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これは対談なのだろうか

「と、とんでもないね……」


 僕は思わずひとりごちた。


 ルハネス・アルゼイド。

 彼が新魔王に就任したことで、戦況が一気にわからなくなった。


 いや――人間界との緊張がより一層増したというべきか。


 両国の戦争が始まってしまう日も近いだろう。そしてそれは、ロニンたちの想いに反することも意味している。


「す、すごすぎる……」

 コトネが呆れ顔で言った。

「唐突すぎて、私みたいな一般人にはついていけないよ。これからどうなるのかな……」


「さあねえ……」


 長い間世界を眺めてきた僕だが、何気に歴史の分岐点に来ているんじゃなかろうか。


「ともかく、戦争を予防するのが第一だろうね。ルハネスはああ言ってたけど、魔物界が不利なのは変わってない」


 そもそも、僕だって戦争に参加するつもりはない。

 ルハネスの言った通り、コトネが戦場に巻き込まれでもしたら――そのときはわからないが。


「ねえ、エルさん」

 ロニンが困ったような顔で言った。

「……どうして、ルハネスさんはこのタイミングで声明を発表したと思いますか?」


「えっ? そりゃあ、支持率を高めるためじゃない?」


「それもあると思います。でも、先制攻撃のことを大々的に発表したら――相手に聞かれるかもしれないのに……」


 ロニンが言いかけた、その瞬間。


《ご高説は聞かせてもらいましたよ、ルハネス殿》


 またもや、僕たちの脳裏に、今度は爽やかな男の声が響きわたった。


「こ、これは……」


 僕は心臓を鷲掴みにされるような驚愕を覚えた。


 これはさっきのような全体放送ではない。僕たちの聴覚に直接語りかけてきている。

 そう、五感を直接刺激する、創造神ストレイムの魔法のように。


《おっとご紹介が遅れました。私はナイゼル・リィ・フィラルダ。人間世界のトップを務めております》


「ナ、ナイゼルだって……?」

「いまの放送を聞いてたのか……?」


 喫茶店の客たちが口々に喚く。


 やはりそうだ、と僕は思った。

 ストレイムの助けを得て、今度はナイゼルが僕たちに語りかけてきている……


 数秒後、ナイゼルは柔らかい口調のまま言った。


《ルハネス殿におかれましては魔王就任、おめでとうございます。私たちの関係がどうあれ、首領が決まるのはお目出度いことであります》


《フフ……》

 この怒濤の大展開に、ルハネスはむしろ威厳のある笑みを発する。

《ご配慮、感謝申し上げましょう。ひいては我が魔物界も順調に成長していければと思います》


 建前の会話はここまでだった。

 みなが黙り込み、重すぎる沈黙が広がるなか、話を切り出したのはナイゼルだった。


《しかしながら、こちらとしては誠に遺憾いかんです。私は事前に通告をしたではありませんか。魔物界の幹部が降伏を認めるならば、民までは殺しはしないと。それでもあなたは――この無謀な戦いに身を投じるおつもりですか?》


「え……」

「そんな通告があったのか……」

「でもさっき、魔王様はそんなこと言ってなかったよな……?」


 客たちが呟いた。


《……クク、ハハハハ》 


 続けて、ルハネス・アルゼイドの重厚な声が店内に響きわたる。


《何故、城下町にしか発信していないことを貴殿が知り得たのか……それについては、あえて聞かないでおきましょう。ちまたで囁かれている、密約と同じようにね》


《おやおや、なんのことだかわかりませんな》


 なんとも胃が痛くなるようなやり取りだ。


 腹の読み合い、探り合い……

 会話の当事者でなくとも、聞いているだけで緊張を覚えてしまう。実際、隣のコトネは険しい表情で国王の《対談》に聞き入っていた。


《もし、いまの先制攻撃発言を撤回されないのであれば……》 


 そしてナイゼルは、あまりにも衝撃的な発言を行った。


《そちらの国の地方都市――ニルヴァ市に攻撃する準備がすでに整っています。それでも攻撃するおつもりですか?》


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