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企み

「や、闇の剣聖……? なんか聞いたことあるな……」


 ルーギウスが辿々しい口調でひとりごちる。


 彼にはもう知性の欠片も残っていないようだ。汚らしくよだれを垂らし、目線も覚束ない。


「まあ、どうデもいいか。いまの俺は《通常》ノ魔王様にも匹敵する……どんな奴にも負けなィ」


 考えることを放棄したようだ。

 そのまま二本のナイフを逆手に持ち、戦闘の構えを取る。



「ふっ。魔王に匹敵か。笑わせる」

 アリオスは苦笑いを浮かべた。

「――魔王ごときと同程度の力で、俺に勝てるつもりか?」



「な、なんだト……?」


「ひとつ教えてやろう。《闇の剣聖》はな、魔王よりもはるか上をいく存在なのだよ。……まあ、魔神ほどではないがな」


 言ってから、アリオスは数歩だけ前に進み出た。

 と同時に剣を振りかぶり、ルーギウスの心臓部分を呆気なく突き刺す。


「え……?」


 ルーギウスがきょとんとした表情で自身の胸部を見下ろす。剣と肉体の隙間から、どろどろと血液が流れ出てくる。


「己の幸運に感謝するんだな。痛みすら感じずに逝けるのだから」


「ば、ばかなッ……!」


 あまりにも速く、あまりにも簡潔。

 それがルーギウスの最期だった。

 ルーギウスは白目を剥き、そのまま動かなくなった。


  ★


「ほほう。しばらく見ない内に、ずいぶんと豊満な身体になったようだな……」


 目が覚めたのは、そんな声に呼ばれてだった。

 ――ここは、どこ……?

 ぼやける視界で、コトネはなんとか周囲を見渡す。


 眩しい。

 さまざまな金属類や宝石があちこちに散らばっており、すさまじいまでの輝きを放っている。壁面には芸術性のよくわからない絵画が何枚も掛けられていて、所有者の趣味の悪さがうかがえる。


 ――所有者?

 そこまで考えて、コトネはかっと目を見開いた。


 全身に鳥肌が立つのを感じる。


 ――たしか私は誘拐犯を捕まえるための《囮》を名乗り出て、それから……それから――


 自分の直感が正しければ、ここは……


「目を覚ましたかね。コトネくん」


 もう生涯聞きたくないとすら思った、特有の濁声だみごえ


 目線を向けると、近くの椅子に座っている魔王ワイズが、頬杖をついて嫌らしい笑みを浮かべていた。


「……っ!」


 反射的にコトネは動こうとした。

 だが身体が動かせない。


「クク、そう慌てなさんな。おぬしは動けない。頑丈に縛りつけているからの」


 その言葉は真実だった。

 両の手足が、壁面の拘束具にがっちりとはめ込まれている。

 大魔神エルガーならともかく、コトネの筋力では壊せそうにもない。


 それでもなおコトネはもがき続けた。一刻も早くこの場から逃げ出さねばならない。


 さもないと……!

 そんなコトネの心境を知ってか知らずか、ワイズはまたしても笑い声をあげた。


「フフ、拘束具などわしの美的感覚にはまったくそぐわないのだがね。しかし、そこに美しいメスが加われば別。取り付けてよかったというものだよ」


「あ、あんた……!」

 この発言。やはり。

「誘拐事件の犯人は……、魔王ワイズ、あんただったのね……!」


「やれやれ人聞きの悪い。わしは魔王。自国民をどう扱おうが、儂の自由ではあるまいか?」


「こ、この……!」


 どうりで警備隊が動かないわけだ。

 こいつは、自分が魔王であることを良いことに、多くの女性を傷つけてきたのだ。


「だが、コトネよ。おぬしは他の女とは訳が違う。ふふ、生意気な魔神の悔しがる顔を見るのが楽しみだ……」



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