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みずぼらしい二人

 ――魔王城。


 門番ヘイシは口に手をあてがい、大きな欠伸をした。


「ふわあぁあ、ねみぃなあ」


「気を抜くなよ。魔王様に殺されっぞ」


 そう言ったのは同じく門番のリックだ。といっても、彼自身もかなり眠そうではあるが。


 今日はニ体で魔王城の警備を任されている。

 夜中の交代時間まで、ずっと立ちっぱなしというわけだ。


「んなこと言ったってよぉリック。やることなくて暇なんだよぉ」


「ふん、まあそれには違いないが」


 ここ魔王城には最強の魔王、ワイズが住んでいる。魔物はもちろん、人間でさえ、そうそう魔王城を攻めてくる者がいるはずもない。


 そう、そのはずだったのだ。

 これまでも、そしてこれからも。


「今日はもうシコって寝ようぜ――ん?」


 もう一度欠伸をしかけたヘイシは、異様なものを見て目を細めた。


 魔王城と城下町とを繋ぐ大橋。

 そこに、ニ体の魔物が歩いてくるのが見て取れたからだ。沈みゆく夕日を背景に、実に凛然りんぜんたる歩みっぷりである。


「お、おいリック。こんな時間に訪問者の予定なんてあったか」


「いや。聞いていない」


 であれば、地方から来た観光客か何かか。

 常識をわかっていない馬鹿な平民がたまにやってくるのだ。


 ――くるなよ、面倒くせえ。

 ヘイシとリックが睨みつけるも、ニ体の《観光客》は物ともしない。相も変わらず、堂々たる歩みで近寄ってくる。


 よくよく見れば、闖入者のうち一体は学生服を着ていた。しかもかなり小柄だ。


 もう一体は学生ではなさそうだが、みずぼらしい茶色のレザーコートを身にまとっている。たいした魔力も感じられない。本当の大馬鹿どもらしい。


 ……いい加減、腹が立ってきた。


「おい貴様ら、いい加減にせんか!」

 ヘイシは声高に叫んだ。

「この場所をどこだと心得る! なんの申請もなしに来られる場所ではない! 去れ!」


 しかし相手側はまったく動じなかった。

 それどころか、学生服の男が、身も凍るような瞳でこちらを見据えてきた。


「うるさいな。――殺し合え」


「なにっ……!?」


 瞬間――ヘイシの身体が勝手に動いた。

 自分の意志とは反し、ヘイシは鞘から剣を抜くと――隣のリックに振りかぶった。


「なっ、お、おまえ、なにをする!」


「ち、違うんだ! 身体が勝手に……!」


 そう言っている合間にも、リックも同様に剣を差し込んでくる。彼も同じく、意志とはまったく違う動きをしてしまっているようだ。


「なんだこれは、さ、催眠術か……!?」


「うるさいと言っただろうに。――黙れ」


「(ん、んーっ!)」


 いったいどういうわけだ。

 学生服に命じられただけで、ヘイシも、そしてリックも声ひとつ出せなくなった。


 そのようにして、ヘイシとリックは剣をぶつけあい、すぐ近くを通っていく学生たちの侵入を許してしまうのだった。


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