうとしない。


 コトネはガクガクに緊張しているし、ユイは変わらずニコニコしているだけだし、ルイスは偉そうに頬杖をついている。


 このスピードだと、魔王城まであと二十分はかかるだろう。その間、気まずすぎる沈黙に耐えなければならない。


 ルイスもルイスだ。

 せっかくユイを誘ったのだから、この機会になにか話せば良いのに。これではユイが気の毒だが、彼女のニコニコ笑いからは感情がまったく読みとれないので、これまた厄介である。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 ……仕方ない。

 僕もコミュニケーションは大の苦手だけど、このまま無言が続くよりかはマシだ。真正面に座るユイに目を向けると、

「そういえばさ」

 と話しかけてみる。


「ニルヴァ市から引っ越してきたって言ってたけど……大体いつ頃なんだい?」


 彼女ほどの美女であれば、前魔王が企てていた誘拐事件に巻き込まれていてもおかしくない。

 そう思っていたのだが、返ってきた答えで安心した。


「そうですね。実は昨日、引っ越してばかりなのです」


「そっか……」


 であれば、ワイズの被害者ではあるまい。

 とはいっても底の知れない女だ、もしかすればルーギウスごときには捕まらなかったかもしれないが。


「昨日か。ずいぶん急だな」


 そこでやっとルイスが口を開いた。

 ――なんだよ、話したかったんなら最初からそうしろよ。


 という不満を必死に抑えていると、ユイが「んー」と考える仕草をした。


「ルイス様のいらっしゃる前で大変恐縮なのですが、先日、ナイゼルがニルヴァ市を盾にしたでしょう。それに危機感を抱いた両親が、すぐに引っ越しを決めた形です」


「マ、マジかい……」


 思わず僕は目を見開いた。

 ナイゼルとルハネスの《会談》が昨日の夕方。その日のうちにここまで引っ越し、さらに入学手続きまでしてきたということか。さすがに無理がある気がするが。


 しかしルイスだけは得心がいったらしく、

「なるほどな」

 と相づちを打った。


「つまりは……おまえも貴族の出自か」


「ええ。貴族とはいっても、すこし特殊ですけれど」


「……そうか」


 などと言って二人で完結してしまう。

 僕もすこし気になるところではあったが、それを聞くより先にユイが口を開いた。


「あなたのこともよく存知あげております。コトネさん」


「え……」


 急に話を振られたコトネが目を見開く。


「なんでも、つい最近までは植物状態だったとか。無事治ったようですね。おめでとうございます」


「は、はい……その、ありがとうございます」


 そこでユイは一瞬だけ僕を見ると、再びコトネに目を戻した。


「あなたの入院していた病院に、なんと襲撃者が現れたそうですね。赤ローブを被った人間で……不可解な点があったとか」


 僕は思わず目を細めた。


 ――この女。

 なにかを知っていそうだ。


 たしかに、あの赤ローブには《サイコキネシス》が通用しなかった。催眠をかけて尋問してやろうと思ったら、その前に自爆してしまったのである。


「……不可解だね。どうして君がそこまで知ってるんだい?」


「さきほど申し上げましたように、私も貴族の生まれでして。市の情報には詳しいのです」


 そこでユイはもう一度、ぺこりと頭を下げた。


「……大変失礼しました。私もあの人間のことが気になっていまして……不愉快なことを言ってしまい、申し訳ございませんでした」


「いや、その、私はいいんですが……」 


 コトネが遠慮がちに手を振る。


 そんな奇妙な雰囲気を滲ませながら、馬車は刻一刻と魔王城へ近づいていった。


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