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人間たちでは、僕の右腕(伝説の古代竜)にすら敵わない

「なんだ、あれは……!」


 人間たちにざわめきが広がった。


「で、でかい……」

「お、俺、本で見たことあるぞ……。伝説の古代竜、リュザークだ……」

「こ、こここここ……古代竜だと!? 魔王にも匹敵する化け物じゃないか!」


 いい反応だ。

 僕の魔力は感知できなくても、リュザークの強さは感知できるらしい。


 すこし悲しいけれど、まあ当然の話でもある。リュザークは見た目からして超怖いからね。


 それにしても……

 人間たちはいま、懐かしい言葉を口にしていた。


 ――魔王。

 徐々に記憶が蘇ってくる。


 たしか、魔物たちの頂点に立ち、圧倒的な力を持つ王……だった気がする。


 反して、人間たちの頂点に立つ者は、政治的には国王であったり、戦士としては勇者であったりするわけだ。


 すこしずつ思い出してきた。


 魔物と人間の戦争――かつて、そんな世界を覗いてきた気がする。


 いま僕が召還せしめたリュザークも、実は魔王と同じくらい強かったということだ。意外に頼もしい味方である。


 その古代竜は、ぱっとこちらを振り向くと、その巨体には見合わない甲高い声を発した。


「大魔神エル様! 光栄でございます! 早くも私めを呼んでくださったのですね! 私、これ以上ない幸せを――」


 そのまま抱きつこうとしてくるものだから、裏拳で吹き飛ばしてやった。


「ぎゃふん」


 可愛い女の子ならいざ知らず、あんなでかい竜に飛びつかれても嬉しくもなんともない。


 すると再び、人間たちの間にまたしてもどよめきが広がった。


「お、おい、あいつ、古代竜をぶっ飛ばしたぞ……」

「しかも大魔神とか言ってたよな。大魔神ってまさか……」

「嘘だろ? 魔神とか神話の世界だぜ」

「け、けどよ、大魔神だったら古代竜を召還してもおかしくねえだろ?」


 まずい。

 僕の正体がばれてしまったようだ。


 背後を振り返ると、警備員の魔物たちが凍り付いたように僕を見つめてくる。


 面倒なことになったな……


 魔物たちはともかくとして、人間たちは殺すしかあるまい。

 僕を口実にしてまた攻めてこられたら、さすがに気分が悪いから。


「リュザーク。命令だ」

 うずくまる古代竜の背中に、鋭い声を投げかける。

「その人間たちを殲滅しといて。あ、代表格っぽい男は残しといてね。僕が始末するから」


「か、かしこまりました!」


 古代竜は甲高い返事をすると、人間たちに振り向き、一転してドスの効いた濁声だみごえを発した。


「そういうことだ。冥界で己の不運を嘆くがいい」


「く、来るぞ! 全力で迎え撃て!」


「で、でも相手は伝説の古代竜……」


「構うな! こちらは二百人! 勝てぬ戦いではない!」


 人間たちが、慌てたように各々(おのおの)の武器でリュザークに襲いかかる。ある者は剣で、ある者は斧で、またある者は魔法で竜を攻撃するが、しかしリュザークはびくともしない。


「ふむ。ぬるいな。これが貴公らの全力か?」 


「ば、馬鹿な! こんなことが……!」


「喰らえ。《アシッドフォール》」


 言い終えるなり、リュザークは大きく口を開き、黒光りする炎を噴射した。


 にごりひとつない漆黒の業火に、半数以上の人間が呑み込まれた。阿鼻叫喚あびきょうかんの悲鳴が炎のなかから聞こえる。


 人間たちにはなすすべもないらしい。


 当然だ。

 僕が見た限り、あの人間たちに、リュザークに対抗できる者はひとりもいなかったのだから。


 数秒後、炎と煙が空に消え、あとには人間の焼死体しょうしたいだけが残っていた。


「ば、馬鹿な……」


 あとに残された代表格の男が、顔を真っ青にし、数歩後ずさる。


 その人間の背中を、僕はぽんと叩いてみせた。


「ひっ!」


「どう? これでも喋る気にはなれないかな?」


 にっこり微笑みかける僕に、人間はかくかくとした動作で振り向いた。


「貴様……いつのまに、俺の、後ろを……」


「これくらい容易たやすいことことだよ。さっき古代竜も言ってただろう? 僕はね、大魔神なんだよ」


 言いながら、指先で男の首筋を撫でてやる。


「そう、簡単なことなんだよ。君の首をこのままちょん斬ることもね。君も死にたいかい? ――仲間たちのように」


 男の肩がびくりと跳ねた。


「ひい! ひいっ! 頼む! い、命だけは……」


 滑稽こっけいな話だ。


 さっきまで問答無用で魔物を殺そうとしていたくせに、自分が弱者の立場になると途端にこれだ。


「でも、君だけは助けてあげないこともない。さっきの僕の質問に答えてくれたらね」


「…………」


 男はごくりと唾を飲み、黙り込んだ。


 さっきの質問というのは、誰がニルヴァ市の情報を人間世界に提供しているのか――ということだ。


 最強の戦士らしい《アリオス》なる魔物がいないときに限って、襲撃が立て続けに起きた。これは不自然であり、どこからか情報が漏れていると考えるのが妥当だ。


「すまない……。それに関して、俺はなにも知らない」


「嘘を言ったら殺すけど?」


「ほ、本当に知らないんだ! 信じてくれ!」


 ふーん。

 僕は鼻を鳴らした。


 こいつは傀儡かいらいだ。

 なにも知らされず、強者によって使い回されるだけの凡人。


「お、俺たちはただ……ギルドに載ってるおいしい依頼をこなしにきただけだ! 街を殲滅させれば、たくさんの報酬がもらえるって……!」


「ギルド? なんだい、それは」


「冒険者たちの派遣所……といえば、わ、わかってもらえるか?」


「ふうん。ま、いいよそれは」


 ギルドか。

 一度、調べておきたい言葉だ。


「さ、さあ、お、俺にわかることは全部話したぜ! か、帰してくれるよな?」


「ああ、ごめん、気が変わったよ」


 男の背後で、僕は口の両端を吊り上げた。


「僕の正体を知られた以上、生かしてはおけない。じゃーね」

 僕はなんのためらいもなく、男の首を手刀で切り裂いた。


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