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正直、小物臭ただよう貴族だよね

 あの後、創造神ストレイムは一瞬でいずこへと姿を消した。


 おそらく、僕たちが見ていたのは《幻影》だったと思われる。すぐ近くに存在すると見せかけておいて、ストレイム本人ははるか遠方の地にいたというわけだ。


 そして。


 魔王による誘拐事件は、多くの魔物が知るところになった。

 被害者の女性たちが解放されたのである。

 当然のごとく、魔物界は大騒ぎになった。


 実際の被害総数は八十四件。

 僕の想像以上に、多くの魔物たちが辱められたわけだ。その女性たちが当時の辛さを語っていくにつれ、魔王ワイズに対する反感が募っていったのだが、奴はもういない。


 謎の失踪を遂げた魔王に、魔物界は大荒れした。


 さらに。


 そのタイミングを狙ってか、人間界のトップ――ナイゼルが、魔物界に公式に宣戦布告を申し出てきた。


 それは即時、魔王城の幹部に通達された。


 魔王なき現在、幹部たちは慌てふためき、愚かにもその宣戦布告を巷間こうかんに知らしめることとなってしまった。


 当然、民衆は恐慌に陥った。

 魔王ワイズが謎の失踪を遂げ、有力候補だったストレイムも去り、次期魔王すら決められていないこの状況で――人間軍が攻めてくる。


「世界の終わりだ」とどこかの魔物が言い出したのがきっかけで、魔物界はすでに暗い雰囲気に呑み込まれている。


 創造神ストレイム。

 国王ナイゼル。

 両者の登場により、まさに《激動の時代》が始まりつつあった。


 このままでは、魔物界はそっくりそのまま、人間たちに喰い尽くされてしまうだろう。


 ――ただ。

 すべてが絶望的というわけではない。


 魔王ロニン。

 そしてシュロン国の王――シュン。 


 彼らが強力な助っ人となり、僕たちに協力してくれることとなったからだ。


  ★



 ノステル魔学園。教室。


「はい、これで今日の授業は終了です」

 先生の声が大きく響きわたる。

「世間は大騒ぎになっていますが、みなさんはしっかりと勉学に励んでください。……委員長、号令を」


「はい。起立、礼――」


 委員長の号令とともに授業が終わり、放課後が訪れた。


 だが、せっかく勉強から解放されたというのに、教室には活気がない。みな一様に険しい顔つきで家へと帰っていく。


 その理由は考えるまでもないだろう。

 魔王ワイズの失脚に、人間界の宣戦布告――この怒濤の大展開は、学生たちですら絶望に包み込んでいる。


「ふう……」


 僕は息を吐くと、教科書を鞄に詰め込み、椅子から立ち上がった。


 今日はあの魔王ロニンと喫茶店で《話し合い》をする予定である。その際、彼女の夫も同行してくれるようだ。


「おい」

 そうして歩き出そうとした僕に、ふいに声をかけてくる者がいた。

「ちょっと待て。話がある」


 この声は……


 なかばうんざりしながら振り向くと、そこに予想通りの顔があった。


 ルイス・アルゼイド。

 実技試験の際、僕が神級魔法でボコボコにした相手である。


「……なんだい? このあと用事があるんだけど」


「ふん、そんなのはどうだっていいだろう」


「…………」


 あまりに傲岸不遜ごうかんふそんな物言いに、さすがにムッとしてしまう。


「わからないか。名門貴族たる僕の話のほうが重要なんだよ」


 見れば、ルイスの取り巻きらしい魔物たちが、演技がかった仕草で「うんうん」と頷いている。こいつらはたしか、ルイスよりちょっと位の低い貴族の子息たちだった気がする。


「君さ」

 僕は心底あきれながら言う。

「いまの状況で、《貴族》なんてものが当てになると思っているのかい? 下手したら魔物界そのものがなくなるってのに」


「う、うるさい! 俺に指図するな!」


 ルイスは顔を真っ赤にして叫んだ。


「い、いまは集団下校が義務付けられているだろう。君はたしか鬼のように強かったな。俺の護衛に任命してやるから、有り難くついてこい」


「……はぁ」


 本当にうんざりだ。

 どんな用事かと思えば、こんなどうでもいいことを言いにきたのか。


「そんなに家来がいるなら心配ないでしょ。気をつけて帰るんだね。お坊ちゃま」


「な、お、俺の命令を断るのか!?」


「うん。君の護衛なんて死んでも御免だよ」


 なおも長々と言い募ってくるルイスに、僕はくるりと背を向け、教室を後にした。


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