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本物の忠誠心

「ルイス様……ど、どうして……」


 取り残されたルイスの《元》取り巻き生徒が、切なそうにルイスの背中を見送っている。


 他の生徒たちも同様、黙って彼の背を見つめるばかりだった。


「…………」


 そんな元取り巻きたちに、僕はある種の驚愕を覚えていた。

 いくらルイスが名門貴族の出とはいえ、ここまで《家来》たちに忠誠心を抱かせていたとは。彼らの様子を見ていると、身分とは関係なく、心底から尊敬されていたように思える。


 いままで小馬鹿にしていただけに、それが少々驚きだった。


 なかでも殊更ことさら切なそうな表情をしている男子生徒に、僕は興味を惹かれた。ブレザーの胸ポケットに《テルモ》という名札がついている。そういえば、いつもルイスから一番近いところでご機嫌取りをやっていた気がする。


「そんなにショックなのかい?」


 僕の問いかけに、テルモはゆっくりと顔を上げる。


「ん、君は……。ああ、ルイス様のラスボスだったな……」


「……いつからラスボスになったのかな」


 ふうとため息をつく。

 たしかにいままで小馬鹿にしていたのは確かだけど。


 テルモは力なげにうつむくと、弱々しい声で言った。


「貴様にはわからんだろうが、ルイス様は素晴らしいお方なのだ。名門貴族なのに、我々のような爵位しゃくいの低い貴族家をみんな受け入れてくれて……お優しい方、なのだ……」


「へぇ……。彼にそんな一面がねぇ」


 にわかには信じがたいが、とはいえ僕もルイスのことをなにも知らない。嘘だと決めつけるのは早計だろう。 


 見れば、他の家来たちがうんうんと頷いている。みんなテルモと同じ印象をルイスに抱いていたということか。


「なのに……なぜ!」

 テルモは近くの壁をどんと叩いた。

「あんなに優しくて、誰をも受け入れてくれた方が……なぜいきなり我々を拒否しだしたのだ! エル! 貴様の仕業か!」


「いやいや、それは飛躍しすぎでしょ」


 僕は二度目のため息をついた。


「……でも、たしかに気になるね。あそこまで強気なあいつは初めて見たよ」


「そうだろう!? きっとなにかがあったに違いないのだ!」


 テルモはそう自己解決すると、くるっと振り返り、家来たちに大声で叫んだ。


「ルイス様はああ仰っていたが、我々の忠誠心はこれしきでは薄れん! そうだろう、みんな!」


 おう! という声が響く。


「ルイス様本人のご意向ゆえ、いまはお近づきにはなれないが……。それでも陰で支えていこう! それが我々の使命だ! そうだろう!」


「おおおお!」


 なんというか、すさまじい結束感である。

 やはりルイスの人間性は本物なのかもしれない。でなければ、ここまで尊敬されることはあるまい。


「ね、エルくん」

 コトネが裾を引っ張ってきた。

「どうする? これから」


「ん。そうだね……」


 僕にもルイスに用がある。そのために登校してきたようなものだ。


 すなわち――ルハネス・アルゼイドとの面談を果たすため。


 さっきまではサイコキネシスで無理やり案内してもらおうと考えていたが、それは今しがた諦めた。


 なぜならば――ルイスにも施されていたのだ。サイコキネシスをかけられたら、みずからを爆破させる魔法を。


 赤ローブの人間、ルーギウスに続いて、これで三体目だ。


「やっぱり、なにかが起きているね……」


 人間界と魔物界の戦争だけでなく、なにか不穏なことが始まろうとしている。


 それを肌に感じながら、僕とコトネは校舎に向けて歩き出した。



 

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