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深まっていく謎

 気づけば夕暮れ時になっていた。

 窓から差し込む光が、儚げなオレンジ色を帯びている。


 僕は案内されるままに宿におもむき、ベッドの上に寝転んでいた。


 柔らかい。

 長らく棺桶のなかにいた僕にとっては、ベッドの生地は文字通り極上に感じられた。


 室内には、食事用の丸テーブルや、作業用の机、風呂、トイレなどが備え付けられている。


 所定の時間には店員が食事を持ってきてくれるというし、なかなか良い宿なのかもしれない。


 ――これからどうするか。

 枕に顔をうずめながら、僕はふと、そんなことを考えた。


 正直、やることがない。

 魔物が弱体化していたり、ステータスなるものが登場していたり、不可解な点はいくつかあるが、僕には関係ない。


 このまま気ままに、世界を飛び回り、スローライフを送るのもいいだろう。


 僕には大魔神だ。生きるのに困ることはない。


 それにしても。

 いったいなんだろう。


 この街に来たときから、妙な胸騒ぎがする。

 失われた記憶のピースが、この近辺に隠されている――ような気がするのだ。あくまで予感でしかないが。


 ……もういいや。考えるのも面倒くさい。


 僕は寝返りを打ち、仮眠を取るべくを両目を閉じ――そしてぱっと上半身を起こした。


 この気配は……!

 僕は部屋から飛び出し、宿の外に走り出た。




 夕日が地平線に沈み、そこかしこに設置されている街灯が明かりを主張し始める。


 家屋や商店の窓から、こちらも眩い輝きが発せられている。

 夜に差し掛かったとあって、住民の姿は少なかった。ほとんどの者が家に帰ったらしい。


 そのなかにあって、ひとり、街の出入り口でただずんでいる者がいた。さきほど市長の護衛をしていた魔物――オークだ。


 彼はこの街の警備員――そういう職業名なのかは知らないが――を務めているようだ。


 槍を地面に突き刺し、街の外へ視線を固定させている。


「やあ」


 その背中に、僕は少々間抜けな声をかけた。


 振り向いたオークは、僕の姿を認めるなり、明らかに表情を歪ませた。


「……おまえか。何をしにきた」


「いや別に。妙な気配を感じたから、助太刀してあげようと思ってね」


「妙な気配、だと……?」


 どうやら気づいていないらしい。

 こんな鈍感な魔物が警備を務めているなんて、僕としては不安でしかない。


「じきに人間が攻めてくるよ。おおよそ二百人といったところかな」


「に、二百人、だと……!?」

 オークがぎょろりと目を見開き、声を荒らげる。

「馬鹿も休み休み言え! 人間の姿などどこにも見えないではないか!」


 やれやれ。

 僕はため息をつき、両肩をひょいと持ち上げた。


「目だけじゃなくて、相手の《気》を感じられるようにならないと、一人前の戦士とはいえないよ」


「な、なんだと……」


「でも、そろそろ姿が見えてくる頃じゃないかな? ほら、あっち」


 そう言いながら、僕はある一点を指さした。


 その方角から、ちらちらと光が瞬いているのが見える。

 松明を持った人間たちが、大勢でこちらに向かってきているのだ。


 もう目視でもわかる。


 敵の数、約二百人。


 オークは身体をぶるぶる震わせ、地団駄を踏んだ。


「馬鹿な! なぜだ! なぜアリオスさんがいない時に限って、こんなにも襲撃が続くのだ!」


「……アリオスさん?」


 片手で顔を覆ったオークが、指の隙間から、ぎょろりと目線だけを僕に向ける。


「……ニルヴァ市における最強の剣士にして、最高の達人だ。あの方さえいれば、人間など取るに足らん。そのアリオスさんが主張中に限って……お、俺は、自分の街さえ守れぬというのか!」


 悲痛な雄叫びを発するオークに、僕はある疑問を感じざるをえなかった。


「そういえば……君、足を負傷してるんだよね。警備は他の魔物に任せたほうがいいんじゃない?」


「できるかそんなこと! アリオスさんがいない現在、最強の戦士は俺なのだ! 俺が守らずして、誰が街を守る!」


 ――なるほど。

 薄々感じていた違和感が、さらに肥大化してきた気がする。


 たった三人でニルヴァ市を襲った人間。

 時同じくして、たった二人で洞窟を探索した人間。


 おかしいのだ。

 いくら魔物が弱体化しているとはいえ、たったそれだけの人数で、ニルヴァ市を壊滅させられるわけがない。


(……まあ、僕だったら簡単にできるけど)


 そして、ニルヴァ市にはいま、最強の使い手らしきアリオスなる魔物がいない。


 あまりにタイミングが良すぎるのだ。


 ニルヴァ洞窟で、人間たちは言っていた。


 ――こいつを倒して、経験値をもらおうぜ――


 経験値がどういう物なのかは知らないが、魔物を倒すことそれ自体が、人間たちにとってなんらかのメリットだということだ。


 すなわち、この街のどこかにスパイがいる可能性が高い。でなければ、アリオスがいないタイミングで、こうも襲撃が立て続く理由が不明だ。


 そうして安全に魔物を狩ることで、人間たちは経験値を得ていたわけである。


 ――そして、こちらは理由不明だが、現在、二百人でもってニルヴァ市を壊滅せんとしている。 


 そこまで考えて、僕はオークににっこり微笑みかけた。


「ねえ、手伝ってあげようか? 街を守るのをさ」


「な、なにを……!」


 オークは目を剥いた。


「馬鹿を言うな。おまえごときの魔力では、人間ひとりでさえ適わぬ!」


「まあまあ、そう言わずに見ててよ」


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